たそがれ/麻布十番

元麻布で好評を博した一軒家フレンチ「麻布れとろ」がリブランドオープン。移転先は暗闇坂近くで、1階には安田食堂が入居しているスタイリッシュなビルディングです。
店内はカウンター7-8席のみの狭小レストラン。以前が割に大箱だっただけに、全く別のお店に変わったなあという印象を受けました。それでも黒板手書きのアラカルトメニューは健在で、相変わらず旨そうな料理が盛りだくさん。これだけバラエティに富んだ料理をシェフおひとりで対応しながら、それでいて待たされた記憶は全く無く、凄腕中の凄腕です。
ワインはフランス産が中心で6千円台から始まり、このあたりのフランス料理店の相場といったところでしょうか。我々はボトルで通しましたが、お料理に合わせてグラスワインもご提案頂けるようです。
まずはフキノトウとエビすり身のフリット。フキノトウの独特のほろ苦さと香りにエビの旨味が良く合います。サクサクとした口当たり含め、シャンパーニュにピッタリだ。
牡蠣と焼き葱のマリネ。旨味がギュっと凝縮した牡蠣。それをマリネにすることで、牡蠣の旨味がさらに引き立ち、奥深い味わいが生まれます。焼いた葱は甘味が増して香ばしい。ハーブもたっぷりで、やはりワインにピッタリです。
ニシンのレアチーズケーキ。聞いただけでは謎過ぎる料理ですが、本当にレアチーズケーキで驚きました。もちろん甘味は控えめで、その代わりにニシンの旨味たっぷり。魚の脂とチーズがこんなにも合うとは驚きです。酸味で全体を上手く整理しており、本日一番のお皿です。
玉ねぎとサクラエビのキッシュ。玉子の風味と玉ねぎの甘味が支配的で、シンプルながら実にリッチな味わいです。土台のサクサクとした食感とバターの風味が、具材の美味しさを引き立てます。
鯛のフライを注文したのですが、少しだけ生でもお出し頂けました。これは大変なことになるぞと予見される品質の高さであり、続く料理の魅力的な予告編と言えるでしょう。
鯛のフライ。予告の通り大変上質な個体であり、淡白な味わいでありながら、上品な旨味を奏でます。それをフライにすることで、外はサクサク、中はふっくら。もうそれだけで美味しいのに、独特な仕立てのタルタルソース(?)を用いての味変も素晴らしかった。
サワラの瞬間燻製。春を告げる魚であり、脂がのって身はシットリ。それを燻製にすることで、燻香含めて極上の味わい。鼻腔をくすぐる芳醇な香りが食欲を掻き立てます。
メインに鹿カツ。なんともぶっきらぼうな料理名ですが、その名の通り質実剛健で実質的な美味しさ。鹿肉特有の野性味溢れる香りが揚げることでまろやかになり、ジビエが苦手な方でも楽しむことができるでしょう。トンカツソース(?)のノスタルジックな味わいもツボります。

以上を食べ、けっこう飲んでお会計は3万円弱。それほど飲まないのであれば2万円に着地する価格帯であり、このクオリティの料理をしっかり食べてこの支払金額はリーズナブル。「麻布れとろ」時代に比べて高級志向になりましたが、それに見合った食後感。割烹料理店のような自由な雰囲気もすごくいい。大好きだ愛してる。

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日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。

