男鹿半島の先端「入道埼(にゅうどうさき)」。このあたりでは漁師が獲れた魚介を岩場で食べる「石焼」という文化があったそうで、近隣の土産物屋・観光客向けレストランでは「石焼」がメニューにオンリストされています。
その「石焼」料理の最高峰とも名高いお店が「美野幸(みのこう)」。先の灯台の写真がある場所から歩いてすぐの場所にあります。が、良い魚が仕入れられなければ休業するというクールな営業方針であり、また予約客の分しか魚を用意していないことも多いので、絶対に絶対に予約をしてから訪れましょう。
店内はテーブル席と小上がりという構成で、トータルでは20席ほどでしょうか。とは言えボトルネックは座席数ではなく魚の仕入れという稀有なスタイルなので、満席でコミコミで待ち順列、なんてことはありません。
ちなみに私は訪れる数日前に予約の電話を入れたのですが、「最近ぜんぜん魚が揚がらなくて、その日に営業できるかはわからない。また明日電話して下さい」というやり取りを連日行い、毎日毎日朝から電話し続けた大将はこの人であったかと感動もひとしおです。
スペシャリテの「天然真鯛の石焼定食」が登場。3,200円です。冒頭記した通り、漁師たちは木桶に具材とチンチンに焼いた石を放り込み、バーンと沸騰させて火を入れる独特の調理法です。
小鉢も付きます。大量のワカメなのですが、いわゆるベロンとした肉厚のものではなくワシャワシャと繊細なスタイルです。すみません全然意味不明な説明ですが、つまりそれぐらい口当たりは変わっていたということです。お刺身も付きます。タイのお刺身はやや薄目にスライスされることが多いですが、当店は1センチは超えそうな勢いの厚切りスタイル。全身が筋肉ではないかと思うほどマッチョな歯ごたえであり、品の良い甘味が脳天を打ちます。間違いなく一級品です。
ごはんは大将の奥様のご実家が栽培しているお米だそうで、これも絶品。「仕入先としては高いんだけど仕方ない」とはにかむ大将がキュートです。おかわりもOKで、どんどん勧めてくれます。
主題の「石焼」。天然真鯛の頭から身にかけてがドボンと浸かり、海藻由来の磯の風味と薄い塩味がしみじみ旨い。アクセントに山椒が用いられているのもグッドです。頭の部分のゼラチン質から身の弾力に至るまで、真鯛の美味しいところを余すところなく堪能することができます。
先のゴハンに「石焼」の具材とスープをかけて、お茶漬け風に食べるのも乙な味。もうこんなに米食えねえというゾーンに入った後でもスルスルと胃袋に落ち着くスムーズな味わいです。
単品で注文した「お刺身」は1,400円。超高級日本料理店で用いられるピンのピンの食材と同等かそれ以上のクオリティであり、良い食材は何でも豊洲に集まると思ったら大間違いだぞ。
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こちらは「鯛の漬け丼」。1,600円です。鯛のお刺身を甘じょっぱいタレに漬け込み、たぷりの胡麻と共にかっ食らいます。タイとは繊細な味覚であることが多く漬けにするお店は少ないですが、なるほど当店の鯛は漬けにしても全く風味が負けていません。
以上をふたりでシェアし総額で6,200円。このクオリティの鯛と米を食べてひとりあたり3千円かそこらというのは大変お値打ち。またアルコールで儲けるつもりは毛頭ないらしく、日本酒は1合400円~という欲の無さ。私は運転があるので飲めませんでしたが、ノンアルコールビールは200円という優しさ。男鹿半島をドライブする際の必修科目とも言えるお店でした。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。