富小路 やま岸(やまぎし)/四条烏丸(京都)

京都で最も予約の取れないお店のひとつ「富小路 やま岸(やまぎし)」。1年待ちは当たり前の人気店であり、ギャルたちは一体どういうルートで予約しているんだと不思議に思うほどです。ミシュランでは1ツ星、食べログではシルバーメダルを受賞、百名店にも選出。予約時間は開始時間ではなくドアオープン時間なので、早くに到着しても入店できないのでご注意を。
築100年をゆうに超える歴史ある長屋をリノベしたお店。カウンター10席のみの潔い空間であり、着席するまでの長い石畳を通るアプローチがカッコイイです。

山岸隆博シェフは魚の卸売りの息子さんで、鮨職人として料理人としてのキャリアをスタートさせ、ホテルや「たん熊」「一の傳」で腕を磨き、2015年に当店を開業。茶道や華道、書道のスペシャリストでもあり、当店の余勢を駆って「二条やま岸」や「おいわいや」などの系列店も展開しています。
ドリンクメニューは無く恐る恐るでの注文なのですが、最終支払金額から逆算するに良心的な支払金額でした。みなビールや日本酒、お茶を楽しんでおり、ワインなどのちょづいた酒を飲んでいる人はいません。虎ノ門「と村」のように酒で儲けない主義なのかもしれません。知らんけど。
まずは鮎の飯蒸しで空腹を落ち着けます。さじでグイグイと鮎を混ぜ込みながら炊いた花山椒を組み込みます。素直に美味しい。
賀茂茄子を揚げたのち七輪で炙り、由良のムラサキウニをこれでもかというほど盛りつけます。これひと皿で5千円以上するんとちゃうか。美味しくないわけがなく、由良ゆらを彷彿とさせる若さと官能を楽しむ逸品でした。
トリガイ炙り。炙った上でこのサイズ感を保つとは見上げたものです。下に敷かれているのは小豆島の極太素麺を昆布締めにした上にトリガイの肝で和えたものであり、イタリア料理的なノリが感じられ楽しいひと皿です。
お椀はスッポンの出汁に新生姜豆腐。スッポンの骨格のある味覚と新生姜の爽やかな風味が良く合う。豆腐の滑らかでモチモチとした食感も後を引く美味しさです。
お造りは淡路産のアブラメ。無理にマグロを組み込もうとせず、その日いちばん旨いものだけを出す姿勢には共感を覚えます。シンプルに塩締めにしており、素材そのものの旨味や脂を楽しむ逸品です。
琵琶湖の鰻と万願寺唐辛子。バリっと思いきり良く炙られた皮目と筋肉質な身の対比が心地よく、心地よい酸味の出汁酢にピッタリ。
お寿司も出ます。手前はケンケン鰹(和歌山の「ケンケン釣り」という漁法で獲れたカツオ)で奥は鯛のちまき寿司。これは、うーん、タネそのものは美味しいのですが、無理に寿司にする必要はあったのかなあというお気持ちです。お腹も膨れますことですしおすし。
揚げ物は新蓮根とバチコの天ぷら。バチコは当然に酒を呼ぶ味覚でありナイス。新蓮根は蜘蛛の巣のような糸を引く個体であり、みょーんと伸びて楽しい料理です。
ホワイトアスパラガスにコゴミ。お口直し的なひと皿なのでしょうか、さっぱりと流れるような味覚です。
甘鯛の酒蒸しに黒もずく。この甘鯛は美味しいですねえ。甘鯛って、高いわりに味が薄く記憶に残らないことが多いのですが、今回のそれは身は厚く弾力があり、これが甘鯛そのものの味ですよと気付きを与えてくれるひと皿でした。
お食事は涙豆のご飯。スナップエンドウ的な味わいであり甘味が強く、小粒ながら逞しい味わいです。もちろんおかわりもOKで、別途白ゴハンの用意もあります。
ゴハンのお供も用意されており、一般家庭の朝食の勢いでガンガンと食べてしまったでござる。
食後の甘味によもぎまんじゅう。上質な小豆のアンコをヨモギの餡(?)で包む、中々ヘヴィーなひと品です。
他方、アイスクリームは新生姜の風味がきいたものであり、甘味はあるもののサッパリとした後味です。
お抹茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり5万円強。すげえ高い。ただ、すげえ高いですが決してぼったくっている感じではなく、高価な食材ならびに客数よりも多いスタッフの人件費を食べていると思えば仕方が無い面もあります。
インスタのタグ付けを見るとウニとカニと豊胸ギャルばっかり出てくるので一体どうなることかと不安を抱えながらお邪魔しましたが、料理に対しては硬派な取り組み姿勢であり、過度に繊細ではなく率直に美味しいパワー系の料理でした。

大将はざっくばらんな雰囲気で決してシリアスではなく、金銭面はさておき精神的には日本料理の入門編とも言える敷居の低さです。なお、スタッフ数は多いものの軍隊のように統率されており、皆が皆やるべき仕事をテキパキとこなしているため、料理が出てくるテンポはかなり速い。接待や女子会などで会話に意識が向くと途端に渋滞するのでお気をつけて。ある意味ではおひとりさまのほうが、きちんと料理に向き合えて良いかもしれません。

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