ガストロノミー ジョエル・ロブション (Joël Robuchon)/恵比寿

7年ぶりの「ガストロノミー ジョエル・ロブション (Joël Robuchon)」。2023年に関谷健一朗シェフが「フランス国家最優秀職人章 (M.O.F.  Meilleur Ouvrier de France)」を受賞したとの報を受け、ずっとお邪魔したいと機会を窺っていました。ちなみに「M.O.F.」 料理部門では、フランス人以外では史上初の受章という快挙です。
シャンパンゴールドと黒で統一されたダイニング。香港あたりの成金レストランのようで好みは分かれる内装ですが、おおー、これこれ、これぞロブション、という謎のテンアゲモードに誘ってくれます(写真は公式ウェブサイトより)。

ゲストの数よりも多いんじゃないかと思わせるサービス陣。接客は流石の一言で、きめ細やかながら慇懃無礼ではないという、絶妙の感じの良さです。昔は「香湯ラーメン ちょろり」を仕事終わりの溜まり場としていましたが、最近は深夜営業をやめちゃったので、みんな何処で飲んでるんかな。
タブレットのワインリストからボトルを選ぶのですが、思いのほか良心的だなという印象です。外資系のホテルや港区あたりのちょづいたレストランのほうが数段割高なので、安心して注文しましょう。
アミューズに温かいゴーフレット。エビとウニのクリームが組み込まれており、初手から興奮に駆り立てる旨さ。あと20個は食べたいくらいです。
ロブションの代名詞とも言えるキャビアなひと皿。目を疑うようなキャビアの量であり、土台はカニとまさに瓊漿玉液。甲殻類の旨味の詰まったジュレになめらかなカリフラワーのクリーム、気が触れたかのように繊細なプレゼンテーション。これは単なる料理ではなく、食の芸術作品かもしれない。トライポフォビアのひと大丈夫そ?
続いてシマアジ。薄くスライスされた水茄子と共にミルフィーユ状に仕立てられており絵のように美しい。ソースには酸味を効かし、またグリーンマスタードの風味も心地よいアクセントです。
ちょっと攻めてグルヌイユ(蛙)をチョイス。コロッケ状態でやってくるので語感ほどグロくなく、骨をつまんで食べるあたりスナックのような軽やかさです。ほどよいニンニクの風味が食欲を刺激します。
おなじみの、レストラン内のベーカリーで特別に焼いたパンたち。ベーコンやアンチョビが詰まったオカズパンのようなものもあり、もうこれだけで無限に食べ続けることができる美味しさです。
お魚料理はマナガツオ。ふっくらと火が通ったマナガツオは口の中でとろけるような舌ざわり。パプリカのクーリ(ソースの一種)はどこかオリエンタルな風味を感じさせ、枝豆のニョッキとの色合いのコントラストがとても綺麗。複雑にして玄妙なひと皿です。
メインは仔羊。王道の調理で実直な味わい。付け合わせが凝っていて、茄子とトマトがケーキのような造形に整えられており、さらにラムの挽肉も含まれています。
オマケのマッシュポテトもシンプルながら素晴らしい完成度。とにかく舌ざわりが滑らかで、口の中でとろけるよう。例えるなら、シルクのような、あるいは雲のような、そんな口当たりです。味覚についても、ジャガイモの自然な甘みが最大限に引き出されていて、バターのコクとミルクのまろやかさが絶妙に調和しています。
コースの中にチーズのワゴンサービスも含まれているので、腕まくりをして厳選します。私はブリアサヴァラン、ラングル、ヴァランセをチョイス。よく回転するためか状態も素晴らしく、これぞフランス料理の美点と評すべきワンシーンです。
デザートは最強かわいいピーチ・メルバを選択。旬の白桃が瑞々しく、上品な甘さと香りが口いっぱいに広がります。どシンプルなバニラアイスも玲瓏なること玉のごとし。
満艦飾のデザートワゴンがやって来ました。派手派手で豪華なだけでなく、それぞれがきちんと美味しいのが実に尊い。女子高生がこの場面に出くわせば、絶頂に達するのではなかろうか。
お茶菓子もここだけサロン・デュ・ショコラ状態で、1週間分の糖質を摂取してしまう勢いです。甘いもの好きに生まれて本当に良かった。
以上のコース料理が3.5万円で、魅力的なワインを楽しんだのでお会計はふたりで16万円ほど。パーフェクトなディナーであり、下手な海外旅行よりもよっぽど満足度が高い。日本でのミシュラン刊行以来3ツ星を守り続けるトップランカーで食事を楽しんで、それほど飲まなければひとりあたり5万円でお釣りが来ることを考えれば実にお値打ちです。

サービス料は12%と高めですが、この席数を構えながら違和感を覚えた瞬間は1秒も無く、常に高いサービス品質を提供する朗らかな軍隊のような安定感があります。もちろん瞬間最大風速としてもっと美味しい料理は世の中にいくらでもありますが、この総合力と信頼性は何事にも代えがたい財産だ。
これは美点か欠点か、とにかく量が多いので、当店の真髄を堪能したいのであれば、なるべく内臓が元気なうちに訪れることをお勧めします。前回はフルフルのコースで臨み、しかも連れが途中でリタイアして殆ど独りでロッシーニを食べ切ったのですが、今回は前菜2皿メイン2皿コースでもう限界。もしも時計を巻き戻せるのであれば、二十歳前後の内臓全盛期に、死ぬほどバイトして来ておけば良かった。

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