かさ原(かさはら)/神楽坂

神戸で好評を博した「かさ原(かさはら)」が2021年に東京進出。場所は神楽坂の北にある住宅街で、マンションとマンションに挟まれた不思議な立地です。インターフォンで来訪を告げるとゲートが開錠されるという物々しいアプローチです。
小さなお庭を抜けた2階に当店はあり、1階は同郷の「紀茂登(きもと)」が。神戸つながりで何か関係があるのかもしれません。ちなみに当店は写真撮影はNGなので、私が撮った写真はここまでです。
店内はL字のカウンターのみで8-10席ほど(画像はアメックスのサイト「KIWAMI 50」より)。2回転の総入れ替え制で予約は年単位待ちと、東京のイマドキなお店です。ちなみに写真NGだけでなく音楽すら流していないので、食事に集中しなさいという意味なのでしょう。

笠原悠仁シェフは神戸出身。そのキャリアを神戸の焼鳥屋でスタートし、いくつかの焼鳥屋の立ち上げに関与したのち、2016年に独立開業。県外客も訪れる予約の取れない焼鳥店として好評を博したのち、満を持して東京に進出です。

ちなみにシェフはネット上の口コミで「態度が悪い」「にこりともしない」「無言」「愛想が悪い」と苦言を呈されていますが、あれは単に調理に集中しているだけで、仕事が終われば笑顔も見せるし軽口も叩くし退店時はお見送りもしてくれます。文句を言っている君たちはパソコンに向かってVLOOKUPを駆使している時もニコニコしているのかと問いたい。このあたりの価値観の変化はベラベラとお喋りな昨今の東京鮨界隈からの悪い影響と言えるでしょう。

閑話休題。お料理はおまかせコース一本で、開幕投手はお刺身たち。「むね」と「きも」の2種類なのですが、この「きも」はべらぼうに旨いですねえ。バターのような口当たりで、まさに新食感。上質なフォアグラ、いや、クセが無いぶんフォアグラよりも高貴な味わいかもしれません。

続いて「ねぎみ」。お肉とネギが1ピースづつで、お肉そのものの味が濃く美味。ちなみに当店で用いている鶏肉は「高坂鶏」というブランド品で、西麻布「焼鳥 篠原」などでも愛用されています。

「肉団子」は所謂つくねとは違って白っぽい外観で、挽きの粒子が粗く滑らかな口当たり。「かしわ」は繊維と弾力が感じられ、肉喰ってるなあというお気持ちです。なお、お口直しに鬼おろしとキュウリが常時スタンバっており、気前よくジャンジャン追加してくれるため、四捨五入すると大根とキュウリのサラダです。

焼いた松茸も出ます。日本料理店では土瓶蒸しやら炊き込みご飯やらで香りを中心に楽しむ食材に位置付けられていますが、なるほど味そのものも美味しい。「香り松茸味しめじ」というパワーワードは貧乏人の僻みなのかもしれません。

「ふりそで」は脂たっぷりで実にジューシー。「せぎも」はプルプルとした食感ながら鉄と血液を感じる濃厚な味覚で赤ワインが欲しくなります。「ぎんなん」には一切のクセが無く、茶碗蒸しはベースとなるお出汁が格別でスープのように楽しみました。

「かわ」はジュワジュワと自身の脂で揚がっており迫力満点。圧巻は「かぶ」で、これがカブ?桃じゃないのか?と恐れおののく味わいです。

「ささみ」「きもやき」は冒頭のお刺身に対するアンサーソングという位置づけで、程よく火が乗って甘味と凝縮感がたっぷり。串の〆は手羽先で、骨の周りのジューシーな部分がニッチャリとした美味しさです。

〆のお食事は「焼きおにぎり茶漬け」「親子丼」「ラーメン」が用意されており、もちろん全部食べてOK。私は「親子丼」と「ラーメン」をお願いしたのですが、とりわけ「ラーメン」のエレガントなスープの味わいに心を奪われました。

以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり3万円。焼鳥というジャンルにおいては目を剥くような価格設定ですが、上質な鶏肉を多用した和食店と思えば悪くないディールです。もちろん飲み物や追加の料理の価格体系が一切示されず、内訳が全く不明瞭な点は気になるところですが、これはもう、そういう店だと覚悟して訪れるしかないでしょう。ウニやキャビア、トリュフなどは出ないので、そこまで酷い目には遭わないはずです。

ところで「ワリカン支払NG」というネット上の口コミを見かけましたが、私の場合は普通にカード払いでもワリカン対応してくれ、個別に領収書も出して貰えました。

美味しかった。当店の噂を初めて耳にした時は「焼鳥で客単価3万円で予約は1年待ち?」と動揺を隠せませんでしたが、レベルの高い日本料理店やフランス料理店の、鶏肉料理の美味しい部分だけを切り取ってハイライトで食べ続けているような感覚で、これはこれで納得。いわゆる焼鳥屋として訪れるのではなく、また別の意欲的な業態を楽しむつもりで訪れると良いでしょう。

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焼鳥は鶏肉を串に刺して焼いただけなのに、これほどバリエーションが豊かなのが面白いですね。世界的に見ても珍しい料理らしく、外国人をお連れすると意外に喜ばれます。

素人にとっては単に串が刺さった鶏肉程度にしか思えない料理「焼鳥」につき、その専門的技術を体系的に記しています。各名店のノウハウについても記されており、なるほどお店側はこんなことを考えているのかという気づきにもなります。