2016年に都立大学から歩いて数分の飲食複合ビルに開業した「Fukushima (フクシマ)」。地元の食通たちに評判の、1日数組のみの小さなお店フランス料理店です。
店内はコの字方のカウンター席で、奥の厨房のほか中央に炭火焼専き専用のエリアがあるのが特徴的。コロナタイムはテイクアウトやアラカルトなど試行錯誤を繰り返していたようですが、現在はコースのみ。せっかくなので我々は高いほうのコース(税サ別2万円)を注文しました。
最安値のシャンパーニュが1万円と、円安物価高の2023年においては控えめな価格設定。もしくは住宅街である立地がそうさせているのかもしれません。ワインリストはタブレットから確認するタイプで、フランスワインが主力です。泡のツマミにシガール。外皮はビーツを用いて焼き上げており、中にはゴルゴンゾーラチーズをベースとしたクリームが。程よい塩気と艶っぽい香りが癖になります。
続いてコロン的な焼き菓子(?)。中にはなんとエビしんじょうが詰まっており、エビそのものの食感と味わいに加え、鼻から抜けていく香ばしいかおりが堪りません。
アミューズ、続く。上段にあるのは塩ウニで、タルトの底には近江牛のタルタルが詰まっています。下段の黒いのは何とカレーパンで、そのわかりやすいおいしさに思わず笑みがこぼれます。
トマトを用いたひと品。その日のものが空輸されてくる大変上等なもので、そのエキスを用いた上品な酸味のたたえるムースが実にエレガント。
新玉ねぎのムース。これが野菜かと驚愕する糖度の高さであり、何ならデザートにして出しても良いくらいです。そら豆の青く健康的な味わいに底にたっぷり敷かれたオマールエビ、キャビアの心地よい塩気。素晴らしいひと皿です。
スペシャリテの牛肉のタルタル。滋賀はサカエヤの熟成肉を用いており、塩のみでシンプルに食べるもよし、濃厚な卵黄のソースで楽しむもよし。2リットルぐらい食べたくなる旨さです。きもちくしてくれて ありがとう
太く芳醇な味覚のホワイトアスパラガス。ムール貝も添えられており、ソースはマキシムの代表作「ビリビ」へのオマージュとのこと。なるほどムール貝よりもムール貝の味がする濃厚な味わいであり、この旨味の方向性は日本人の琴線に触れるものがあります。
パンは自家製でジューシーな口当たり。こちらのパンの他にも用意されており、シェフひとりだけの仕事量に対する謝辞は絶えない。1.5か月熟成させて仕込んだ鹿肉。正肉だけでなく鹿の色々な部位が詰まっており、まさにロワイヤルと評すべきルナティックな美味しさです。最近は豚・鶏・牛以外の肉を焼いて出せばジビエでございます的な風潮がありますが、こういう調理を施してこそジビエ料理だと私は思う。
鹿肉で終わりと思いきや、ここからが本番。こちらはアワビのパイ包み焼きであり、黒アワビの美味しい部分だけでなく、豚足を始めとする豚肉のいろんな部分がパイの隙間を埋めています。パイの風味も強く、重量感のある魚介料理です。
メインのお肉は仔羊。名産地であるフランスのリムーザンから取っているそうで、その清澄な味わいに思わず瞠目します。絹のような鮮やかな艶も見目麗しく、なんともエレガントなメインディッシュでした。
アヴァンデセールはイチゴ。生のものチップスにしたものアイスにしたものソースにしたものと手が込んでおり、その円やかな酸味が心地よく味蕾を撫でていきます。
こちらはジャージー牛のアイスクリームにタケノコ。ジャージー牛は乳脂肪のコクが濃密で絶品として評してよいものですが、他方、タケノコは面白い試みではあるものの私の口には合いませんでした。
八女の和紅茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。2万円のコースにシャンパーニュをボトルで飲み、水やら税やらサービス料やらでお会計はひとりあたり3万円強。上質な食材にシェフの全精力を注いだ料理をこれだけ食べてこの支払金額はお値打ちでしょう。
また、これだけ品数が多いのに首を傾げたのはタケノコだけというのは見事な精度と言えます(一般的に少量多皿のお店は3-4割がハズレ)。マダムの誠実な接客も気持ち良いし、前衛的な店構えながら何とも居心地の良いお店。小さなお店なので、気心の知れたグルメ仲間と貸し切りにするのも良いかもしれません。オススメです。
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