フィルドール(FIL D'OR)/片町(金沢)

金沢の歓楽街、片町エリアにある「フィルドール(FIL D'OR)」。ゴエミヨやミシュランに掲載され、お向かいにはチョコとコーヒーの店「FILFIL CACAO FACTORY & CAFE」もオープンし、金沢駅ナカの「金沢百番街」にもショップを出すなど、いま金沢で一番勢いのあるレストランのうちのひとつです。
カウンター6席のみの小さな店内。なのですが天井をぶち抜いており上層の窓から光が入るためか解放感があります。18-19時の間での一斉スタート(最初に予約を入れた人の時間に従う感じ?詳細不明)であり、1回転目を終えた後はワインバーへと変身する面白い営業スタイルです。ちょっくら椅子が硬く途中からお尻が痛くなってくるのが難点。
飲み物はワインが中心ですが、ビールや日本酒、簡単なカクテルも用意されています。

田川真澄シェフはリヨンやモントリオール、ニューヨークなどで腕を磨いた国際派。地元の金沢にUターンし2017年に当店を開業しました。地元の食材はもちろんのこと、石川の作家の器を積極的に取り入れているのが印象に残りました。常に柔和な笑顔を湛えるしなやかマインドセットであり、時おりBGMにあわせて鼻歌を口ずさむお茶目な面もある方です。
お口取りはカヌレ。甘味を抑えたカヌレにトリュフを削ってひと口で。ほんのりと塩気が聞いており、酒のツマミに最適です。
続いてパプリカを練り込んで焼いた生地で、能登豚を挟んで頂きます。ポリポリと小気味良い食感に、じんわりと広がる豚の旨味。やはり酒を呼ぶ逸品です。
パプリカ再登板。こちらはムース状に仕上げ、パッションフルーツをトッピング。底には濃度の強いトマトが敷かれており、そのエキスのジュレと共に爽やかな逸品です。
続いて金沢で造られるブッラータ風のチーズにサクランボとマンゴー。これはもう、抜け目なく美味しいですね。隠し味にカカオの風味も効いており、何ともオシャレな味覚でした。
パンがいいですね。ザックリとした食感でシンプルに美味しい。素朴な味覚ではありますが、ノームコアとはまさにコレ、こっから先はカラフルな暗示といった味わいです。
スープ・ド・ポワソン。魚介類のエキスを濃縮したスープであり、この日のスープはノドグロ多めでリッチな味覚。切り身はカサゴであり肉厚で美味。ジャガイモのピュレが敷かれてあって、思いのほか腹に溜まる。アイオリソースを最中に入れてドンブラコと浮かせるのはアイデア賞です。
トウモロコシリゾット。トウモロコシのエキスでじっくりと炊き上げたお米に生のコーンやヤングコーンを組み込んでおり、トウモロコシの魅力を追求するひと皿でした。
ホタテとズッキーニにおかひじき。ごくごくシンプルな調理であり、酸味のきいたソースと共に健やかな味わいです。
メインは炭火で焼いたイチボ肉。肉の美味しさは当然として、付け合わせの香ばしいナスや姫ニンジンなどの味覚も見逃せません。サイズも中々の大きさであり、ラストにドーンと肉食った感で締めくくることができました。
デザートはその場で作るアイス(ソルベ?)。メロンとバジルの風味が強く爽やかな味わいで、仕上げにグラッパを散らして大人の味わい。身体がジンワリとクールダウンされていきます。

以上を食べ、グラスワインを3杯飲んでお会計は1.4万円ほど。料理と酒の質を考えれば大変にお値打ちです。ただしこの割安感はワンオペならではのものであり、テンポが悪く間延びする場面も多々ありました。そのあたりはトレードオフなので仕方がありませんが、初デートなどでは間が持たないかもしれません。気心の知れた仲間と訪れると良いでしょう。

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北陸新幹線開通前は秘境的な小京都として魅力があった金沢。開通後は客層が荒れだし、土日連休は東京のガチャガチャした人ばかりです。それは飲食店においても同様で、金曜日の夜から日曜日にかけての鮨屋など港区のちょづいた店と雰囲気は似てきています。きちんと食事を楽しみたい方は、連休を外して訪れましょう。
「大人絶景旅」と銘打ってはいますが、石川の名所をテンポ良くまとめています。グルメ情報も多くモデルルートの提案もあり、広告だらけのガイドブックとは一線を画す品質の高さです。

