いざかやこばん/武蔵小山

武蔵小山駅から歩いて5分ほどの場所にある「いざかやこばん」。商店街の喧騒からは少し離れた場所にあり、「立呑み 晩杯屋」から道を渡ってもう少し行った先にあります。
店内はカウンター席が10席ほどにテーブル席が3卓。やや清潔感に欠ける店なので、潔癖性の私にとっては色々と気になるところが多い。例えば衣服をかけるハンガーが無く、足元の雑なカゴにコートを丸めてぶち込む必要があり、悲しくて胸が張り裂けそうになりました。
酒は高くなく、とりわけコエドがお値打ち。東京の飲み屋でコエドが800円で楽しめる店は珍しいと言えるでしょう。日本酒も1合千円かそこらです。

お通しは冷や奴なのですが、すぐに出そうなおばんざい盛り合わせを最初に注文したのに全く出る気配がありません。先客は5人のみで、空いているにも関わらず、です。
ファーストドリンクから20分待ってようやく、と思いきや、何故か茄子の揚げびたしがやって来ました。え、なんでいきなり揚げ物から?もちろん味は悪くないのですが、出鼻をくじかれた感が強く、周章狼狽してしまいました。
続いて鶏天。え、また揚げ物?自慢のおばんざい盛り合わせは?もちろん鶏天そのものは美味しいのですが、こうもいきなり揚げ物続きでは舌がダルく感じ、かわいいメーターが下がってしまいます。
サワラ刺しの塩たたき。皮目は香ばしく、身はふっくらと仕上がっており素直に美味しい。たっぷりの薬味も後を引く美味しさです。なのですが、揚げ物が続いた後に繊細な味覚の刺身を口にするのはどうにも納得がいきません。
ようやく「おばんざい3種盛り」がやってきました。これまでの料理をファーストドリンクと共に注文したのにも関わらず、この料理が最後にやって来るとは順番が完全に逆。まるで「メメント」でも演じているかのようです。    
気を取り直して自慢の天ぷらに入ります。まずは「長芋の磯辺」。海苔を衣に組み込むのではなく、アイスクリームのカラースプレーのように後から塗布するスタイルです。
キス。身が厚く食べ応えがあるのですが、油が傷んでいるのか喉の通りが良くありません。もしかするとこの胸のつかえは、別に理由があるのかもしれない。それは心の影か、あるいは伝えられなかった言葉の棘か。ちなみに天つゆは110円でした。
ネギトロのせ海苔天。いったいどんな料理が来るのかと楽しみにしていたのですが、本当に海苔を揚げたものにネギトロがのってやって来ました。これはもう、とても別々に食べたいですね。とかくこの世はままならない。
他にも注文をお願いしていたのですが、いつまでたっても出てこないので確認すると、すっかり忘れられていました。私はとても悲しい。連れが「行こう、ここもじき腐海に沈む」と悟り、そのまま帰ることにしました。

以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり6千円とまあまあ高い。料理はいずれも悪くないのですが、いかんせん仕事が遅く、オペレーションに難がある。店内は衛生的とは言い難く、料理を出す順序性もストーリー性に乏しい。せっかちで綺麗好きでロマンチストな私の価値観には合いませんでした。気が長く大らかで流れに身を任せるタイプの方と一緒にどうぞ。

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