六本木「ISSEI YUASA」などを手掛ける株式会社GRAPES が恵比寿にフランス料理店「Saucer(ソーセ)」を開業。軒先に看板は無く、インターフォンで呼び出してオートロックを解除してもらうというドキドキな仕組みです。
店内は厨房に面したカウンターに4席とテーブルが8席でゆったり。と言っても1日1組だけの営業なので、ゆったりオブゆったりです。店じゅうに現代アートが飾られており、オーナーの蒐集癖がうかがえます。
郡司一磨シェフは神楽坂「ラ・トゥーエル(La Tourelle)」や銀座「ラ・トゥール」を経て渡仏。帰国後は銀座「エスキス(ESqUISSE)」やその姉妹店「アジル(ARGILE)」で腕を振るいました。
ワインのペアリングは1万円プランと2万円プランがあって、我々は後者を選択。シャンパーニュに始まり肉料理にはランシュバージュを合わせるなど、普段グラスでは中々お目にかかれないクラスのものを色々と楽しむことができました。
お口取りにバラの花びらを見立てたチップス。手元に生花を置いたりモダンアートをふんだんに飾ったりと、当店のオーナーは感性豊かなロマンチストなんでしょう。グジェールにつき、これは果たしてグジェールなのかと疑念が沸く手の込みよう。キャビアの塩気と旨味で酒を呼び、西洋ワサビやサワークリーム爽やかさで整理します。
3日間かけて丁寧に引いたコンソメ。塩気は控えめながら味わいの骨格はハッキリとしており、当店のフランス料理に対する敬意が感じられます。ちなみにこのコンソメは当店の全ての料理の土台となっているそうです。
冷たいアスパラのムースにはトリュフのアイスクリームを忍ばせてあります。酸味をきかせたジュレや丸みのある旨さのホタテなども組み込まれており、手の込んだひと品です。
ゲストの到着時間を見計らって焼き上げるパン。素朴なスタイルですが噛みしめるほどに小麦の甘味が滲み出て来る絶品です。合わせて当店の真骨頂であるソースがたっぷり供され、それを拭って食べるだけで立派なごちそうです。鮎よりも鮎の味がする。
車海老は地鶏のムースで包んでフリットにします。この料理はべらぼうに美味しいですねえ。エビや鶏の旨さはもちろんのこと、アメリケーヌソースの豊潤な味わいやアクセントに用いる唐辛子、どこかアジアなニュアンスを感じさせる酸味などが面白い。シェフのセンスが輝くひと品です。
ホワイトアスパラガスのスープは塩を使用せず、素材の風味をそのまま楽しみます。もちろん美味しいのですが、塩気の多い人生を歩んできた身としては少々物足りなく感じました。
ラムは様々なハーブをあしらい網脂で巻いて焼き上げ、卵黄はコンソメに漬け込んだのちにソースとして供されます。ちなみにこの卵は平塚の「寿雀卵(じゅじゃくらん)」といって、その直売所には卵を買うだけに行列が生じると言う大人気ブランド卵だそうです。
ブイヤベースをイメージしたひと皿。お魚はイサキで皮目のバリっとした食感が後を引く美味しさ。ソース(スープ?)にも海の豊かさがたっぷりと溶け込んでいます。
先のコンソメと寿雀卵を用いた西洋風の茶碗蒸し。装飾性のないシンプルな料理ですが、素材の良さを真っすぐに活かした旨さです。毛ガニがたっぷりと含まれているのも凄くいい。メインは「銀の鴨」という、青森が誇るブランド品です。表面はカリっと皮ぎしはジューシー、身は弾力を感じさせるマッチョな味わいと文句なしに美味しい。付け合わせやソースもこれぞフランス料理といった仕様です。
デザート1皿目は枇杷。その誠実な味わいに加えカルダモンをきかせたアイスクリームなど洒落たお口直しです。
メインのデザートは宮崎マンゴー。太陽を感じさせる南方系の甘味にハーブやスパイスも駆使しており、先の車海老料理を想起させる多彩な味覚です。
〆に小菓子とハーブティー。シェフが目の前で丁寧に調合し香りが立つように上手くカットしたりと、とても気合の入ったハーブティーでした。以上を食べ、ワインのペアリングを付けてお会計はひとりあたり5万円弱。これはリッチなワインペアリングをお願いした結果であり、スタンダードナンバーであれば3万円台に落ち着くことでしょう。
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一見高価ですが、これだけの料理を楽しんで、素敵な空間もスタッフも独占していることを考えれば実にお値打ち。ソースは軽く塩気も薄いフランス風料理が流行する中、これだけコッテリしたソースを全面に押し出すスタイルは貴重であり後生大事にすべき伝統です。
モダンではあるものの「エスキス(ESqUISSE)」とは全く異なる芸風なのでお楽しみに。
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