「カツオ一本釣り」の漁法で知られる、昔ながらの漁師町「久礼(くれ)」。JR土讃(どさん)線で高知駅から特急で約50分と中々の距離です。その久礼の街の中心部にある商店街「久礼大正町市場」にはその日に水揚げされた、新鮮な旬の魚がたくさん並んでおり、加えて午後からは昼獲れの魚も売りに出るので一日中賑わっています。
イートインシステムを提供している店舗の中では「田中鮮魚店(たなかせんぎょてん)」が一番人気。漁港の魚市場から車で5分の場所にあり、揚がったばかりのカツオや地魚をすぐにさばいて店頭に並べるという、圧倒的なフードマイレージの少なさが自慢です。
店内で料理を注文するという一般的なシステムとは異なり、向かいの販売コーナーで食べたい魚をピックアップし、イートインする旨を伝えて代金を支払い、注文番号をゲットした上で記帳台に名前と人数、注文番号を記すという仕組みです。
生食向けのお魚たち。この日は生のカツオにたたきのカツオ、イシガキダイ、カンパチ、アジ、タコ、クエといったラインナップ。おばちゃんに指差しお願いするのですが、その魚をジっと見つめた後「こっちのほうが良い」と助言もしてくれます。
ちなみにイートインの場において隣客が「さっき選んだもらったカツオは開けてみると質がイマイチだったので、他の良いモノに替えさせてもらった。ただしサイズは少し小さかったので、差額を返金させてもらう」と説明を受けており、これぞプロの矜持と感動した瞬間でした。
着席してものの数分で我々のオーダー分が届きました。この刺盛にゴハンと味噌汁が2人前付いて合計4千円と、食べる前からちょっと信じられない費用対効果です。主役のカツオのたたき。カツオの一本釣り歴400年だけあって健康優良児な味わい。網でまとめて捕る方が効率的ですが、久礼では一本釣りで一匹一匹たいせつに扱われるため、ダメージを受けることが殆ど無いそうです。ちなみに藁焼き用の藁も久礼で収穫しているそうです。
こちらはカツオの刺身。江戸時代から人気が続く高級料理であり、あっさりした赤身で少しもくどくありません。何でも久礼産は土佐沖で釣ってきた日戻りのカツオであり、消費者に届くまで一度も冷凍されることがないそうで、理に適った美味しさです。
こちらはカンパチ。脇役と侮る莫れ、東京の高級鮨店で食べるそれ以上の味わいであり、このボリュームで800円という価格設定は異例を通り越して異常です。地モノのタコも筋肉質で、タコそのものの風味がパワフルに伝わって来ます。ほんのちょこっと塩を付けるだけで充分に旨い。
アジも鮮度抜群で、青魚推しの私としてはあげぽよな瞬間です。ここまで活きの良いアジを口にするのはほとんど初めてで、この時わたしは絶頂に達しました。
ゴハンとお味噌汁のセットは300円。これらはまあ、一般的な定食屋のそれと同等の味わいです。ただし当店ではアルコールの販売は無いため(2022年時)、先ほどの重量級の生魚を食べるには必須の装備とも言えるでしょう。分厚い鰹節みたいなやつが地味に旨い。
以上を2人で食べ、お会計はひとりあたり2千円という奇跡。かなりの量を注文しましたが、それでもスイスイと食べ進むことができるエレガントな味わい。「東麻布天本」で食べた長崎の迷い鰹も衝撃的な味わいでしたが、それとはまた違った方向性のヘルシーさを感じるカツオ大作戦でした。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。