鮓 たいと/天草(熊本)

天草の名店「鮓 たいと」。ミシュランで1ツ星を獲得し、食べログでは百名店に選出されています。創業は2007年と思いのほか歴史があり、大将はかなりの若さで開業した計算になります。
カウンター5席のハードボイルドな鮨店。お座敷もあり宴席も可能なようですが、王道はカウンターでの「おまかせ」のようです。

店主のムッシュ永野は天草の「桂寿司」で腕を磨いたのち独立。ベクトルとしては江戸前鮨なのですが、そのあたりの技法は独学で学ばれたそうです。
まずはアオリイカ。細かく細かく包丁が入っており、咀嚼していると自然とごっくんしてしまう、流れるようなにぎりです。
ガリは丸ごと漬けたやつをカット。甘味と酸味が強くインパクトのある味わいです。シャリは硬く酸味も強く、極太麺が自慢のつけ麺屋のように噛めば噛むほどに味が滲み出てきます。にぎりのサイズは小さめではありますが、シャリの凝縮感が強いためか見た目以上に食べ応えがあります。
続いてシロアマダイ。言わずと知れた高級魚であり、その上品な甘味が記憶に残りました。身を薄くスライスして2枚重ねで提供するのが当店流。その後のにぎりも2枚重ね作戦が多い。
アワビはコリっとした食感が心地よく、また磯臭さは全くなく、アワビ料理として最高峰に位置する旨さです。
クルマエビ。個体そのものは小さめですが旨味と甘味がググっと詰まっており、ギュっと握り込むシャリと共に存在感のある1カンです。
天草の赤うに。鮨ヲタク垂涎のタネであり、ベロンとおっきいのコレが。シンプルに塩だけで頂くのですが、思わず目を閉じてしまう濃密な甘さです。
マグロは脂が乗っているものの赤身の旨味もしっかりと感じられ、バランスの良い味わいです。
お椀は赤出汁。ズバっと味噌の味が濃く迫力のある味覚です。ぶつ切り(?)のお魚が入っているのも嬉しい。
コハダは優しい〆なのですが、魚そのものの味わいが強い。コハダの素材本来の味を楽しむことができる鮨店は珍しいかもしれません。
アジは厚みがあって立体的。歯を押し返すほどの弾力が感じられ実に新鮮。個人的にキョーイチなタネでした。
ハガツオ。一般的にカツオとは鉄分がツヨツヨでドッシリとした味覚であることが多いですが、こちらは円やかなタッチで優しい味わい。なんともクリーンで健やかです。
クエが美味しい。熟成させているのか旨味が非常に強く、また軽く炙った香ばしさも堪りません。
ギョクは大和芋主体であり、黒糖でほんのりと風味付けしており、お菓子感覚でデザートのように楽しみます。

以上のランチおまかせが7,700円。このクオリティの高さでこの支払金額は天草の奇跡と言って良いでしょう。あまりに美味し過ぎたので、ある意味で夜に訪れなかったことを後悔しました。次回はツマミ付きでたっぷりのお酒と共に楽しむんだ。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

élan(エラン)/表参道

表参道ヒルズ向かいに開業した複合ビル「GYRE(ジャイル)」4階の「élan(エラン)」。当店のほかカジュアルダイニングやバーなども同フロアに入居しており、そのいずれもが当店関連のお店らしいです。ワンフロア1,000平米も借り切るってすげえなあ。
店内はダークブラウンの木目調で落ち着いた雰囲気なのですが、壁一面の大きな窓から飛び込む夜景が何よりのごちそうですね。このあたりは渋谷川を埋め立てた地域であり地盤的に高層ビルが建てられず、結果として4階からでも見事な眺望を楽しむことができます。

