金沢駅から徒歩10分ほど。近江町市場の少し手前にある「鮨 一誠(いっせい)」。暖簾にもある通り、鮨とワインと小料理を主要コンテンツに挙げるお店です。金沢では珍しく2回転制であり、予約時間ピッタリにならないと入店できないのでご注意を。
店内はL字のカウンターで8席のみ。食事もおまかせコースのみであり、前述の2回転制も含めて東京の気配を感じます。
国沢一誠シェフは当店を2017年に開業。それまでは銀座の鮨屋などで腕を磨いたのですが、途中、金沢の老舗フレンチ「ラ・ネネグース (LA NENE GOOSE)」などでも経験を積んだそうです。
酒の値付けが良心的。ビールもワインも日本酒も1杯千円を切る価格設定で、気持ちよく酔っぱらうことができます。また、フランス料理店で経験を積んだだけあってワインに対する理解もあり、鮨屋としては珍しく、グラスワインが7-8種も開いていました。
まずは金時草に岩もずく。いずれも地元のものであり、県外客のテンアゲスイッチが入る瞬間です。
続いてヒラメの昆布締めにウニ、ジュンサイ。底にあるのは加賀太胡瓜であり、県外客の琴線に触れる料理が続きます。
バイ貝はお塩とワサビでサッパリと。なのですが、こんな序盤から大将が酒を飲み始めました。もちろん常連客の勧めによるものですが、理由はどうあれ私は酒を飲みながら仕事をする料理人が苦手です。常連客のほうも、そうしたい気持ちはわからないでもないですが、間接的には営業妨害であり店にとって何のメリットも無い行為だということをご理解頂きたい。
ところで、いま私は「大将」と書いてしまいましたが、鮨屋の店主のことを「大将」と呼ぶ人はニセモノらしいです。初めて知りました。鮨の世界って難しいな。鮨の発信者をスクリーニングできるライフハックをご紹介します。
— すしログ®食の変態『料理王国』執筆&酒ディプロマ (@sushilog01) November 16, 2022
自称、鮨マニアとか鮨通とか自負しているのに親方のことを「大将」と呼ぶ人は98%の確率で半可通(ニセモノ)です。鮨自体や鮨文化よりも自分が好きな人が多い…
戻り鰹をツマミで。メタリックな味わいと海苔醤油の風味が上手くマッチしています。
アジとイワシを用いたつみれ。素材そのものの味が強くお酒が進みます。
貝の肝を用いたリゾット風のひと品。硬めのシャリと濃厚な肝の風味が良く合う。木の芽(?)の青っぽい味わいも的確なアクセントです。
タイラガイを磯辺焼き風に。やはり海苔の風味が活きており、淡泊になりがちなタイラガイの味覚を上手に補っています。アジとイワシを用いたつみれ。素材そのものの味が強くお酒が進みます。
なのですが、大将のお酒も良く進んでおり、常連客との雑談時間も長く取られ、待たされるコチラとしてはイライラしてきました。
「お前はそんなことぐらいでイチイチうるさいんだよ。常連からの勧めに応じて飲むのも仕事のうち。断ると後で酷い目にあうかもしれないだろ?」と連れからは叱られましたが、例えば「島津」の大将は未だ20代だというのに、その辺を上手くかわしているので、まあそのあたりは仕事に臨む姿勢や価値観の違いなのかもしれません。
ようやくにぎりに入ります。まずはマグロの漬け。王道の味わいで思わず姿勢が良くなります。
キスは向こう側が透けそうなほどの綺麗な味わいであり、シースルーな味覚です。
牡蠣はミニサイズであるものの味わいの凝縮感は強烈で、これは一体、酒が進む。
他方、ノドグロは脂ジュブジュブでありシャリが崩れ落ちてしまいそうなほどの油分です。
タチウオも悪くないのですが、先のノドグロの味覚の強さの陰に隠れてしまった感があります。
ウニは赤ウニ。天草の漁師さんから直接取り寄せているそうで、余韻も長く文句なしの美味しさです。
ガリは超すっぱく、暴力的な味わいです。シャリもかなり攻めており、硬めの炊きあがりであり赤酢の風味もつよつよでで、私の好きな方向性。サイズこそ小さいですが、その分いろいろ食べることができるので女子受けも良いでしょう。
