かほく市で「看板のない名店」として耳目を集めた「居酒屋はちなな」が2022年秋に金沢の駅西新町に移転オープン。金沢駅からタクシーで10分ほどで、歩いたとしても30分はかかりません。ファミマの前、弁当屋の並びにあるちょっと変わった立地です。
店内はカウンターに7-8席にテーブルが2つ。清潔で小ざっぱりとした印象の内装です。ちなみに「居酒屋」を名乗ってはいますが、食材の質も支払金額も立派なものであり、客層もそれに準じています。きちんとした割烹料理店のつもりでお邪魔しましょう。
飲み物はそれほど高くなく、薄はりのグラスに丁寧に注がれた生ビールは700円。日本酒は1合1,500円~で、北陸の選りすぐりの銘酒が揃います。いきなり毛ガニ・バフンウニのコンビがやってきました。食材の暴力とも言うべき組み合わせであり、金沢市中央卸売市場仲卸が営む高級居酒屋ならではのリードオフマンです。
お椀には焼いたクエ。ゼラチン質がジュワジュワと焦げた感じが堪りません。スープのボディもしっかりしており、このままフランス料理の魚料理として成立しそうな存在感です。
お造りはアオリイカにシロガスエビ、サクラマス。いずれも能登産であり、東京でいくら支払ったって得難い美味しさがあります。とりわけアオリイカの水のように流れる口当たりに心を奪われました。旬がとても短いトリガイ。こちらも能登産で世界最高峰のクオリティです。一般的にトリガイって歯ごたえがキツくって、噛んでも噛んでも飲み込めねえよという印象ですが、この個体に限っては羽毛布団のように柔らかで、甘噛みでサックリ切れるほどです。
カジキマグロの大トロの部分はササっとフライに。厚い身のほどよくグラデーションが入っており、味わいの変化を楽しみます。ゴマダレに漬けて食べるのですが、このソースがまた旨いんだ。
鰻は蒸し寿司に。美味しいのですが、ムワっと蒸されているので味わいがボヤけてしまい、ちょっと勿体なく感じました。前日にお邪魔した「緑酒 伝助(りょくしゅ でんすけ)」のバリバリに焼いた鰻が旨かっただけに、余計に悪目立ちしたかもしれません。
トラフグは白子ポン酢で頂きます。このトラフグが美味しくって、ムッチムチに跳ね返すような弾力があり、まるで肉を食べているような気分になります。フグって高い割に味は別にだよね的な意見を時おり耳にしますが、このフグは区間新記録とも言うべき旨さでした。
お肉は能登牛。地物ののタケノコと共にすき焼きに仕立て上げ、コッテリと甘い脂と調味に胃袋が掴まれます。
お食事は三段階で、まずはホタルイカ天丼。2024年は豊漁というニュースを良く耳にしますが、こうして天丼にして食べるという試みは寡聞にして知りません。濃厚な旨味と特有の苦味が白米の糖質に良く合う。続いて明太子ちりめん山椒。明太子は自家製だそうで、塩気が薄く魚卵の旨味が直接的に伝わって来ます。大トリは富山は砺波の大門素麺(おおかどそうめん)。素麺ながら強いコシとツルっとしたのど越しが特長的。もずくも地元のものであり、シャキシャキとした食感が心に残りました。
デザートはアイス最中であり、アイスクリームにはショウガの風味がきいておりお洒落な味わい。ハチミツの軽やかなな甘味も魅力的です。
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北陸新幹線開通前は秘境的な小京都として魅力があった金沢。開通後は客層が荒れだし、土日連休は東京のガチャガチャした人ばかりです。それは飲食店においても同様で、金曜日の夜から日曜日にかけての鮨屋など港区のちょづいた店と雰囲気は似てきています。きちんと食事を楽しみたい方は、連休を外して訪れましょう。
- 一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾 ←能登半島にゴールデンルーキー現る
- レ・トネル(Les Tonnelles)/金沢 ←世界一炎上に耐性のないお店。
- ベルナール(BERNARD)/金沢 ←デジタルNG。大切な方と素敵な時間を過ごすためにどうぞ。
- ロスタル(L’OSTAL)/金沢 ←2度目3度目の金沢であれば是非当店でフランス料理を。
- Installation Table ENSO L'asymetrie du calme(インスタレーションテーブル エンソ ラシンメトリー ドゥ カルム)/金沢 ←ただ単にお値打ちというだけでなく、料理のひとつひとつが大変凝っており、しっかりと美味しいのが素晴らしい。
- A_RESTAURANT(ア レストラン)/金沢 ←イノベーティブ・フュージョン系では頭ひとつ抜けている。
- 味処 大工町 よし村/金沢 ←どこかの石油王の予約と取り違えているのではないかと心配したレベルの満足度。
- 銭屋(ぜにや)/金沢 ←金沢でしっかりとした日本料理を食べたいのであれば、いの一番に検討すべきお店。
- 鮨処あいじ/金沢 ←ガタッ!と、思わず立ち上がりたくなるような価格設定。
- 乙女寿司(おとめずし)/金沢 ←我が心の北陸ナンバーワン鮨屋。
- 壽司 なを㐂(すし なおき)/金沢 「金沢で良い鮨屋ない?」と東京の人間に聞かれれば、いの一番に推したい鮨屋。
- 蕎味 櫂(キョウミ カイ)/金沢 ←〆の食事に蕎麦が出る王道の日本料理店。
- ヴィラ・デラ・パーチェ(VILLA DELLA PACE)/七尾 ←気が遠くなるほどの費用対効果の良さ。