大正時代の町家を改装した建屋であり照明は暗め。2階は個室になっており貸切もできるようです。雰囲気のある内装だけでなく、家具やアート作品、食器に至るまで哲学を感じさせるインテリアです。
最初に「kawabata最中」。パリっとした外皮の内側にはスモークしたマスやきたあかりのマッシュポテトが詰め込まれており万人受けする美味しさです。色とりどりのお花やフルーツも組み込まれており、料理人の美意識を感じさせるアミューズでした。
続いてロワイヤル(洋風茶碗蒸し)なのですが、恐らくは人生で一番美味しいロワイヤルかもしれません。かきたま風に卵黄の風味が支配的な生地に地物のハマグリやアワビ、新ギンナンといった珍味が百花繚乱。トリュフの風味も正しい用途でありパーフェクトな美味しさです。
前菜と言うべきか八寸と言うべきか、魅力的なプレゼンテーションで小鉢がズラり。ちなみに川端員意宜シェフはスペインで仕事をしていたこともあるそうで、このあたりのセンスはその経験が活きているのかもしれません。
能登牛のローストビーフ。裏側にはゴボウやら何やらのリエットも置かれており、このほんんの小さな小鉢のためにそこまで手をかけるのかと舌を巻く。ニンジンはスープというべきか密度の高い泡状のペーストというべきか、甘くすれば前衛的なスイーツのような舌ざわりです。
アワビはその肝のソースと共に頂きます。主役級の食材をこんな脇役ポジに置いてしまうだなんて贅沢の極みです。
タコは和食で言うところの柔らか煮といったところでしょうか。極太の足にじっとりと味が沁みており堪らない美味しさ。先のアワビと共に日本酒が欲しくなる逸品です。
何とお造りまで出てきました。ヒラメにアジにボタンエビ(だっけ?)。それでも盛り付けて出したというわけでなく、発酵(だっけ?)やら何やら欧米系の工夫を加えており、east meets westといったひと品です。
お魚料理は甘鯛。白身魚ながら厚みのある味覚であり、またそれを凌駕するほど濃厚な甘海老のビスクソースが特長的。ムース状態となった部分もたっぷり仕込まれており、様々な食感と味覚を楽しむひと皿です。
パンも美味しいですねえ。左はクルミ、右はミニサイズのフランスパンといった仕様であり、クルミのパンなどそれ単品で食べて充分に料理として成立するクオリティです。メインディッシュはA5和牛のフィレ肉。備長炭でじっくりと炭火焼きしており、穏やかな火の通りとそのスモーキーな風味が食欲を掻き立てます。付け合わせの野菜たちにも愛情が感じられる旨さがありました。
デザートはピスタチオを生地に練り込んだバスクチーズケーキにフランボワーズのアイスクリームと細部に拘った逸品。ただし味覚の構成要素が多く人に拠っては難解に感じてしまう人もいるかもしれません。
食後の小菓子も当然に手作り。中々にどっしりとした食べ応えであり、すっかり満腹です。
以上のコース料理が2万円弱で、ふたりで1本ワインを飲んでお会計はひとりあたり2.5万円といったところ。ベースはフランス料理ですがどことなく和のニュアンスも感じられ、ある種のフュージョン料理にも感じられました。それでも巷間に流布する見てくれだけのなんちゃってフュージョン料理とは別格の美味しさなので、フュージョンやイノベーティブなどチープな言葉で分類するのは避けた方が良いかもしれません。
いずれにせよ、何料理かはさておき、純粋に美味しい食事でした。
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北陸新幹線開通前は秘境的な小京都として魅力があった金沢。開通後は客層が荒れだし、土日連休は東京のガチャガチャした人ばかりです。それは飲食店においても同様で、金曜日の夜から日曜日にかけての鮨屋など港区のちょづいた店と雰囲気は似てきています。きちんと食事を楽しみたい方は、連休を外して訪れましょう。
- 一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾 ←能登半島にゴールデンルーキー現る
- レ・トネル(Les Tonnelles)/金沢 ←世界一炎上に耐性のないお店。
- ベルナール(BERNARD)/金沢 ←デジタルNG。大切な方と素敵な時間を過ごすためにどうぞ。
- Installation Table ENSO L'asymetrie du calme(インスタレーションテーブル エンソ ラシンメトリー ドゥ カルム)/金沢 ←ただ単にお値打ちというだけでなく、料理のひとつひとつが大変凝っており、しっかりと美味しいのが素晴らしい。
- A_RESTAURANT(ア レストラン)/金沢 ←イノベーティブ・フュージョン系では頭ひとつ抜けている。
- 味処 大工町 よし村/金沢 ←どこかの石油王の予約と取り違えているのではないかと心配したレベルの満足度。
- 銭屋(ぜにや)/金沢 ←金沢でしっかりとした日本料理を食べたいのであれば、いの一番に検討すべきお店。
- 鮨処あいじ/金沢 ←ガタッ!と、思わず立ち上がりたくなるような価格設定です。
- 乙女寿司(おとめずし)/金沢 ←我が心の北陸ナンバーワン鮨屋。
- 鮨 志の助/金沢 ←とにもかくにも費用対効果が抜群すぎる。
- 小松弥助/金沢 ←このクオリティでこの価格は恐ろしくリーズナブル。
- 蕎味 櫂(キョウミ カイ)/金沢 ←〆の食事に蕎麦が出る王道の日本料理店。
- 太平寿し(たへいずし)/野々市 ←小躍りしたくなるような費用対効果。
- ヴィラ・デラ・パーチェ(VILLA DELLA PACE)/七尾 ←気が遠くなるほどの費用対効果の良さ。
- ラトリエ・ドゥ・ノト (L'Atelier de NOTO)/輪島 ←まさに「能登の食材を紹介する媒体」。