サンク (cinq)/代官町(名古屋)

名古屋は高岳駅から歩いて10分ほどの代官町にある「サンク (cinq)」。ナチュラルな雰囲気のエクステリアが印象的なフレンチレストランであり、食べログでは百名店に選出されています。
インテリアもエクステリアの曲調を引き継いでおり、自然体の内装です。(写真には映っていませんが)お花のセンスも素晴らしく、全体として女性的な感性が感じられます。

伊藤旭彦シェフは名古屋のフランス料理店などで経験を積んだのちフランスへと渡り、グランメゾンからビストロ、フュージョンなど様々なスタイルのお店で学んだそう。イタリアンレストランの厨房も預かったことがあり、守備範囲の広い経歴です。
ウェルカムドリンクとして玉露。温度はかなり低くちょっとびっくりするのですが、その奥に信じられないほどの甘味と深みが感じられ、これが緑茶かと思わず唸ってしまいました。ボトルワインの値付けがお値打ちだったので、我々はボトルを中心に楽しみましたが、ノンアルコールのペアリングひいてはお茶とのペアリングも面白そうです。
まずはフラン。主役は奥底にある栗だそうですが、何よりもまず蟹の量に圧倒され、その旨味に味蕾が無力化されます。悔しいが旨い、それが蟹。
カツオ。がっちりと厚切りでムシャムシャとした食感が楽しい。こういうカツオって和食のお店で食べることがほとんどですが、中々どうしてお洒落な料理に仕上がっています。
白子を揚げたやつ。これはバリ旨いですねえ。揚げたてのサクっとした食感をまず楽しみ、続いてトロりとした舌ざわりを感じつつ濃厚かつクリーミーな味覚に淫する。ほんのひと口ですが強烈な印象を残してくれるひと品です。
車海老についても和食のようんたテイストで供されます。魚介類を多用し旨味を強調する料理であり、一般的なフランス料理店とは全く異なる世界線で動いている。
「桃太郎ゴールド」という、桃太郎トマトのオレンジ版を用いたひと皿。凛とした酸味が心地よく、何とも華のある味わいです。
香箱蟹。泡泡で隠れていますが、中には卵たっぷり肉もたっぷりで、英語でこれを言うとデリシャス。こればっかしは日本酒が欲しくなりますな。
ブリオシュは王道の美味しさ。上質なバターを感じるリッチな味わいであり、パンというよりもひとつの料理として捉えることができるレベルの高さです。
ちょっと隠れてしまっていますが、クエです。やはり和食で食べることが殆どの食材ですが、なるほどフランス料理に転用しても魅力のある素材であり、シェフのセンスを感じさせるひと皿です。
こちらも隠れていますが、伝助穴子です。やはり一般的な使い途からはかけ離れており、ある種の逸脱を感じさせる料理です。加えて、きちんと美味しいのが良いですね。アバンギャルドな料理は総じて味はイマイチですが、当店の料理はどれも手堅く美味しいのだ。
サワラ。精緻なグラデーションを感じさせる火入れであり、味わいの移り変わりを楽しむことができます。
繊細な魚介類料理が続いていましたが、メインは一転してパワフルなシカ料理。素材の力強さを前面に押し出しており、頑強な美味しさです。
デザートに参ります。まずは安納芋を用いたプリン(?)。ザラっとした舌ざわりが心地よく、芋よりも芋の味がします。
こちらはモンブラン。見た目こそ白くて丸くて何じゃらほいですが、中身はコンベンショナルと評して良い程にしっかりとした味わいです。
紅玉を多用したアイスクリーム。やはりリンゴよりリンゴの風味が強く、シェフは素材の魅力を最大限に引き出す能力に長けているのでしょう。
お茶菓子も凝っていて、やはりシェフひとりで全ての調理を担うお店は素敵だなと再認識しました。分業制のお店はその中で最もレベルの低い料理人に味が引きずられてしまうので。

美味しかった。とても美味しかった。ただ美味しいだけでなく、揺らぎの余地や可能性を感じさせてくれるのが良いですね。この食材にこんな活躍の場があったのかと気づきの多いディナーでした。普段着で楽しめるものの味は抜群に良く、独創性も感じられるお店。オススメです。

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