杢兵衛(もくべえ)/祇園

祇園の花見小路通、祇園歌舞練場の斜向かいに店を構える「杢兵衛(もくべえ)」。屋号につき、もともと材木に関連した商売をなさっていたそうで、なるほど木目の美しさが映える外観が特長的です。ミシュラン1ツ星。
店内は一枚板のカウンターがドーンと格好良いカウンター席にテーブル席、個室もあるようです。木に美しさが気になる気合いの入った気持ちの良い内装です。寺田慎太郎シェフは当店の4代目。にこやかで人当たり良く、常連も一見客も分け隔てなく接してくれます。
飲み物は地元のクラフトビールから冷酒へと進みました。メニュー表にきちんと料金が明示されており、この手の飲食店としては良心的な価格設定です。
温かいお料理から始まります。カニをほぐした餡(?)に炊いた大根。カニの旨味が食欲を刺激します。
蒸し鮑とセリのおかゆにイクラをトッピング。蒸し鮑の大人の旨味がビンビンに感じられるラグジュアリーなおかゆです。
八寸は奥の小鉢のナマコと手前のカラスミが美味しかった。ただ、京都の日本料理に憧れを抱く素人としては、もっとハデハデな盛り付けの方があげぽよだったかもしれません。
関西らしく白味噌のお雑煮。具材にイセエビを用いており何とも贅沢。お餅は蓮根餅で、外皮のカリニチャ感が堪らない。本日一番のお皿でした。
お造りは3種別盛りで用意されます。こちらは赤貝。グニグニと迫力のある歯ざわりで食べ応えがあります。付け合わせのうるいや生姜での調味などオシャレなひと皿です。
氷見のブリ。脂たっぷりでトロトロの口当たり。それでも漬物を組み込んだ大根おろしとポン酢がサッパリとした味覚を演出してくれます。
マグロは軽く炭火で炙って風味づけ。濃厚な身に濃厚な黄身醤油で味付け濃厚オブ濃厚です。
低温調理した鴨肉。しっとりとした舌ざわりを伝って鴨肉のパワフルな風味がビンビンに伝わって来ます。厚みもあって中々の食べ応え。付け合わせの菜種や海老芋、聖護院かぶらのすり流しなど脇役陣の活躍も見逃せません。
炊き合わせは鰻。脂たっぷりホッコリとした味わいで、問答無用に美味。堀川牛蒡や淀大根などにも深みがあり、鰻のスター性が霞んでしまうほどの存在感でした。
お食事は白ごはん。なのですが、おかずに白甘鯛が付いていて、これだけで超高級な定食です。おつゆには上品な酸味があってグッド。欲を言えば、この日わたしは生理前で爆食の気配があったので、もう少し量を食べたかった。
デザートは酒粕を用いたムースなのですが、左上の鳳凰美田の苺酒がバリ旨かった。こんど酒屋で買ってみよう。
あんぽ柿と玉露でフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上の食事コースが3万円弱。ちょっと高いなあと思いつつも、アルコールの値が張らないためプラマイゼロといったところでしょうか。費用対効果につき、お酒を良く飲む方と下戸の方では印象が異なるかもしれません。それでも個別の料理はきちんと美味しく店主も終始朗らかなので旅行者にとってのハードルは低い。京都観光の夜の祇園に是非どうぞ。

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日本料理は支払金額が高くなりがち。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの日本料理ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い日本料理なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
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くろぎのおかず [ 黒木 純 ]
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黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。

