十番の「天冨良よこ田」が恵比寿ガーデンプレイスタワー38階のレストランフロアに出店。「天冨良よこ田」のオッチャンってクセつよつよで、こんな節操のない展開をする印象が全くありませんが、何でも引退する際に経営権をどこぞの飲食チェーンに譲ったそうで、いわゆる横田一族とは今や何の関係もない天ぷら屋だそうです。
ランチのピークを外してお邪魔したつもりだったのですが、店内はてんてこ舞いのシッチャカメッチャカ。運用が完全にまわっておらず殆ど大惨事。しまいにはシェフ(?揚げてるひと)が未熟なメンタリティを発揮し、バイトに当たり散らしてブチ切れてしまう有様。2023年最も働きたくないバイト先に認定されました。最初に出される小鉢。湯葉にホウレン草にカニの身です。湯葉とホウレン草とカニの身の味がしました。
入店後かなり待たされたのち登場した車海老と水ナス。「お塩とレモンでお召し上がりください。先代が考案したカレー塩も~」と説明があるのですが、冒頭に記した通り今や横田家が関与しているわけではないのに「先代」とはちゃんちゃらおかしいです。
シェフはバイトたちにお会計を任せられないのか、お会計の声がかかれば調理の全てをストップし、全集中でレジに向かいます。なお、その後は手を洗わないまま調理に戻っていたので、レジスターやボールペン、顧客のカードや現金などを完全に滅菌しているとの自信が伺えます。なお、キスには看過できない臭みが感じられ、全く美味しくありませんでした。
シェフの手技はかなりのもので、この時は電話で予約を受けながら天ぷらを揚げていました。さすがに目の前に提供する際は「ちょっとスミマセン」と保留ボタンを押したのち、「アマダイと原木しいたけです、ピッ、あ、もしもし?お待たせました」と実に器用です。「天ぷら店では静かに。職人は油の爆ぜる音を聞きながら~」的な話をどこかで聞いたことがあるのですが、それらは全くのデマだったのかもしれません。なお、電話の後は手を洗わないまま調理に戻っていたので、電話機も完全に滅菌しているとの自信が伺えます。
お口直しにカツオ。決して不味くはありませんが、なぜこのタイミングでカツオのお造りなのだと意図が見えません。「酒菜」とのことで、3つの小鉢が用意されるのですが、左下の料理にはデジャヴュを感じ、よくよく見ると冒頭の湯葉にホウレン草にカニの身と完全に一致。論文数を稼ぐために多重投稿を繰り返す研究者の悲哀に近いものを感じました。
アイナメにタケノコ。各種メディアには「最高級の素材を取り揃えるため河岸の馴染みの仲買に長年通い続けるのが店主の気概」との記載があるのですが、不思議なことに、ぜんぜん美味しくありません。
ホタテにコゴミ。帆立は分厚く火の通りにグラデーションがあって美味しいですね。本日一番のタネでした。タチウオにサツマイモ。先のホタテに気を良くしていたのですが、やはり当店は魚全般に臭みが感じられイマイチです。
茶碗蒸し。黄色い部分はアツアツで火傷しそうなのですが、茶色い鰻の部分は妙にひんやりとしており、ふたつの温度帯があってどう食べるべきか困惑します。フランス料理でいうところのショー・フロワという技法とも言えなくもない。
アナゴにキンメダイ。これらにはお馴染みの臭みは感じられず普通に美味しいのですが、、、
一休の予約ページの写真の穴子とはサイズ感は全く異なります。もちろん予約ページには8ポイント程度の文字で「※季節により内容は変更しております。」「※メニューは仕入状況等により変更となる場合がございます。予めご了承ください。」と記されてはいますが、どうにも損をしたような気持ちになってしまいます。
お食事は芝海老のかき揚げ丼。思いのほかエビが大量に組み込まれており、自然と笑みがこぼれます。しかしながらお椀の外殻がベットベトのテッカテカ。ギガ盛りが自慢のラーメン屋じゃあるまいし、もうちょっとマシな仕事しましょうよ。
デザートは「ラフランスのアイスクリーム」とのことでしたが、私の知る限りアイスクリームとは乳固形分15.0%以上 (うち乳脂肪が8.0%以上) 入っているものであり、その割に妙に爽やかな口当たりと短い余韻が感じられました。シャンパーニュにせよアイスクリームにせよ、エアプの多いお店です。
なるほどグーグルマップの読みごたえのある口コミの通り救いがたい天ぷら店であり、株式会社ムリンゴです。各種予約サイトやメディアには「ミシュランガイド8年連続掲載店」のような威勢の良い言葉が並びますが、あくまでそれは創業者が十番で成し遂げた偉業であるということを理解した上で訪れた方が良いでしょう。マクドナルドはもはやマクドナルド兄弟のものではないのと同じように。
ただひとつの心残りは、客の目の前で詰られていたアルバイトのみんなたちだ。
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天ぷらって本当に難しい調理ですよね。液体に具材を放り込んで水分を抜いていくという矛盾。料理の中で、最も技量が要求される料理だと思います。
- にい留(ニイトメ)/高岳(名古屋) ←究極の入門編。
- あら木 /札幌 ←お行儀よくしたもん負け主導権を握ったもん勝ち。
- 板前てんぷら成生(なるせ)/新静岡 ←清濁併せ呑んで天ぷら業界の未来を指し示す。
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- みかわ是山居/門前仲町 ←アナゴの揚げは神業。感動的ですらある。
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- たきや/麻布十番 ←より天ぷら色が強くなった。
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- 天冨良よこ田/麻布十番 ←大将しゃべりすぎ。味は確か。リーズナブル。
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- 天ぷらまき/鳥栖 ←1,000円で腹いっぱい。こういう天ぷらもアリ。
- 楽亭/赤坂 ←我が心の天ぷらランキング1位。惜しくも他界。
てんぷら近藤の主人の技術を惜しみなく大公開。天ぷらは職人芸ではなくサイエンスだと唸ってしまうほど、理論的に記述された名著です。スペシャリテのさつまいもの天ぷらの揚げ方までしっかりと記述されています。季節ごとのタネも整理されており、家庭でも役立つでしょう。