八重勝(やえかつ)/新世界(大阪)

私が青春時代を過ごしていた頃はそれほどでもなかったと記憶しているのですが、いつの間にやら大阪を代表する名物料理と称されるようになった「串カツ」。それを専門として供する店は何故か新世界エリアに集中しており、中でもジャンジャン横丁の「八重勝(やえかつ)」は最も行列の長い店のひとつと言えるでしょう。
1947年創業の老舗であり、私も恐らく20年ぶりぐらいに訪れるのですが、お店の雰囲気や注文形式などは殆ど同じ。変わったところと言えば、行列の整理に警備員が付いたことと、お向かいに別館(?)が爆誕し、昔よりも色々とスムーズになった気がします。文明は進化するのだ。
ビールは大ビンで650円。最近の東京のちょづいた飲み屋は豆粒ほどの生ビールが千円近くすることを考え、私はこの時点で恋に落ちてしまったのかもしれません。ちなみにいわゆる生ビールも用意されており、バケツみたいな大ジョッキで800円です。
串カツ屋に入って最初に注文するのが「どて焼き」。「串カツ屋なのにどて焼き?しかもどう見ても煮込みなんだけど」と突っ込むのは観光客のお約束であり、これは一種の伝統芸能と捉えて頂ければと存じます。牛のスジ肉を味噌やみりんで時間をかけて煮込んでおり、そのドロリとした味わいは病みつきになる旨さです。
続いて「串かつ」がやって来ました。牛肉を串に刺し衣を付けて揚げたものです。「『串かつ』だけだと何のカツかわからないじゃないか」という疑問も観光客あるあるで、大阪で「串かつ」と言えば牛肉を指すお店が殆ど。肉と言えば牛肉を指す関西の牛肉文化に関連があるのかもしれません。ちなみに関西では「肉まん」のことを「ぶたまん」と呼ばないと死刑になります。法律でそう決まっています。
お約束の「ソースの二度づけお断り」。一升瓶のウスターソースがカンカンに並々注がれる様は一見の価値あり。お通し(?)のキャベツは手掴みでバリバリ食べましょう。「キャベツは手で取って食べて下さい」との張り紙もあります。法律でそう決まっています。
さて、「どて焼き」と「串かつ」を楽しんだ後は、寿司屋さながらに並ぶ目の前のショウケースから好みの食材を注文していきましょう。当店では冷凍食品を一切使用せず、素材には自信があるとのことです。
ブロッコリーにグリーンアスパラ。肉や海鮮だけでなく、野菜やキノコ類も豊富です。ちなみに「どて焼き」と「串かつ」は3本でワンセットですが、その他の串カツは1本単位で注文することが可能です。
白ねぎ。外側はカラっと、内部はジュワっと、後を引く美味しさです。ちなみに当店はフライヤーではなく直火の鉄鍋でラードをゴリゴリに溶かしながら揚げており、迫力満点です。
当店の名物のひとつ「えび」。1本で500円とダントツの高価品ですが、その価格設定に恥じない質および量です。注文が入ってから剥き始めるあたり、当店のエビに対する愛情を感じます。
レンコンにシイタケ。かなりの高温で思いきり揚げているので凝縮感が感じられ、素朴な食材ながら旨味が強く感じます。
〆にタコとゲソを食べ比べ。すっかり高級食材となってしまったタコですが、当店では中々のサイズ感を1本300円で楽しむことができ、まるで時が止まってしまったかのようです。ノーランが一枚噛んでいるのかもしれません。
以上を食べ、軽く飲んでお会計は4千円弱。2万円も3万円もする串カツも悪くはないですが、やはり私にとっての串カツと言えばこれぐらいでちょうどいい、これぐらいがちょうどいい。「衣を付けて揚げてしまえば大体なんでも美味しくなる」という春巻きにも似た雑なコンセプトに、ワインやトリュフなどは不要なのだ。

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