李朝房(イジョバン)/白金高輪

白金高輪駅から古川橋方面へ徒歩5分ほどの場所にある「李朝房(イジョバン)」。焼肉界隈でそれほど有名というわけではありませんが、地元民にとっては馴染み深い老舗の焼肉屋さんです。
店内はテーブル席を中心に30席ほど。座席にゆとりがあり広々と食事を楽しむことができます。ゲストは地元の方々や近隣の勤め人が殆どといった印象です。
生ビールは850円と中々の値段であり、泡の割合もかなりのものなので、ちょっと高いなあというお気持ちです。他方、ワインはボトルで3千円台から用意されていました。でもやっぱ焼肉にはビールだよなあ。
お通しの豆もやし。その味覚を特長づけているのはニンニクの風味。ガーンと頭に響くニンニク量であり、「今夜は焼肉を食べるぞ!」という気持ちを高揚させてくれます。あたし滾ってきちゃいました。
他方、白菜キムチは酸味が支配的であり、私の好みではありませんでした。私は旨味強い系キムチがタイプなのですが、好みは人それぞれ。
ハツ刺しが良いですねえ。焼肉屋の刺身って、ほんの数切れチョロチョロのっているだけで毎回喧嘩になるのですが、当店のそれはドッサリとハンバーグのようなボリュームで供されます。
李朝房サラダ。店名を冠していますが一般的なガーデンサラダであり、敢えて当店で注文する必要は無かったかなというお気持ちです。
タン下。いわゆる舌の根に当たる部位であり、一般的に焼肉で食べるには不向きとされていますが、個人的にはコリコリとした食感を楽しむことができ美味しく感じました。付け合わせのネギともよく合う。
赤身の切り落とし。切り落としと言っても当店の肉はA5ランクの和牛が殆どであり、非常に綺麗な味わいでした。まるで上質なマグロを食べているかのようである。
ハラミ。厚切りでドッシリとした迫力がありチートな美味しさです。4切れで3,200円とかなりの値段ですが、それに見合った味わいでした。
スペシャリテの「ホルモン鍋」。これこれ、コレを食べに来たのです。兎にも角にもニンニクの風味が強い鍋で、四捨五入するとニンニクかもしれません。続いてたっぷりの野菜に脂プリプリのホルモン。背徳的という表現がピッタリの旨さです。
〆の食事はチーズリゾット。ホルモン鍋のスープにライスと溶けるチーズ、卵をぶち込む雑炊ですが、これがまた後を引く美味しさ。1,200円という価格設定は直接材料費率的にアレだなあと思うところはあるものの、この味わいの唯一無二性を考えれば仕方ないのかもしれません。
食後にはサービスでアイスをお出し頂けます。温かいお茶と合わせてフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上を食べてそこそこ飲んでお会計はひとりあたり1万円強。港区の人気焼肉店としては良心的な価格設定であり、予約も全然取れることを考えると使い勝手の良いお店。焼肉だけでなく一品料理も充実しているので、韓国料理屋として楽しむのもアリでしょう。気の置けない仲間と大人数でワイワイどうぞ。

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それほど焼肉は好きなジャンルではないのですが、行く機会は多いです。お気に入りのお店をご紹介。
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フード・ラック!食運 [ EXILE NAOTO ]
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寺門ジモン監督の焼肉映画。焼肉文化についてここまでシリアスに描けているのは監督の焼肉に対する並々ならぬ拘りに因るのでしょう。焼肉業界の有名店や有名人も沢山登場するので、焼肉通を標榜するのであれば必修科目の1本です。

龍Bombance(ボンバンス)/牧志(那覇)

国際通りからジュンク堂方面に向かう途中の雑居ビル2階にある「龍Bombance(ボンバンス)」。通りすがりでは絶対に見つけることのできない立地であり、空中で「大衆ワインビストロ エガリテ(Égalité)」のお隣といったところでしょうか。インターフォンで開錠してもらうという港区感が面白い。
シェフとマダムのふたりで運営する小さなお店で、店内は厨房に面したカウンター席にテーブルが少々。店名はかなり独特ですが、そのスタイルの違いから西麻布の「ラ・ボンバンス(La BOMBANCE)」とは関係ないと思います。たぶん。
酒が安く、その日のグラスシャンパーニュは1,200円で、ボトルワインも2千円台から始まります。「ワイン食堂トランク(Trunq)」もそうですが、沖縄のワインの値付けはどうかしています。また、ビールや泡盛まで用意してあるというのが沖縄らしさを感じます。
「本日のカルパッチョ」はメイチダイとマダイの組み合わせ。メイチダイのネットリとした質感が心地よく、白身魚ながら結構な旨味と脂身を感じさせてくれます。
「和牛のタルタルキャビア添え」はガラスボウルに煙を閉じ込め今時のプレゼンテーションでやってきました。とろりとした肉の甘味にキャビアの塩気が良く合います。
クロックムッシュには生ハムを敷き詰め仕上げにフォアグラを削ります。フォアグラのコッテリとした口当たりを生ハムの塩気で包み込み、無限に食べることが可能なツマミと言えるでしょう。
真鯛のカダイフ巻き。それほどカダイフカダイフしておらず、真鯛そのものを楽しむ料理に感じました。ソースは濃い口クラシックなフランス料理です。
メインは県産和牛のソテー。こちらも王道な赤ワインソースが添えられており、塩気のあるシフォンケーキ(?)で拭って食べるにちょうど良い調味です。
以上を食べ、そこそこ飲んでお会計はひとりあたり1万円を切りました。バリ旨くてバリ量多いというわけではありませんが、これだけ食べてこの支払金額に着地するのは見事な費用対効果です。