アカイカ。先にツマミで食べたのと同じくにぎりになってもやはり旨い。キスは向こう側が透けそうなほどの綺麗な味わいであり、シースルーな味覚です。
牡蠣はミニサイズであるものの味わいの凝縮感は強烈で、これは一体、酒が進む。
ヒラメは昆布締めで。昆布の風味がかなり強く、ヌメっとセクシーな味わいです。
茹で上がったばかりのクルマエビ。黄身酢を用いて王道の味わいです。
こちらのヅケは先ほどのそれとは調理過程が異なるそうで、表面にチョロっと熱が通っていました。
シマアジが美味しい。その全てが筋肉なのではないかと思うほど逞しい食感であり、噛みしめるほどの旨味のエキスが滲み出てきます。他方、ノドグロは脂ジュブジュブでありシャリが崩れ落ちてしまいそうなほどの油分です。
タチウオも悪くないのですが、先のノドグロの味覚の強さの陰に隠れてしまった感があります。
ウニは赤ウニ。天草の漁師さんから直接取り寄せているそうで、余韻も長く文句なしの美味しさです。
アオサのお椀。美味しいのですが、もう少し量を楽しみたいかもしれません。
〆の巻物は中落ちとネギを巻き込んでイクラをトッピング。万人受けする美味しさです。
デザートはほうじ茶のアイスクリームを軽く炙った最中で挟みます。ローストされたお茶の風味と苦味が甘味に不思議と良く合います。ごちそうさまでした。
以上のコースが1万円。金沢の鮨屋としてはトップクラスの費用対効果でしょう。酒も安く、どれだけ派手に飲み食いしてもひとりあたり1.5万円ほどに落ち着くのはありがたい。金沢駅も近いので、17時からの1回転目に入ればその日のうちに東京に帰ることもできるので、使い勝手の良いお店です。金沢旅行の最終日にどうぞ。
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北陸新幹線開通前は秘境的な小京都として魅力があった金沢。開通後は客層が荒れだし、土日連休は東京のガチャガチャした人ばかりです。それは飲食店においても同様で、金曜日の夜から日曜日にかけての鮨屋など港区のちょづいた店と雰囲気は似てきています。きちんと食事を楽しみたい方は、連休を外して訪れましょう。
- 一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾 ←能登半島にゴールデンルーキー現る
- レ・トネル(Les Tonnelles)/金沢 ←世界一炎上に耐性のないお店。
- ベルナール(BERNARD)/金沢 ←デジタルNG。大切な方と素敵な時間を過ごすためにどうぞ。
- ロスタル(L’OSTAL)/金沢 ←2度目3度目の金沢であれば是非当店でフランス料理を。
- Installation Table ENSO L'asymetrie du calme(インスタレーションテーブル エンソ ラシンメトリー ドゥ カルム)/金沢 ←ただ単にお値打ちというだけでなく、料理のひとつひとつが大変凝っており、しっかりと美味しいのが素晴らしい。
- A_RESTAURANT(ア レストラン)/金沢 ←イノベーティブ・フュージョン系では頭ひとつ抜けている。
- 味処 大工町 よし村/金沢 ←どこかの石油王の予約と取り違えているのではないかと心配したレベルの満足度。
- 銭屋(ぜにや)/金沢 ←金沢でしっかりとした日本料理を食べたいのであれば、いの一番に検討すべきお店。
- 鮨処あいじ/金沢 ←ガタッ!と、思わず立ち上がりたくなるような価格設定。
- 乙女寿司(おとめずし)/金沢 ←我が心の北陸ナンバーワン鮨屋。
- 壽司 なを㐂(すし なおき)/金沢 「金沢で良い鮨屋ない?」と東京の人間に聞かれれば、いの一番に推したい鮨屋。
- 蕎味 櫂(キョウミ カイ)/金沢 ←〆の食事に蕎麦が出る王道の日本料理店。
- ヴィラ・デラ・パーチェ(VILLA DELLA PACE)/七尾 ←気が遠くなるほどの費用対効果の良さ。
- ラトリエ・ドゥ・ノト (L'Atelier de NOTO)/輪島 ←まさに「能登の食材を紹介する媒体」。