駿河屋(するがや)/成田

灰皿テキーラでお馴染みの市川海老蔵の屋号と言えば「成田屋」。初代の市川團十郎が成田山の新勝寺に色々とお願いしたことをキッカケに仕事が上手くいくようになったことが関係し、その屋号が定着したそうです。
さてその新勝寺すぐ脇にある「駿河屋」。厳密な創業年は不明ですが1798年の記録には既に載っているそうであり、コチラの屋号は創業者が静岡の出身だったことに因るそうです。

ちなみにこの辺りに鰻料理専門店が異常に多いのは、もともと印旛沼で獲れた川魚料理とくに鰻料理が名物の地域であり、江戸時代に成田山詣でとセットで訪れるのが流行ったからだそうです。
まともに並べば1時間待ちは当たり前の人気店ですが、そこはお店側も親切で、整理券を貰った後に成田山のお参りで時間を潰し、戻って来て整理券を提示すれば程なく席へと案内される仕組みです。待ち時間に係るストレスは一切なし。番頭さんの「おかえりなさーい」との声掛けに心和みます。
鰻料理は焼き上がりまでに20分を要するとのことだったので、「だし巻き玉子」で繋ぎます。特大サイズでその辺の居酒屋に比べると随分と良心的。ただし砂糖の甘さの強い調味であり、私の口には合いませんでした。このへんの好みは人それぞれでしょう。
「白焼」は期待以上に肉厚で、バリっと強い火力で焼かれています。外側は軽く焦げて香ばしく、身そのものはフンワリとした食感。都心の有名店の同等かそれ以上のクオリティと言えるでしょう。
シャレで「鳥重」も注文してみたのですが、これはまあ普通に美味しい程度であり、余程の事情が無い限り観光客がわざわざ注文する必要は無いでしょう。専門店の焼鳥弁当のほうが全然美味しい。
真打登場「特上うな重」。ベーシックな「うな重」が1尾のところ、「特上うな重」だと1.5尾のようです。細かな調理工程の違いは存じ上げませんが、先の白焼きのバリっと感に比べるとフワっと感のほうが支配的であり、いわゆる関東系の焼き蒸しの調理を用いているのかもしれません。個人的には西日本の焼魚スタイルが好みなので、あまり私のタイプではありませんでした。
「肝吸い」も付随するのですが肝腎の「肝」が入っていません。思わず顔をしかめると、連れが「あんたは高級店ばっか行ってるから知らんかもしらんけど、肝が入ってへん鰻屋とか普通によくあるから」と、なぜか私が非難されました。私はただ肝を食べたかっただけなのに。それだけなのに。
お漬物は自家製でしょうか。それぞれはシンプルながらバラエティに富んだラインナップであり、中々に美味しかった。
色々と書きましたが、好みの違いはあったにせよ鰻屋としては魅力的なお店でした。何より成田山へのお参りとセットでお邪魔できるというコンセプトが良いですね。成田駅から成田山にかけての参道も日本っぽくて雰囲気が良いので、成田空港での待ち時間はもちろん都心からの日帰り旅行としても楽しめるエリアに感じました。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

なかもと/中州川端(福岡)

櫛田神社近く、「かろのうろん」裏の細い路地を進んだ場所にある「なかもと」。「ファストフードだった江戸前寿司の屋台を現代風にアレンジ」とのことで、高級鮨を立ち食いという福岡では異色のコンセプトが大受けし、あれよあれよという間に人気店に。ちなみにこのあたりには「櫛田神社前駅」という名称で七隈線の新駅が開業予定ですこれ豆な。
店内は僅か3.5坪とマジで狭いのですが、店内に無駄なものは一切無く常時断捨離状態なので、不思議と狭さを感じさせません。現在はハイチェアも入れ5-6人ほどが着席でき、18時一斉スタートなので、ゲスト内に特有の一体感が生まれます。武蔵小山「ブルペン(BULLPEN)」のような雰囲気ですね。