皿出しのテンポが悪い場面もありますが、スタッフ数と支払金額を考えれば仕方ない面もあるでしょう。那覇に長期で滞在する際、古典的なフランス料理を欲した場合に是非どうぞ。

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寒い季節は沖縄で暮らしているので、旅行やゴルフだけで沖縄に来る人よりかは一歩踏み込んでいるつもりです。沖縄の人ってネットに書き込みしないから、内地の人が知らない名店が結構多いです。
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宝島(上) (講談社文庫) [ 真藤 順丈 ]
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沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。

焼き鳥 津田/不動前

不動前駅から歩いて数分の「焼き鳥 津田」。2023年にオープンしたばかりの新店ですが、この界隈ではすっかり人気者となりました。外観は新聞配達所か何かのようであり、看板も素っ気ないのが一周回ってクールです。
店内は厨房をぐるりと囲むカウンター席が10席強といった陣容。ゲストの殆どは2名で訪れていますが、シングルライダーもチラホラ見かけました。
ビールは800円ぐらいだったかな。スリムなグラスで容量を考えれば少し高いなあという印象。また、席料として600円を要しますが、山盛りの大根おろしと〆のスープが付くので、これは悪くないディールです。
最近の焼鳥屋としては珍しくコースでもアラカルトでも何でもオッケーというフリースタイル。私は10本のコースに加えて単品注文で一品料理を追加。こちらは皮の三杯酢で、強めの酸とたっぷりの香味野菜が食欲を掻き立てます。
さび焼きで開幕。レアきみの仕上がりで淡泊ながらふくよかな味わい。ちなみに当店の鶏肉は「つくば茜鶏」というブランドを用いているそうです。
砂肝。思い切りよく焼いており表面を含めてサクサクとした食感。
銀杏はネッチョリとした噛み応えであり、食感に緩急があります。
つくね。やや粗挽きで肉団子方式にまとまっています。タレの甘味が強く思い切りの良い調味です。
せせり。これまでと一転してソフトタッチな焼き加減であり、肉汁が上手く閉じ込められていて実にジューシー。
アスパラも上手に熱を通しており、歯ざわりに嫌な部分はどこもなく、青い味覚を堪能できました。
ひざなんこつ。コリコリとした食感に加えて皮目のジューシーな部分が特長的。完全にビール泥棒な味わいです。
かしわ。大ぶりなカットであり、サクサクとした食感でとても美味しい。やはりタレの甘味が強烈で、好みは分かれるかもしれませんが、記憶に残る味覚です。
厚揚げ。定番の味覚であり、たっぷりの青ネギが酒場感を盛り立ててくれます。
だきみ。串ではなく皿に盛られての提供であり、たっぷりの大根おろしと薬味がトッピングされています。肉にパンチ力を持たせつつ、大量の薬味で実に爽やかに食べ進めることができました。
〆はそぼろ丼。作り置きを盛りつけるのではなく、生の挽肉から鍋で炒め始めるという凝りよう。挽肉の量は一般的なハンバーグを超えており食べ応え抜群。一方で、調味はお出汁主体の優しい味付けであり、するするガツガツと食べ進めることができました。
濃厚で円やかなスープでフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上を食べ、そこそこ飲んでお会計はひとりあたり8千円強。客単価3万円を超える「かさ原」のように、高級化が進む都心の焼鳥屋としては大変良心的な価格設定です。アラカルトで色々と注文できる自由度の高さも良いですね。場面で料理を出すテンポが悪くなりますが、それは自由度の高さの裏返しとして仕方がないと理解しましょう。旨い焼鳥を、食べたいものだけ腹いっぱい、を目的にどうぞ。

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焼鳥は鶏肉を串に刺して焼いただけなのに、これほどバリエーションが豊かなのが面白いですね。世界的に見ても珍しい料理らしく、外国人をお連れすると意外に喜ばれます。

素人にとっては単に串が刺さった鶏肉程度にしか思えない料理「焼鳥」につき、その専門的技術を体系的に記しています。各名店のノウハウについても記されており、なるほどお店側はこんなことを考えているのかという気づきにもなります。