スタンド 富(とみ)/天王寺

天王寺駅から歩いてすぐのルシアスビル地下レストラン街にある「スタンド 富(とみ)」。夜は海鮮系の居酒屋ですが、ランチタイムは魚介類を中心とした定食を楽しむことができます。ちなみに写真の奥に見える行列は、これまた大人気の「スタンドふじ 本店」です。
店内は厨房に面したカウンター席に、小さなテーブルがいくつか。ラーメン屋とそう変わらないキャパなので、グループで訪れるのは難しいでしょう。1-2人でお邪魔するのがベストです。
私は一番人気の「たっぷり刺身盛定食」を注文。1,280円です。食べる前から「この店はアタリだ」と確信した瞬間です。
お刺身は十数種類という物凄まじいラインナップ。東京の雑な居酒屋の刺身盛であっても3-4千円は請求されそうです。もちろん質は中くらいでありスーパーで買うものと大差ありませんが、であればこの量がこの金額で楽しむことができるのは大変お値打ち。
ライスは一般的な定食屋のもの。大盛無料であり、殆どのおぢはそうしていました。私は普通盛りです。
小鉢類(?)も用意されており、いずれもゴハンが捗るものばかり。写真下の明太子にはイカが組み込まれており中々の美味しさです。
お味噌汁は魚介類のエキスが、というわけではなく一般的なもの。この日はキャベツ多めでした。
以上を食べて1,280円と大満足。同じものを丸の内あたりで楽しめば倍以上は請求されそうです。女子ひとり客も多く、隣のギャルが食べていた「生あじフライ定食」もすごく美味しそう。今度は夜に飲みに来てみようかな。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

東京豆漿生活(とうきょう どうじゃん せいかつ)/五反田

本格的な台湾式の朝食を提供する店として世間を賑わせている「東京豆漿生活(とうきょう どうじゃん せいかつ)」。連日行列の大人気店であり、週末は整理券制になるほどの盛況ぶり。アド街にも取り上げられたことがあります。
店内は白を基調としたレトロな雰囲気で、台湾っぽさが滲み出ています。彼の国のラジオが流れており、また、台湾人ゲストも多いため、ちょっとした海外旅行気分。私は平日の10時頃に訪れたのですが、店内に10名ほどのレジ待ち行列。先に注文し、席を確保し、番号が呼ばれれば取りに行くというマックのような運用です。
列に並んでいる間にメニューを見ることができ、パン類のプレゼンテーションも楽しいので、待たされてる感じは全くありません。ピークタイムのスタバのほうが余程辛い思いと言えるでしょう。
入店し、列に並び、席に着き、食事に辿り着くまでにちょうど20分。回転が速いためか、覚悟していたほどに待つことはありませんでした。色々と注文し合計で2千円弱。台湾現地の倍近い価格設定ですが、あちらで日本のラーメンを食べても倍近くするのでおあいこです。
一番人気の「鹹豆漿(シェントウジャン)」。鹹:塩気のある 、豆漿:豆乳という意味で、温かいオカズ系豆乳スープと言えば分かり易いでしょうか。豆乳が程よく凝固し、おぼろ豆腐のような口当たり。たっぷりの揚げパンが口当たりに変化を生み出し、大根や干しエビ、肉などのバラエティに富んだ具材に酢やラー油などの多彩な調味。この料理が嫌いなアジア人は少ないのではあるまいか。
こちらは「菜脯蛋」。干大根とネギが入った台湾の定番料理であり、ノスタルジックな味わいが広がります。ただしサイズが小さすぎるため、食べ応えがありません。
続いて「韮菜酥餅」。白ゴマと黒ゴマがたっぷり塗された薄い生地の中に、たっぷりのニラと玉子、春雨やピーナッツが入った台湾式のオカズパンです。
カリッとした生地と、中の具材のハーモニーが心地よく、ニラの香りが鼻から抜けていく感じが堪りません。
「飯糰」とは台湾式のおにぎり。こちらも台湾の朝ごはんの定番であり、熱々のもち米に、様々な具材を包み込んだ、シンプルながらも奥深い味わいが魅力です。
具材は「鹹豆漿」にも登場した揚げパンに、煮卵、高菜、干し大根、ピーナッツ、肉でんぶ。かなりのボリュームで、それでいてバランス感覚をきちんと保っているのが素晴らしい。やはりどこか懐かしくホッとする味わいです。
美味しかった。レトロで可愛らしいだけでなく、料理としてきちんと美味しいのが良いですね。行列の長さにも納得です。粥が提供される日もあるそうなので、次回はそれを試してみたい。
週末などの混雑時のルールはインスタに細かく記されているので、チェックしてから訪れるとスムーズです。

