アマラントス(amarantos)/赤坂

2021年秋、赤坂にオープンした「アマラントス(amarantos)」。印象的な店名であり、本来の表記は「Αμάρανθος」でヒユ科ヒユ属の植物を指し、ギリシャ語で「しおれることのない・色あせることのない」が語源だそうです。
カウンター8席に個室がひとつ(写真は公式ウェブサイトより)。宮﨑慎太郎シェフは「ヌーヴェルエール」「アジュール フォーティーファイブ(リッツカールトン東京)」など大店で活躍してきた料理人なのですが、独立後は小箱という点に意思を感じました。
ワインは自然派のものが多く、思っていたほど値付けは高くありません。最近のちょづいたレストランはブルゴーニュばっかし推してきて超高くなる傾向にありますが、当店はフランス全域に加え新世界も選択肢に入っています。
手の込んだアミューズ。ポレンタという素朴な料理をちょうどよいスナックへと昇華し、またホタルイカの旨味も食欲を着火します。温かいけれど酸味のあるスープも興味深い味覚です。
パンは甘くないシフォンケーキ。ふわふわとエアリーな食感ながらベーコンの旨味がきいており、2022年上半期において最も印象に残ったパンです。ちなみにシェフは「ラ バンボッシュ」で腕を磨いたパティシエでもあり、続くパンも甘くないマドレーヌであったりと、見逃せない美味しさが続きました。
北海道乙部町産のシマエビ。こってりと濃密な甘味が特長的。土台となるタマネギ(だっけ?)の味覚もしっかりしており、キャビアのソースで全体を取りまとめます。何ともセンスに溢れたひと皿です。
リドヴォー(仔牛の胸腺肉)も、一般的にはコテコテの味覚でありその脂っぽさからウっと来る方も多いのですが、当店のそれは何とも軽やかな調理であり、健康的なホワイトアスパラガスの甘味と共にエレガントな味わいでした。
季節のお野菜が凄い。まさに旬を迎えた個別の11人に対し、それぞれ独立した調理および調味が施されており、それでいて統一感のある味わい。こういう料理から入ればウチの子供たちも野菜好きになるだろうに。みんなガストのハンバーグの付け合わせのニンジンなんか食べさせるからあかんのや。
アイナメにつき、みんなの個体は肉が厚いため表面は思いきり火を通しても身にグラデーションが生まれ美味しそうなのですが、私の個体は妙に薄くペラペラであったため、皮目の焦げの部分だけが目立ちました。まあ、そういう日もあるでしょう。
メインは鹿児島産の枕崎牛。フィレ肉はフィレ肉なのですが、その周囲を端材を用いた挽肉で取り囲んでいるのが心憎い。これがSDGsだ。クラシックなソースと共に、王道中の王道の味覚でした。
ミルクのアイス。このアイスは濃厚オブ濃厚ですなあ。ミルキーを煮詰めてアイスにしたような味覚であり、強めの塩気も大人の装い。パイントで買って自宅に常備したいほどです。
メインのデザートが凝りに凝っています。崩してしまうのが勿体ないほどのキレイな造形をしたメレンゲの内部にはチョコを土台としたライムの味覚。サクッ・ジュワ・ドローリとした三重奏であり、2022年上半期において最も印象に残ったデザートです。
お茶菓子にも力が入っており、このままサイズを大きくすれば先のデザートに比肩するほどのクオリティの高さ。ちょろっと焼き菓子だけ焼いただけでミニャルディーズを終わらせる昨今の手抜きグランメゾンは反省するように。
以上を食べ、ひとり1本換算の量を飲んでお会計は3万円強。ワインの値付けが控えめであるため、思いのほか安く済みました(高いけど)。

どの料理も味覚の幅が広く色彩豊かであり、それでいてきちんと美味しい。記憶に残る食事でした。今のところ予約が何カ月先まで埋まっているということは無いようですが、快進撃前夜とも言うべきエネルギーを感じました。今のうちに唾を付けておくべき気になる存在です。

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