いはら田(いはらだ)/西大路(京都)

西大路七条の交差点を少々北に向かったところにある「いはら田(いはらだ)」。いわゆる住宅街にポツンと存在し決してアクセスは良くないのですが、根強いファンの多い知る人ぞ知る名店です。
店内はドーンとした一枚板のカウンターで、当店のアリーナ席です。2階にはテーブル席があり、そちらもお客さんが一杯で厨房はてんてこまい。2階は一応座敷があるだけで使用していない日本料理店が多い中、当店は平日でもほぼ満席と、人気の程が伺えます。

居原田司シェフのご実家は鮨店だそうで、その背中に従って和食の世界へ。若い時分にデビューしたため独立も早く、なんと27歳の若さで独立したそうです。
酒は安くビール類は千円を切り、日本酒も1合千円かそこらです。ハイボールやサワーなどカジュアルなアルコールも用意されており、もちろんワインも。
先付から豪華で、トウモロコシのムースにウニがこれでもかと盛り付けられ、仕上げにカラスミをぶっかけます。いきなり日本酒に手が伸びる危険な旨さです。
お椀はハマグリ。貝独特のメタリックな味覚にハマグリのグニグニした歯ざわりに淫します。奥に隠れているのは葛豆腐で、大豆でなく白子が用いられているとのこと。
お造りはハモの落としに明石のタコ。ハモはシンプルな味わいで京都に来たなあというお気持ちです。タコは極太タイプなのですが、温度でタンパク質をどうのこうのしているらしく、不思議とプッツリ嚙み切れることができます。これは、科学だ。
続くお造りはミンククジラ。綺麗な赤色でエレガントな味わい。どことなく上質な馬刺しを食べているようであり、なるほどクジラとは哺乳類であったかと再認識する味わいです。
お凌ぎとして塩竈で揚がったマグロの大トロのにぎりにサバ。大トロの美味しさは当然として、黄身醤油のドロりとした濃厚な味わいとの対話が堪りません。サバのシャリにはお漬物が組み込まれていたり、昆布で包んで食べたりと食べる愉しみに満ちた逸品です。
八寸が豪華。各客席から思わず嬌声が上がるプレゼンテーションであり、本日のハイライトのひとつと言えるでしょう。料理そのものにも手が込んでいて、個人的には琵琶湖のモロコと磯つぶ貝とホタルイカのぬた和えで酒の進行に拍車がかかりました。
焼き物はマスノスケに中勢似が熟成させた但馬牛のヒレ肉。マスノスケはさすがは王者ともいうべき立地な味わいであり、トッピングのキャビアに下に敷かれた白海老と、上から下から派手派手です。

肉につき、なるほど確かに旨いのですが、熟成が強すぎ旨味も脂のジュワジュワ感も度を超えている印象で、牛肉はシンプルを至上と捉える私の口には合いませんでした。安いプランであればもっとプレーンな焼き物なので、熟成牛に興味が無い方ははそちらでも良いかもしれません。
炊き合わせ。豆の味の強い湯葉にたっぷりのクリガニが組み込まれています。根菜などの炊き合わせと異なり液状化現象が進んだひと品であるため、終盤であってもスルスルと胃袋に落ち着くのが良いですね。
〆のお食事は白ゴハン。お腹に余裕があればと、その場で出汁巻きを巻いてくれます。この玉子が絶品で、人生で食べた出汁巻きの中でも1、2を争う完成度でした。お椀にタケノコがガッツリ入っているのも嬉しいですね。
デザートも美味しく、水菓子の上品な甘味に抹茶アイスの濃厚な舌ざわりに淫します。日本料理店のデザートってこれまでの料理とは考えられないくらい雑なことが多いですが、当店はその懸念を見事に払拭してくれました。

以上の料理が2万円で、酒に税サを加えて3万円ほど。インバウンドが復活しインフレが止まらない京都の日本料理店としては良心的な価格設定でしょう。加えて今回は中勢似の但馬牛熟成ヒレ肉が供出されるお高いプランであり、それを除けばもっとお手頃なコースもあるので、つまりなにが言いたいのかというと大変リーズナブルなお店です。

冒頭にアクセスが悪い風のことを書きましたが、なあに、京都駅からタクシーで10分だ。

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