信太竜馬シェフは50年以上連続でミシュラン3ツ星を維持する「トロワグロ」やパリ「オテル・ド・クリヨン」、銀座「ロオジエ」「エスキス」など一流どころで経験を積み、2020年に当店を開業しました。オープン当初からずっと気になるピだったのですが、コロナもあってお邪魔できるまで随分と時間を要してしまいました。
ワインの値段につき、バリバリのグランメゾンでありながら覚悟していたほどは値付けは悪くなかった。外資系ホテルのダイニングなどで楽しむことを考えれば平気の平左である。
グジュールはゲストの来店に合わせて焼きたてのアツアツで大変美味しい。このあたりのタイミングの良さはお迎えするゲストの組数をかなり絞って(ひと晩で2-3組)こその芸当でしょう。しっかりと熟成させたコンテをふんだんに練り込んでおり、何ともリッチな味わいです。
アミューズ、続く。左は腸詰めしていないパテ状のブータンであり、血の鉄っぽさを感じさせない優しい味わい。右のスープはホロホロ鳥を始め、当店で用いる様々な食材の端材から抽出したエキスから成り立っています。見た目はクリアながら複雑で奥行きのある味わい。大ジョッキで飲みたいくらいです。
モンサンミッシェル産のムール貝。小粒ながら旨味がギュウギュウに詰まっており存在感のある素材です。バターナッツ由来の大地の甘味に自家製塩イクラの自然な塩気と相俟って、なるほど高度な前菜です。
ブリ。フランス料理でお目にかかることの少ない素材ですが、藁で少し燻しているのか程よく香ばしく食欲をそそる味わいです。たっぷりの脂と桃の調和が心地よく、適度な酸味(トマト?)による味蕾の後片付けも見事です。
パンは自家製。このゲストの数でパンも自家製とは恐れ入る。これはワンフロア全てで飲食店を展開している規模の正義といったところでしょうか。このほか天然酵母を用いたカンパーニュも大変レベルが高かった。
イカがめちゃんこ旨いですねえ。向こう側が透けて見えそうなほどの透明感があり、赤子の二の腕のように触れて柔らかい。イカの風味はもちろんのこと、パプリカや万願寺唐辛子レフォールなどの様々な香りが豊かに薫っており、何とも華やかなひと皿でした。
こちらはキンキ。やはりフランス料理でお目にかかることの少ない素材であり、しかもウロコ焼きにして食べるという変態調理。カリっとした歯ざわりに濃密な身の脂がとろけるように美味しく、濃厚なスープドポワソンが味覚に追い打ちをかけてきます。
昆布で包んで蒸したアワビをスライスし、ヴァンジョーヌのソースで頂きます。鼻に抜けるヴァンジョーヌの香りが何とも複雑で、旨味の増したアワビに良く合います。(チーズの)ブリが入ったトルテリーニ(餃子みたいなパスタ)も見逃せない美味しさであり、こういう料理はグランメゾンでしか楽しめないなあと思わず目を閉じてしまいました。
皮ごと塩釜で蒸したビーツ。本当にそのまんまビーツなのですがしみじみ旨い。スパイスのきいたタレも挑戦的な味覚であり、質実剛健に見えて楽しませることも忘れないひと皿です。
メインはエゾジカ。やや淡白で軽いタッチであり、多皿のコース仕立てながら余裕で完食できる清らかさです。凝縮感のあるトマトや濃密な赤ワインソースなど、細部に至る工夫まで余念がありません。
チーズが日本のレストランとしては珍しくコースに組み込まれていますが、この発想はフランス文化と付き合いの長いシェフならではでしょう。この客席数でよくもまあこれだけのフランスチーズを常備しているものだと半ば呆れてしまいます。ananの最新号程度のチーズの知識しか持ち合わせていない方は、少し予習してから訪れるとより楽しめるでしょう。
私はエポワス、クロタンレザン、ピエダングロワ、フルムダンベールをチョイス。フランスでは1ユーロで買えるチーズが日本では千円近くするので、日本で海外のチーズを食べるのは極力避けているのですが、ああ、やっぱりフランスのナチュラルチーズは段違いに美味しいなと日本の負けを認めざるを得ない瞬間でした。ちなみにハチミツは屋上で自家養蜂していると聞いて2度びっくり。そのうちUPSでも置いて自家発電すらやりかねない拘りようです。
デザートの前に何故かピニャコラーダが出て来ます。恐らく食中にピニャコラーダを出すフランス料理店は世界でもココだけでしょう。とは言え単なる液体のカクテルとは異なり、ラムは黒ラム、果物のコンポートも沈めクリームをたっぷり加えるなど、なるほど液体のデザートとも言える存在感でした。
デザートひと皿目はピオーネにイチヂクと旬の果物主体。それでもソーテルヌのジュレを用いたりほうじ茶の風味をきかせたりとユーモラスな工夫が詰まっています。
デザートふた皿目はこげ茶色でドーンと攻めてきます。濃厚なカカオの風味に大人の苦みを湛えるキャラメル風味濃厚な乳の脂肪。素朴と言えば素朴なのですが深みがあり、王道の美味しさです。
お茶菓子も凝っていて、カシス風味のマカロンにどっしりとした甘味のフィナンシェ、後を引く美味しさのフロランタン(アーモンドがニチャニチャするやつ)と、本物オブ本物といった心地でフィニッシュです。ごちそうさまでした。

