鮨 かわしま/橿原神宮前(奈良)

奈良は橿原神宮前駅から歩いて7-8分の場所にある「鮨 かわしま」。ミシュラン1ツ星。なのですが、カジュアルな焼鳥屋のお隣に凛としたファサードを抱えており、世にも不思議なコンビネーションです。土地柄か駐車場も用意されています。
店内は現代美術館のようにスッキリとしており、間接照明が目に優しい。カウンターは柔らかい材木を用いているとのことで当然にスマホ置きは厳禁。腕時計の向けの座布団まで用意されます。
アルコールは安く、瓶ビールが650円に日本酒は1合千円前後だった気がします(サービス料は別途8%)。キューブ状の木材にメニューが彫り付けられているのが面白い。安易に価格変更はしないとの決意めいたものを感じました。
まずはスープから。キンメダイを焼き浸しにしたエキスとシイタケの旨味を合体させ、海苔の風味を聞かせました。シイタケの風味が思いのほか強く中華料理のようなニュアンスを感じます。
蒸し物はエゾアワビ。アワビの美味しさは当然として、ゴボウのふくよかな香りがアワビの味覚を補強します。
毛ガニとチーズ。チーズは「飛鳥の蘇」という古代のチーズの復刻版であり、当店の近所で作っているとのこと。毛ガニの旨味とチーズの旨味でチビチビ日本酒をやりましょう。
スペシャリテの白子のパテ。マフグの白子の水分を抜いてパテ状態にし、ふりかけ状のカラスミを散らします。先のカニチーズと共に酒のツマミにピッタリです。
ノドグロの小丼。当店のにぎりの原則は赤酢なのですが、こちらは白ごはんで食べた方が合うとのこと。のどぐろの潤沢な脂を白米がキッチリと受け止めます。
にぎりはコハダから。お酢の骨格のある酸味がピっと締まって思わず背筋が伸びる開幕戦です。
シロアマダイ。ムッチリと弾力のある個体であり、白身魚ながら赤身肉を思わせる迫力です。
ちなみに当店のにぎりにはワサビがが仕込まれておらず、必要に応じてセルフでつまむというスタイル。もちろん意図があってのことでしょうが、どうにもスーパーのパック寿司を惹起させる流れであり、私は好きじゃありません。ガリもおかわりはNG。クセつよつよの鮨屋です。
サヨリ。綺麗な流れの味わいです。
剣先イカには塩ウニが仕込まれており、調味は無くともウニの塩気でイカの甘味を溶きほぐすスタイルです。
アカガイはややクセがありますが味の強さと見るむきもあり、タフな味わいです。
アカガイのヒモの部分はお酒のアテとして頂きます。基本的に酒を飲むことを前提の流れであり、シェフは酒飲みと見た。
ホッキ貝も幾分かの臭みが感じられ、つまるところ私は貝の独特の風味があまり好きではないのかもしれません。
トリガイはツマミで。ウニが山ほどトッピングされており、要するにウニです。美味しくないわけがありません。
続いて手巻き、というかハーフパイプ状の陶器に置かれて出されます。口の小さい方は大盛りのまま手渡しされても困ることが多いと思うので、このように少しづつ崩しながら食べることができるのは良いアイデアでしょう。
マグロは血合いギシの部分から。旨味が凝縮しておりストレートな美味しさです。
間髪入れずハラミ。一転して脂の強い部位であり、トロリとした甘味に思わず笑みがこぼれます。
海苔でサラリと巻いてヅケ用のタレを軽く塗って頂きます。マグロの酸味と海苔の磯の香りが上手く調和しました。
甘エビ。エビそのものの美味しさはさることながら、頭の部分を焼いて潰してどないかしたものを調味に用いており、鮨ながらビスクのようなパンチを感じるひと品です。
カツオはバリっと焼いて風味付け。美味しいのですが、ここのところスーパースター続きだったので陰に隠れてしまった感もあります。もっと序盤で食べたほうが良かったのかもしれません。
茶碗蒸しには冒頭の毛ガニのカニミソとホタルイカ。茶碗蒸しの部分どこ行ったというほどのツマミ感であり、ここまで酒の進む茶碗蒸しは中々ないでしょう。
シマアジ。しっとりとした旨味がのっており、歯ごたえも充分。
ニシンは風味がギッタギタに強烈であり、ひと口食べて旨いと感じられる味覚です。
ハマグリ。特大サイズで口いっぱいに頬張れるのが嬉しい。ただ、意図してなのかどうなのか供出温度がかなり低く、個人的にはホッコリとした温度で供出されたほうが楽しめた気がします。
アナゴは丁寧に炊かれており、ホッコリとした口当たり。サイズ感は小さめですが、ひと口でイージーに味わえるあたり、このぐらいの大きさが適正なのかもしれません。
マグロを色々と巻いたん。シャリよりもマグロのほうが多いという贅沢な仕様であり、四捨五入するとマグロです。文句なしに美味しい。
玉子は芝エビや大和芋がたっぷりと組み込まれ私の好きなタイプ。ジュブジュブとジューシーな舌ざわり。
水物は奈良が誇るブランド苺の「古都華(ことか)」。糖度は非常に高いのですが気品のある甘味であり、ひと粒で100メートルは走れそうな味わいです。
蕎麦茶で〆てごちそうさまでした。

以上を食べ、お酒をそこそこ飲んでお会計はひとりあたり3万円弱といったところ。橿原市での食事としては非常に高価な夕食ですが、東京の鮨屋と比べれば全く割安であり、その質は東京の有名店と遜色ありません。

他方、魚介類は全国から取っており(海なし県だから当たり前だけど)、ある意味では今風にフォーマット化された鮨にも感じました。それでも奈良県にはきちんとした鮨屋が少ないので当店は稀有であり貴重な存在と言えるでしょう。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。