apothéose(アポテオーズ)/虎ノ門ヒルズ

2023年秋に開業した「apothéose(アポテオーズ)」。「ホテル虎ノ門ヒルズ(Hotel Toranomon Hills)」に宿泊した際から気になっていたのですが、「ミシュランガイド東京2025」で1ツ星を獲得したと入電したためお邪魔することに。虎ノ門ヒルズ ステーションタワー49階に位置するためエレベーターを10回ぐらい乗り継ぐ必要があります。
お店の脇には屋上庭園にプールと最強クールな誂えであり、バンコクのルーフトップバーのような今ドキ感があります。この空間に立ち入るには当施設のレストラン利用客に限定されるそうで、近い将来インスタグラマーたちの聖地となることでしょう。
店内は30席ぐらいかな。入店からキッチンの脇を通ってダイニングエリアに入るアプローチが今風でドラマティックです(写真は食べログ公式ページより)。眺望は東京随一と称しても良いほどで、すぐにでもプロポーズできます。「アンダーズ 東京 (Andaz Tokyo)」のルーフトップバーや客室を見下ろす高さってのは中々ありません。
ウェルカムドリンクとして上等なお茶が供されます。サービス料は12%と高めなのですが、丁寧でキビキビとした動きで、色々と良く気づいてきます。一方で、オープンして未だ日が浅いからか、まだまだ気を張っている感もあったかもしれません。

北村啓太シェフは「ナリサワ(NARISAWA)」を経て渡仏。長くパリに滞在し様々な名店で腕を磨き、彼の地で1ツ星も獲得しています。
ワインリストは分厚く、フランスだけでなく世界中から満遍なく取っているという印象。ペアリングの価格設定は中々のものですが、ボトルの値付けは思ったほど高くないので、相場が頭に入っている方は自力で選んだほうが割安でしょう。
アミューズのプレゼンテーションは流木に色々ぶっ刺して、マリオのステージのように空中に盛りつけます。正直なところ、口に運ぶまで落とさないか不安で不安でしょうがなく、味覚に集中できませんでした。私は小心者なのだ。
カペリーニは見た目以上に調味が強く、酒が進むひと品です。トマトみたいな赤いやつは噴火湾のメジマグロ。白いのはサトイモだったっけな。不調和の調和とも言うべき魅力的なひと品です。
パイ包み焼きの中にはキャベツがギッシリ。泡泡は甲殻類の風味を凝縮したビスクであり、見た目キャベツと小麦粉なのですがバリ旨い。
ホタテやカブや根セロリなどでサンドイッチ状になってやって来ます。緑色のオイルはシブレット由来であり、ネギっぽい独特の風味の後口が清々しい。
パンはコロンとして可愛らしいのですが、ホクホクとした旨味がたっぷり。ホイップクリームには焦がしたネギを練り込んでおり、パンとクリームだけで立派なひと品です。
当店のメインはお腹がいっぱいになる前に提供するスタイル。京都の「七谷鴨」を起用しており、皮目はパリッと香ばしく、身はふっくらジューシーに仕上がっています。鴨の脂が溶け出して、口の中でジュワジュワと音を立てている。付け合わせのお野菜も緑の味が濃く、程よい苦味が複雑にして玄妙。アポテオーズ(最高の賞賛)と評すべきひと皿です。
続いてピタ。中には七谷鴨のつくねとハーブがギッシリ詰まっています。先はムネ肉でしたがコチラはモモ肉。ジューシーさが増し、噛めば噛むほど濃厚な鴨の旨みが口の中に広がります。
リゾットなのですが、これはちょっとよくわからない。お米をドロドロに液状化させており、まるで離乳食のようです。こねくり回し過ぎているきらいがあり、私は普通のリゾットのほうがすち。
デザート1皿目は「こくわ」。正式名称は猿梨(サルナシ)で、キウイに似た果物です。キウイよりも甘酸っぱくて、香りが強い。アクセントに生姜も用いており、お口直しに最適。
デザート2皿目はイチヂク主体。旬の果実を巧妙に組み込んでおり、重層的で奥行きがあります。ソースには抹茶とヨモギを用いており、最先端ながら郷愁を誘う味覚です。
バラの風味をきかせたショコラとハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。

なるほど現代的ながらしっかりと美味しい料理で、空間も接客も申し分なく、1ツ星など取れて当たり前といった堂々の横綱相撲を感じました。というか、「SÉZANNE(セザン)」が3ツ星なら当店だって3ツ星なんとちゃうのというお気持ちです。

小林圭シェフ伊藤良明シェフに続き、実力派の凱旋が続くのは嬉しい限り。東京のレストラン事情は最強だ。

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