以上のコース料理が税サを含めて2.7万円ほど。さすがはグランメゾンといった価格設定ですが、銀座あたりのお店に比べるとひとまわり割安にも感じます。何よりお料理ひと皿ひと皿がきちんと美味しいのが良いですね。個人的に最近の「エスキス」は迷走度合いが甚だしく私の価値観からは乖離していたのですが、当店は素材感を大切にした別物であり、何を食べたかきちんと記憶に残る料理が続きました。
接客についても、高度に儀式化されたグランメゾンのそれに比べると全く親しみやすく、ゲストに緊張を強いるといったことはまずありません。若いカップルのここぞというデートに最適。このあたりは意外にグランメゾンが無いので、当店は表参道のナポレオンとなること間違いなし。若き名店に乞うご期待。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。

ロイヤルホスト 鹿児島空港店(Royal Host)

私のロイヤルホストへの愛情はかなりのもので、ファーストクラスでの食事なんかよりも数段美味しいと考えているのですが、さすがに旅行先の空港における食事には利用せず、地場の企業が提供する郷土料理を積極的に楽しむことにしています。
そのつもりだったのですが、ここ鹿児島空港店には「おすすめご当地メニュー」なるものが存在し、上手そうなトンカツの写真がズラリ。ご丁寧に鹿児島産の焼酎までオンリストされており、これはお邪魔せずにはいられません。
店内は広く100席以上はあるでしょう。おひとりさまでも気兼ねなく座ることができるカウンター席にテーブル席、ソファ席、ボックスシートと空港の中とは考えられないほど豊かな空間使いです。

ちなみに当店は2021年夏にオープンしたばかりであり、空港内出店としては羽田・那覇・広島に続いて4店舗目だそうです。営業時間は長く、早朝から最終便まで営業しているのが便利。
トンカツに突入する前に、まずはお野菜で内臓を落ち着けます。コチラは「アボカド&シュリンプサラダ」。葉物野菜の味わいは凡庸ですがアボカドの熟度は完璧であり、きちんとエビも入っています。この一皿が500円かそこらで出せるのだから大したものです。
こちらは「ケールサラダ」。細かく刻まれたケールは奥行きのある味わいであり、その上で独特の嫌な苦みは感じさせません。ピーナッツオイルの風味も心地よく、「クリスプ サラダ ワークス(CRISP SALAD WORKS)」に迫る美味しさです。
真打登場、「おすすめご当地メニュー」の「鹿児島県産うんまか豚のカツカレー」。1,848円です。大人の手のひらほどはありそうな大きなカツと、ラグビーボール状のライスの盛り付けに心躍ります。
カツは町の専門店の平均値を軽々超えてくるクオリティであり、話題の「ちよ松」なんかよりも数段上の美味しさです。ルーは玉ねぎの甘味が支配的であり、万人受けする円みのある味わいです。
連れは「鹿児島県産うんまか豚のロースかつ御前」を注文。1,980円です。カツはカツカレーと同一のものでしょうか。ひと切れ交換こしましたが変わらず美味しかった。
ご当地メニューのカツを絡めた定食はいずれも2千円近くを要し、定食としては中々の価格設定ですが、空港内のレストランでこれだけのクオリティを楽しめるのだから満足度は高い。オニオングラタンスープから始まるコース仕立てとはまた異なる方向性であり、ロイヤルホストの新たな一面を垣間見たディナーでした。