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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。

本場志向で日本人の味覚に忖度しない中華料理が食べたい方へ捧ぐ書。東京の、中国人が中国人を相手にしている飲食店ばかりが取り上げられています。ある意味では中国旅行と同じ体験ができる裏技が盛りだくさん。

桜坂泰料理 fuwaro (さくらざかタイりょうり フワロ)/牧志(那覇)

2024年にオープンしたばかりの「桜坂泰料理 fuwaro (さくらざかタイりょうり フワロ)」。牧志公設市場近くの平和通りから不安になるほど細い路地に入ったところの紫色が目印です。目と鼻の先に「ベト那覇ショップ(Tạp Hoá Việt-Naha)」「パーラーカオソーイ」があり、このあたりの食文化は多様性に満ちています。
店内は広々としており、コンクリートむき出しの壁にネオンが怪しく迫ります。どこか渋谷の「高丸電氣(たかまるでんき)」を思わせる雰囲気。ピロンピロンとフードデリバリーのオーダーがひっきりなしに入っているのが印象的。店名はタイ語で「笑う」という意味だそうで、なるほどスタッフのみんなたちの接客も実に感じ良い。
飲み物は高くなく、生ビールは600円に輸入モノのビールは700円といったところ。ソフトドリンクが300円なのは、ノンアルコールにも大らかな沖縄の美点といったところでしょう。
トード・マンクン。揚げたて熱々のエビ団子であり、カリッとした衣の中にはトロリとした口当たりのエビペーストが満ちています。ビールのツマミにピッタリだ。
ソムタム。青パパイヤのシャキシャキとした食感と、ピーナッツの香ばしさ、そして唐辛子のピリッとした辛さが絶妙なバランスを奏でます。「クロック」と呼ばれるタイの臼と杵で材料を丁寧に叩いており、タイ料理に注ぐ情熱を感じました。
パッ・ガパオ・マクアムー。素揚げしたナスはトロトロとした口当たりで、豚肉の旨味をたっぷり吸い込んでいます。生唐辛子のピリッとした辛さと、バジルの爽やかな香りが加わって食欲をそそります。
クンニムパッポンカリー。殻ごと食べられるソフトシェルのエビを、カレーソースとトロトロ卵で炒めています。カレーのスパイシーな香りと玉子のまろやかさがエビの旨味と絶妙に絡み合う。これはライスが欲しくなる。
タイの国民食とも言えるカオマンガイ。センターの鶏肉の美味しさは当然として、ふっくらと炊き上がったジャスミンライスに鶏肉の旨味がじんわりと染み込んでおり、食べる手が止まらない美味しさです。肉・米ともに量もたっぷりだ。
特製のタレからは生姜やニンニクの風味が感じられ後を引く美味しさ。アツアツのスープにも鶏のエキスがたっぷり溶け込んでおり、ランチであればこのひと品でお腹も心も充分に満たされそうです。
〆に「コームー・ヤーン」。じっくりと焼き上げられた豚トロは、外はカリッと香ばしく、中はジューシー。噛むほどに、脂の甘みと肉の旨味が口の中に広がります。先のライスにもビールにも相性抜群です。
以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり5千円弱。沖縄のエスニック料理店としては高めの価格設定ですが、料理とサービスの質を考えれば納得の費用対効果です。この他にも様々な料理が用意されているようなので、次回はもっと大勢で訪れ全種類制覇を目指したいところ。おなかを空かせて参りましょう。

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寒い季節は沖縄で暮らしているので、旅行やゴルフだけで沖縄に来る人よりかは一歩踏み込んでいるつもりです。沖縄の人ってネットに書き込みしないから、内地の人が知らない名店が結構多いです。
沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。

