料理宿やまざき(夕食)/越前町(福井)

越前町の海沿い、漁火街道にある「料理宿やまざき」。日本海に面した漁師町にある料理旅館であり、越前ガニを中心とした地元の魚介類で勝負します。建屋は築100年を超える古民家を加賀から移しリノベしたそうです。
温泉でさっぱりした後、夕食はお部屋で頂きます。和室ながらベッドが予め用意されており、旅館特有の食事中に布団を敷いてワタワタといったオペレーションが無いのが良いですね。なお、当館は小学生以下は立ち入り厳禁のため、静かに食事に淫することができます。
さて、お料理のはじまりはじまり。まずは景気づけに自家製の梅酒で乾杯。追加の飲料はもちろん有料なのですが、大ビンが800円かそこら、地酒も四合瓶で4,400円と大変良心的。ただし食事の量が爆発的に多いので、結局あまり飲みませんでした。
まずは「タコアボカド」。ちょっとした小鉢と思いきやタコの弾力が激しく逞しく、当館の魚介類は只者ではないと気づきを与えるひと品です。
続いて小鯛の笹漬け。やはりベリーベリー高品質な小鯛であり、小野真弓的な健やかさを感じる味わいです。
サラダは近場の採れたてのお野菜をたっぷり用いています。こちらにも海鮮が配置されており、その辺の海鮮居酒屋の海鮮サラダとは段違いの美味しさです。
地元のサザエをお造りで。コリっとした歯ごたえに、噛みしめる程に滲み出る海の豊かさ。肝の味わいも濃密で、日本酒が進んで仕方がありません。
お造りはマダイの炙りにスズキ、近海の生マグロ。このマグロは美味しいですねえ。赤身と脂身のバランスが良く、エレガントな酸味とコッテリした旨味が両立しています。豊洲のマグロを高値で有難がっている連中に喰わせてやりたいぜ。
じゃーん、地元のアワビでーす。お刺身の状態で登場するのですが、途中で出汁を沸かせてしゃぶしゃぶとして楽しむことも可能です。基本、生が一番やろと思いきや、熱を加えると歯ごたえが弾力へと変化し、甘味も増してファンタジーな美味しさでした。
こちらは陶板焼き。フタをしてじっくりと手元で蒸して頂きます。アワビそのものの風味が非常に強いので、ごくごくシンプルな調味がかえってアワビの美点を引き立てます。肝の部分がやはり日本酒によく合う。
「鯛そうめん」とは聞いていたのですが、なんとひとり一匹づつ鯛が配置されました。タイの身を箸でグイグイとほぐしていき、旨味のつまったエキスと共にズズズと頂きます。「越のルビー」という、地元のブランドトマトの酸味がアクセントにちょうど良い。
越前産のオコゼの姿揚げ。ドーンと大きなオコゼを豪快に揚げ、手づかみでバリバリ頂きます。身の美味しさはもちろんのこと、皮目のトロトロのゼラチン質が後をひく美味しさです。
〆のお食事は越前産のノドグロ炙り丼に越前産のワカメ味噌汁。どひゃー、こんなに豪勢な〆のお食事は初めてです。にやつくおじさん。
とりわけノドグロ丼が悶絶する旨さですね。表面を軽く炙って香りをひきたて食欲を復活させます。ジュワっとした脂も感じられるのですが、バストが横流れしない程度の構築感があり、肉厚で、量感がある。もう満腹なはずなのに箸を動かす手が全く止まらず、1分以内に食べ切ってしまいました。
デザートは和三盆のアイスに麦こがし(大麦やはだか麦を炒ってから挽いて粉にしたもの)を振りかけました。最初から最後までパワー系の料理が続きましたが、そのオフェンシブな姿勢をしっとりとクールダウンさせる優しい甘さです。

魚介類しか食べていないのにこの満足度たるや。当館そのものがセリ権を持ち、仲卸などを通さずに直接魚介類を買い付けているからこその食後感でしょう。もちろん東京の日本料理店のように、フル装備のメルセデス的な豪華な装飾はありませんが、どのような技巧も素材の前では無力であると思い知らされた一食でした。

次回は是非とも冬に訪れて、越前ガニのフルコースを堪能したいところです。「川㐂(かわき)」の時みたいに、もうカニなんて見たくもねえよって気にさせてくれそうな予感がする。そんでもって、そのままベッドにダイブできるのが最高やねん。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。