青蓮院門跡前 月おか(つきおか)/東山(京都)

東山駅から歩いて7-8分、青蓮院門跡近くに店を構える「月おか(つきおか)」。もともとはニューヨークで開店準備を進めていたところ、コロナにぶち当たって撤退を余儀なくされ、気持ちを切り替えて京都での開業にこぎつけたそうです。
これぞ日本といった内外装であり、畳で仕上げたカウンターの手触りが心地よい。店主は器を中心とした古美術ヲタであり、美術館を通り越して博物館的な迫力のあるラインナップです。

月岡正範シェフは北海道出身で、札幌・名古屋・東京で腕を磨いたのち「草喰 なかひがし」に入局。草津の「滋味 康月」でも料理長として腕をふるったそうです。店内中央に鎮座するおくどさんから「草喰 なかひがし」の系譜を感じます。
この手の料理屋にしては珍しく酒の値付けが良心的。いずれの日本酒も1合1,500円前後であり、いろいろ試したい場合は半合での注文もOKと融通がききます。なんでも女将さんが日本酒に目が無いそうで、そういうお店は左党ゲストの味方であることが多い。
18時に一斉スタート。さっそくご馳走が並べられ、そのプレゼンテーションが美しい。右下にあるのはタニシであり、え?タニシって食べれるの?とドキドキしましたが食用のタニシというものが存在するようで、北大路魯山人の大好物でもあったそうです。
赤いスープはビーツの色。土台は白味噌フレーバーであり、ズッキーニやパプリカなどの洒落た野菜が続き、欧米系の料理のようです。
鮎は天然と養殖を食べ比べ。なるほど天然のほうが野趣あふれる味わいであり非常にパワフル。とは言え養殖モノでも充分に美味しく、ビールの苦味によく合います。
お造りはメイタガレイにウニ。恐らく初めて食べるお魚であり、口に入れると上品な甘みがふわっと広がります。コリコリとした歯ごたえも楽しく、噛むほどに旨みが溢れ出てきます。こういった白身の旨さは関西料理界隈の美点と言えるでしょう。
京都の宮津湾でとれる天然のトリガイ。不勉強でその希少価値を存じ上げなかったのですが、そういった事前情報を無力化するほどの美味しさ。肉厚で甘みが強く、プリプリとした食感が特長的。
お椀はハモ。塩や醤油を用いずに鰹と昆布だけでスープを仕立てる澄み切った味わい。ジュンサイやモズクなどの脇役陣も抜け目ない美味しさです。
お肉は草津の人気精肉店「サカエヤ」が仕立てるもので、手前が若牛の牛タンに、奥が経産牛。シェフはニューヨークで開店準備を進めていた際に熟成肉に開眼し、帰国後のこのスタイルを確立した模様。とにかく健康で仕方がないといった牛タンのクリアな美味しさとジットリ熟女スタイルの対比が面白い。
お蕎麦で趣向を切り替えます。店主自らが打つ十割の蕎麦でありタフな味わい。スープと具材ににはスッポンを起用しており、頑強な蕎麦に負けない存在感を発揮しています。これ美味しいなあ。別日のランチにコレだけ腹いっぱい食べたいなあ。
岡山の天然鰻を八幡巻きで楽しみます。鰻の美味しさは当然として、しっとりと柔らかなゴボウが実に魅力的。底に敷かれたペースト状の賀茂茄子も見逃せない美味しさです。
おくどさんでの炊飯が進捗します。まずは煮えばな。米の香りがフワリと漂い、アルデンテな食感を味わいます。しかしお楽しみはそれだけでなく、コリコリとした歯ざわりのアワビとその肝のソースを甘い甘いトウモロコシと共に含み、和風リゾットまたはパエリアとして見事な味わい。
お米がすっかり炊き上がりました。まずは白ゴハンをオカズと共に楽しみます。右上のサバのヘシコの塩気と旨味がつよつよで、もはや酒が進むレベルです。
鰻を混ぜ込み鰻ゴハンへと嬉しい味変。パリパリのおこげさんの食感も心地よく、「大國屋鰻兵衞(おおくにや まんべい)」などの専門店を凌駕する味わいです。   
甘味は涼しげなプレゼンテーションなのですが、抹茶と見せかけてバジル風味でバリ涼しい。序盤のビーツのスープにせよ、茶目っ気たっぷりの日本料理です。
お茶菓子はブラウニーとクレマカタラナを最中で挟みます。なぜブラウニーかというと、店主はやはりニューヨーク時代に彼の地のブラウニーと邂逅し、そのスタイルを手に帰国したからだそう。今では錦市場近くで「East 42st NEW YORK BROWNIE」という専門店を開業しています。
シェフ自ら点ててくれるお茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上の食事が3万円で、お酒は安く追加で数千円といったところ。美味しい料理と美味しいお酒をたっぷり楽しんでこの支払金額は実にお値打ち。「草喰 なかひがし」ほどストイックではなく万人受けする分かり易い料理であり、当店を悪く言う方は居ないでしょう。

立地も含めて雰囲気たっぷりであり、外国人ゲストも喜びそう。ミシュランの星を獲得する日は近い。かけてもいい。

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