ラール・エ・ラ・マニエール(l'art et la manière)/銀座

友人がお誕生日のお祝いをしてくれるとのことで、予約を入れてくれた銀座の「ラール・エ・ラ・マニエール(l'art et la manière)」へと向かいます。7-8年前に1度お邪魔したことがあるお店。その際は食事とワインは良かったのですがサービスが壊滅的であり、稀代のロマンチストである私としては距離を置かざるを得なかった曰くつきのレストランです。
エレベーターを降りると支配人の千田丈資ソムリエがお出迎えして下さり、そのまま個室へとご案内頂きました。この方の接客は素晴らしいですねえ。堂々としていながら茶目っ気もあり、ワインの説明も決して押しつけがましくありません。レストランとは登場人物が変わればこうも印象が変わるものなのかと頓悟しました。
アルコールはお食事に合わせたペアリング。ワインだけでなく日本酒なども登場し、連れはそれほどアルコールが飲めないのでティーペアリングも織り交ぜてもらう作戦です。シェフの料理に寄り添いながらも挑戦的な銘柄選びであり、賛否は分かれるかもしれません。私は好きです。
アミューズはお魚のアジをうるいで巻き、ひと口で頂きます。アジの立体的な旨味にうるいの仄かな苦味。おそらくアジをうるいで巻いたフレンチは当店が世界で初めてでしょう。

ちなみに以前お邪魔した際からシェフも交代しており、現在の厨房を預かるのは早田六月シェフ。六本木「ル スプートニク(le sputnik)」で腕を磨いたのち当店のスーシェフへと入り、現在に至るそうです。
のび太のあやとりみたいな物体の中にはワカサギ(だっけ?)。先のひと口の味覚を引き継いでおり大人の味わいです。右のパテもアミューズとして王道の美味しさです。
ホタルイカがたっぷりで春の装い。ワタのほろ苦さとイカそのものの旨味がその存在を主張しており、ワインが進むひと皿です。
牡蠣は蒸してポワンと旨味を閉じ込め凝集的な味わい。お花などのトッピングから桜色からグリーンにかけてのマーメイドカラーっぷりに目を奪われます。この色合いは近い将来、新海誠に映画化されてしまうかもしれません。
タケノコとそのリゾット。リゾットには赤米を起用しており、アクセントにトリュフの香りを散りばめます。思いきり焼いたタケノコの香ばしさと赤米の力強い風味が良く合う。不時不食を黄金律とする組み立てに心躍ります。
お魚料理はヒラスズキ。繊細な味覚であり、ややもすると淡白に感じてしまうところを桜海老と海老のソースで補強します。
メインのお肉は仔牛。深窓の令嬢とも言うべき清澄な味わいであり、まさにエレガント。そこに黒ニンニクのソースという悪魔的な味覚を差し込みます。先の魚料理もそうですが、当店のシェフは若手ながらドッシリとしたソースを志向するのかもしれません。いいねえ、それでこそフランス料理だ。
デザートは濃厚なアイスクリームでガッチリと別腹を掴み、ムース(?)が入った筒状のお菓子で享楽的に仕上げます。また、合わせて出されたクリーム抜きのチョコレートリキュールがカカオの風味が立っており、とても美味しかった。
小菓子はバースデープレートに仕上げてくださいました。このお花の感じ、すごくいいなあ。こうした工夫に心血を注いでくれるあたり、料理人の矜持を感じました。
食後のお茶の種類は沢山あって、私は和紅茶の「草薙」をチョイス。そのまま飲んでも力強く、ミルクを加えても風味が閉じないタフさです。

素晴らしいランチでした。コンテンポラリーながらきちんと美味しい料理に自由自在なドリンクペアリング、ゲストを緊張させない居心地の良い接客と、文句の付けようのないレストランです。7-8年前にお邪魔した際の記事には不寛容なコメントが散見されますが、今や全く別の飲食店へと変貌を遂げていました。

こういうことが起こりうるのが、そう、東京のレストランという世界なのだ。

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