現代茶寮 銀座凮月堂(げんだいさりょう ぎんざふうげつどう)/銀座

銀座の老舗和菓子店「銀座凮月堂」が手掛ける、フランス料理店「現代茶寮 銀座凮月堂(げんだいさりょう ぎんざふうげつどう)」。シャネルのすぐ近くと銀座ど真ん中な立地です。ミシュランではセレクテッドレストランに選出されています。
もともとはビル2階で運営される和菓子サロンだったようですが、フランス料理店に大転換。シェフズテーブルが2席にフロアテーブルと個室のみの小さなお店であり、かなり贅沢な空間とサービス使いです。

槙紫音シェフは1997年生まれのZ世代でありながらクラシックなフレンチが好きという面白い志向。当店の厨房を預かる前は六本木「ル スプートニク(le sputnik)」銀座「ロオジエ(L'OSIER)」なので経験を積んだそうです。
開幕投手はノンアルコールのカクテル(?)。程よい酸味が食欲を刺激します。当店のスタッフはシェフ・ソムリエ・バーテンダーという興味深い布陣であり、ワインペアリングはもちろんノンアルコールドリンクでのペアリングにも強いのが特長です。
最初にジビエのビスク。わおー、これはもう、すっごいですねえ。色んなジビエの旨味が凝縮されており濃厚オブ濃厚。ザラリとした舌触りも心地よく、大ジョッキでこればかり楽しみたいほどです。
パテアンクルート。この日の具材はビゴール豚に蝦夷ヒグマ、フォアグラで、ザクザクとしたパイ生地からの食感のグラデーションが楽しい。味覚についても、ビゴール豚の力強い旨味、蝦夷ヒグマの野性味あふれる風味、フォアグラの濃厚なコク、濃厚なコンソメのジュレ、それぞれの個性がパイ生地の中で見事に調和しています。私は前々日に「メッツゲライ ササキ(Metzgerei SASAKI)」にお邪魔したばかりであり、パテ充です。
毛蟹と蕪のババロアのガトー仕立て。何とも芸術的な仕上がりであり、クラシックフレンチと聞いていたのに予期せぬ一撃。毛蟹の繊細な旨味と蕪の優しい甘みがババロアの滑らかな舌触りで一体となり、一体、美味しい。キャビアやキュウリの起用法も洒落ており、全然モダンもいけるじゃんと舌を巻きました。
蝦夷アワビを用いたリゾット。肉厚な蝦夷鮑をバターでじっくりと焼き上げており、磯の香りとバターの風味が堪りません。プチプチとした食感のブルグルにもマッチしており、タケノコやキノコも組み込まれ、世界最強のリゾットかもしれません。
お魚料理は白甘鯛。上品な白身と繊細な甘みが心地よく、ウロコをつけたまま焼き上げることで香ばしさと食感が加わります。ソースは魚介の出汁をベースにしたもので、軽やかで風味豊か。ややもすると日本料理に通じる味覚です。
フランスはシストロン産の仔羊のロティ。明らかにラムといった特有の芳香があり、その肉質は肌理が細かい。ペリゴール産のフォアグラのポワレも堂々たる美味しさであり、これぞフランス料理といった剛毅木訥なひと皿です。
グラニテでお口直し。ワインに色んなスパイスを含ませており、メインディッシュの余韻をジンワリと溶かしていきます。
デザートはラフランスのコンポートにバニラのアイスクリーム。素材に忠実なスイーツであり、シェフらしさが伝わってきます。そういえばパン類は一切出なかったけれど、それでもしっかりと満腹になりました。
お茶菓子は凮月堂謹製の「花びら餅」。日本茶も高品質で素晴らしい締めくくりでした。以上の食事にワインのペアリングを付け、フォアグラやら何やらを追加してひとりあたり3.5万円ほど。料理やワインの質を考えれば大変に良心的な価格設定であり、ありがとう、そして、ありがとう。

「ESPRIT C. KEI GINZA (エスプリ セー ケイ ギンザ)」にせよ、銀座の和菓子屋が手掛けるフランス料理は総じてレベルが高いなあ。食文化の担い手としてヘタなことはできないという使命感があるのかもしれません。真面目にフランス料理を楽しみたい場合に是非どうぞ。近い将来、必ず星を獲得する。賭けてもいい。

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