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ロイヤルホスト 高輪店(Royal Host)/品川

この日は羽田空港から発つ予定があり、ちょうどランチを食べ逃しそうなタイミングだったので、品川駅すぐのロイヤルホストでパっと食べようということに。この店舗にお邪魔するのは20年ぶりぐらいかもしれません。

ちなみにロイホはは意外に店舗数が少なく、山形や栃木、岐阜、三重、北陸、山陰、四国などには展開していなかったりもします。その他、全店舗直営・安売りからは距離を置くという、ファミレスとしては独自路線を貫くお店です。2021年には開業50周年を迎えました。
これぞファミリーレストランという大箱なのですが意外にも家族連れは少なく(この日は土曜日だ)、お友達同士で来ているグループやシニア層が多い。スタッフはCAさながらにビシっと決まったユニフォームを着こなしており、動きもキビキビとしています。品川という土地柄がそうさせるのかもしれません。
まずは看板メニューの「オニオングラタンスープ」を。新婚旅行で来日中のマリリン・モンローが3日連続で食べたという逸話があるひと品。なるほどコンソメのボディはしっかりしており玉ねぎの甘味も強く、このクオリティのスープが500円かそこらで食べれる店は世界を探しても中々無いでしょう。
スープものが良いと判断し、「オマール海老のクリームスープ ~BISQUE~」を追加注文。ワオ!美味しい!甲殻類の風味たっぷりで、魚介の出汁の旨味もきいており素晴らしい出来映えです。生クリームのリッチな口当たりもすごくいい。ミシュラン星付きレストランでシレっと出されれば、ファミレスの料理だと気づける人は極めて少ないはずです。
アンガスサーロインステーキサラダ。酸味のきいたケールサラダにアンガス牛のステーキが100グラムも乗っています。これが、旨い。一般的にアンガス牛は歯ごたえがありすぎるきらいがありますが、どのような工夫をしているのか和牛のローストビーフのように口当たりが良い。JFKのアメリカン航空ファーストクラスラウンジでの食事なんかよりも遥かにレベルが高いと言えるでしょう。
他方、パン(ガーリックトースト?)は全然美味しくないですね。もちろんファミレスのオマケのパンだからと言われればそれまでなのですが、これまでの料理が素晴らしかっただけに、余計に悪目立ちしてしまった気がします。
「黒×黒ハンバーグ」。国産の黒毛和牛と黒豚を混ぜ合わせたもので、ソースはガーリック系をチョイス。肉の質感がしっかりと残り、肉食ってる感が豊富なハンバーグです。付け合わせのグラタン(?)も非常にレベルが高い。
炭水化物として雑穀米をオーダー。パンやゴハンがあるのは当然として、低糖質パンや雑穀米、普通のパンなどの選択肢が多く、また、セットものにすると価格も変動するため、IQ100を切る方は何が最適解なのかを見定めるのはかなり難しいでしょう。もう少しオーダーのシンプル化を進めたほうが良い気もしました。

とは言え結論として、ロイヤルホストは大変素晴らしい。私が外人に「こんど日本に行くんだけど、食事は何がオススメ?」と聞かれれば、回転寿司とラーメンとロイヤルホストだと答えたいぐらいです。酒も安く予約もできるので、何なら会社の飲み会で使っても良いかもしれません。

世の欧米系のレストランの殆どは、味も接客もロイヤルホストのレベルに達しておらず、下手なホテルのオールデイダイニングよりも全くクオリティが高いと言えるでしょう。ファーストクラスでの食事なんかよりも全然美味しい。皆さん自信をもってロイヤルホストをご堪能下さい。

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