中本優成シェフは長崎出身。広島・名古屋を経て福岡で腕を磨き、2019年に当店を開業。気の良いあんちゃん、何ならカフェの人気店員といった親しみやすさで、東京のアホい鮨屋みたいな暑苦しさは微塵も感じさせません。
ノーマルなビールは千円を切り、広島のクラフトビールは千円強。日本酒なども1合千円かそこらなので、気持ちよく酔えます。魚介類は島根県産のものが多く(信頼できる知り合いがいるらしい)、お酒も島根のものが多いのが興味深い。
シェフが地元で採ってきたテングサで作った寒天。酢の酸味がキリっときいて爽やかです。この「僕がどこそこで採ってきた」「実家の両親に作ってもらった」というスタイルもいいですね。
「博多」という、博多織をイメージしたミルフィーユ状態の郷土料理。用いるお魚はヤイトハタ。一見するとフランス料理のようです。
ゴハンが炊き上がりました。まさに目の前のコンロでシュウシュウと進捗していたもので、すぐに寿司桶にあけられシャリが切られていきます。いいですねえ、このライブ感。おこげの部分はちろっと醤油をたらしておつまみに。
ソウダガツオの塩たたき。瑞々しい口当たりながら決してダレることがなく、カツオの旨味がギュっと詰まった逸品です。
お椀は牡丹鱧に自家製のカラスミにじゅんさい。ガツンとしたサイズ感のハモに、これまたガツンとカラスミをトッピング。椀物ながら日本酒が進みます。
若鮎は琵琶湖から。いわゆる青い風味のする鮎ではなく、コッテリと肉っぽい風味を感じる個体です。旨味があって、こちらはビールにピッタリです。
タコの桜煮。タコの旨味は当然のこと、調味も強く日本酒が恐るべきスピードで減っていきます。先のカラスミにせよ、店主は酒飲みに違いない。
お肉も出て、なんと岡山の蔓草牛。年間十数頭しか生産されない激レア牛であり、東京だと「ボニュ(Bon.nu)」などで楽しむことができます。これはもう、文句なしに美味しいですね。ニンニクの風味がきいた醤油ダレをちょろっとかけるだけでバリ旨い。正直なところ、「ボニュ(Bon.nu)」で食べたものよりもシンプルで美味しく感じました。
天然の岩牡蠣「夏輝」のみぞれ和え。ジューシーでミルキー、魔物的な美味しさ。みぞれの部分には少々シャリを混ぜ込んでおり、仄かに甘味が増してナイスです。
にぎりに入ります。まずはガリが供されるのですが、何ともフレッシュでナシのように淡い味わい。実はこれ、ショウガではなく「ヤーコン」というキク科の野菜だそうです。またの名を「アンデスポテト」と呼ぶようですが、いわゆるイモのデンプン的な甘味は無く、シャリシャリと繊維を感じる味わいでした。
剣先イカ。透き通るような味わいなのですが、中には自家製のゴマが潜んでおり、何とも香ばしい味覚にアイデア賞。
キスを昆布締めで。淡い味わいであまり生で食べることはありませんが、なるほど昆布締めにしてしまえば鮨ダネとしてもいけますな。
アジ。何か意図があってのことでしょうが、妙にサイズが小さい。味は良いだけにもっと量を食べたかった。
天然トラフグ。関東では中々お目にかかることのできない食材。しっとりコリコリとした口当たりであり深みのある味わい。
イサキ。皮目を炭で炙った香りが食欲を刺激します。
境港の天然の本マグロ。サッカー少年のように溌剌とした味わいであり、マグロは何も北国の専売特許ではないと思わせてくれる逸品です。
先のマグロの大トロの部分を手巻きに。ネギではなくハーブを組み込むとは踏み込んでくるなあ。
ノドグロは豪快に炙って丼スタイルで頂きます。脂つよつよの個体であり、何ともジューシーなひと品でした。
エビにつき、写真では見えづらいのですがシャリにはおぼろ状態にしたものが組み込まれており、まさに全身えびちゃんでコンサバ・フェミニンな味わいです。
バフンウニは北海道から。ドロリとした熟女な味わいであり実に官能的。たっぷり巻かれた海苔の風味も堪りません。
穴子は今にも崩れ落ちそうなほどヤワ目に調味されており手づかみ必至。口に含んだ瞬間に全てがバラける独特の食感です。
お椀は本日の魚介類の美味しいところを凝縮した味わい。単なる液体なのにどうしてこんなに美味しいのだろう。科学では解明できない味わいの典型例です。
玉子はスフレやブリオッシュのように膨れ上がった形態。しっとりカステラ風味はよく見かけますが、ここまで膨らませたエアリーなギョクは珍しいかもしれません。
ひと口サイズの甘味でフィニッシュ。ごちそうさまでした。お食事のコースが1.5万円で、そこそこ飲んでお会計は2万円でお釣りが来ました。うひょー、これは見事な費用対効果ですね。こういった素晴らしい食体験を堪能すると、都心の鮨屋はいかに家賃と人件費を食べているのかが良くわかります。

お金の話はさておき、酒のツマミがたっぷりにお肉料理まで出すという自由自在のコース仕立て。単に鮨を愉しむだけでなく、色んな旨いもんを総合的に楽しむ鮨割烹。席数も少ないことですし、東京の人にバレたら一気に予約が取れないお店になるかもしれません。オススメです。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。