クラシックなフレンチで名を馳せた「ピジョン(Pigeon)」が早稲田から代々木上原へと移転。駅から歩いて5分ほどで、私の大嫌いなカフェ「和のかし 巡(ワノカシ メグリ)」のすぐ近くです。話は逸れますが、「和のかし 巡(ワノカシ メグリ)」のグーグルマップの口コミは読み応えがあり、純粋に読み物として楽しいです。
テイクアウトやオンライン注文、同業者への卸などのビジネスも手掛けているようで、レストランとしては席数をかなり絞った上でシェフのワンオペ営業です。子連れもOKで、簡単に貸し切りに応じてくれるので、複数世帯が集う場合に便利でしょう。
広瀬シェフは「シェ・イノ」出身で、フランスで長くを過ごし帰国後も名だたる名店で経験を積んだそうで、かなりイカれたフレンチ大好きマンです。超ハイテンションなフランス料理ヲタクとも言える芸風であり、その偏執さには狂気すら感じます。
客数に比べてかなりのグラスワインが開いているので、ペアリングでお願いするのが良いでしょう。飲みたい量を告げれば杯数を自由自在に組み立ててくれます。インポーターにも出資しているようで、その繋がりからか提供価格も良心的です。
まずは赤ピーマンのムース。たっぷりのウニを乗せ、比内地鶏のエキスのジュレで旨味を補強します。どう考えたって旨い料理であり、泡と合わせて食べるにピッタリ。
ハタを熟成させ、ガスパチョと共に楽しみます。なるほど「インスタ萎えの店」と揶揄されるだけあって全く映えませんが、その味覚は最強クラス。ハタが旨いのは当然として、このガスパチョのレベルは相当に高いように感じました。
パンは自家製で、ゲストの来店時刻に合わせて焼き上げてくれています。素朴な外観ですが滋味あふれる味わいで、噛みしめるごとに穀物の深みが感じられます。
ロワール産のホワイトアスパラガス。合わせるソースは王道のベアルネーズ(マヨネーズみたいな感じ)であり、表面をバっと炙ってグラタン仕立てに。どストレートな味わいで素直に美味しい。ややもするとスパゲティ・ミートソースのようにすら感じてしまう、万人受けする味わいです。
お魚はヒラスズキ。ソースに岩海苔を起用し磯の風味が程よいアクセントとなっています。お魚そのものもムチムチとした歯触りで美味。
春子鯛をウロコ焼きで。春子鯛を鮨屋以外で食べるのは初めてかもしれません。旨味がギュギュっと詰まっており、塩気もつよつよで日本酒が欲しくなります。
ホワイトアスパラガス再登板。インスタ萎えの真骨頂とも言えるごくごくシンプルなバターのソースであり、素材の美味しさが活きています。ここまで極太のホワイトアスパラガスを1日に2本も食べた日本人は、おそらく我々だけであろう。
比内地鶏のレバーに土台はフレンチトースト。フレンチトーストといってもギャルが食べるような生っちょろいものではなく、濃厚ソースの旨味をダクダク吸った味濃いめ品。レバーも焼鳥屋で食べるそれとは次元の異なるボリューム感です。
メインは有名漁師のムッシュ松野から取っている蝦夷鹿。当店はシャルキュトリも兼ねているので肉類の取り扱いはお手の物。舌がザラつくほど鉄分が感じられ、濃厚な赤ワインが進む進む。ソースも負けじとパワフルで、それでいて全体のバランスの取れた逸品です。
デザートは全てシェフの手作りで、ランチもディナーも営業してその合間にこれらを全て作り切る仕事量には脱帽。毎日こんなに作っていますがテイクアウト客もいるのでキレイに全部はけるそうです。私はスフレフロマージュにクラシックなガトーショコラを。いずれもメインディッシュに勝るとも劣らない骨太な甘味であり、見栄えばかりが強調される昨今のスイーツ事情に一石を投じる力強さです。
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ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上、さんざん飲み食いしてお会計はひとりあたり2万円といったところ。料理とワインの質および量を考えれば実に良心的な支払金額です。料理は全てがクラシックで茶色い料理がほとんどですが、伝統的なフランス料理を腹いっぱい楽しむにはうってつけのお店。王道中の王道を歩み続ければ唯一無二の存在になるという、興味深いお店でした。
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