湖里庵(こりあん)/マキノ(滋賀)

遠藤周作が愛した料亭「湖里庵(こりあん)」。彼のペンネーム「狐狸庵」をもじったものであり、遠藤周作みずからが命名した何かすごくすごい店名です。2018年の台風によって全壊し3年近く営業不能に陥りましたが、2021年に再建を果たし完全復活。
琵琶湖を一望するめちゃんこカッコイイ空間設計。今風に言えば和モダンでしょうか、客席からテラス、そして湖へとシームレスに続く誂えが見事です。

「湖里庵」は江戸時代から続く「魚治(うおじ)」という鮒ずし屋。現在は宿泊も可能なオーベルジュ部門も携えています。左嵜謙祐シェフは大学卒業後、京都吉兆嵐山店で経験を積んだのち、七代目を襲名。
私は運転があるのでノンアルコールビールでお茶を濁しますが、連れの辞書には遠慮という言葉が掲載されていないのか、顔を真っ赤にして気持ちよく酔っぱらっています。日本酒は地元のものが中心で、1合千円かそこらなので良心的。
食前酒も付きますが、私はノンアルコールのワインに代えてくださいました。先付は「氷魚(ひうお)」。氷のように透き通った身体が美しい鮎の稚魚であり、キレイな苦みが酒を呼びます。連れの。
前菜3種盛り。右はうすい豆。中央は地元の手長エビに鴨に鮒ずし。鮒ずしとは琵琶湖に生息するニゴロブナを塩漬けにし、ゴハンと重ねて数ヶ月から数年漬け、発酵させた郷土料理。左の器にある白いのは「ともあえ」で、一緒に漬けたライスと鮒を和えたもので、アジコイメ酸味強めな珍味で酒を呼びます。連れの。
お椀はナス。どっしりと食べ応えのあるナスであり、スープというよりもナス食ったなあという印象の強い一品です。
お造りはビワマス。やはり琵琶湖に生息する高級魚であり、その鮮やかなオレンジ色とは対照的に綺麗な味わいです。
鮒ずし餅。いわゆる「からすみ餅」をサンプリングしたものであり、際立つ酸味が特長的。お餅を酸味で食べるのは世界的に見ても珍しい試みではなかろうか。
若鮎の天ぷら。まだまだ小さなサイズ感で、ジャンジャン揚げてスナック感覚でサクサク頂きます。
鮒ずしのパスタ。鮒ずしはその酸味と塩気からチーズのようだと表現されることが多いですが、なんとそのままチーズの代用としてパスタにしてしまいました。これはもう、鮒ずしがどうのこうの以前にパスタとして普通に美味しい。ビビットな乳酸菌の酸味が心に残ります。
鮒ずしの小吸物。スープの熱で鮒ずしを徐々に溶かしながら頂くのですが、まさに骨の髄まで愉しめる逸品であり、旨味が濃厚。
焼き物は琵琶湖の鮎。一般的に鮎は川で苔を食べて育つので、青っぽい爽やかな味わいが特長的とされますが、この鮎は琵琶湖で動物性のプランクトンを食べて育つので、不思議と肉っぽい味わいでコッテリと迫力のある味覚です。まだまだ知らない食材が沢山あるなあ。
〆は鮒ずしのお茶漬け。「美味しんぼ」にも取り上げられた逸品で、鮒ずしの切り身をご飯にのせ、お出汁と共に頂きます。穏やかでコクのある酸味が味蕾を優しく撫で、実にエレガントな味わいです。
デザートは酒粕のチーズケーキにシロップ漬けにした琵琶。酒粕の風味が濃厚で、まるでチーズケーキを食べているかのようです。
遠藤周作が言う「湖里庵へ来たら食べられるもの、湖里庵に来なければ食べられないものを名物料理として考えなさいよ」を体現した料理の数々を1.3万円で、税サ+飲み物代でひとりあたり2万円弱といったところと考えれば悪くないディールです。歴史や文化、空間と眺望を合わせて楽しむお店(写真は遠藤周作直筆の掛け軸!)。下戸の運転好きとご一緒にどうぞ。

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