御宿 富久千代(おやど ふくちよ)/鹿島市(佐賀)

銘酒「鍋島」を輩出した富久千代酒造が営むオーベルジュ「御宿 富久千代(おやど ふくちよ)」。私は国内外含めてかなりのオーベルジュを訪れているつもりですが、酒蔵が営むオーベルジュというのは初めてです。
佐賀県鹿島市の肥前浜宿(ひぜんはましゅく)という、江戸時代から昭和時代にかけて酒や醤油などの醸造業を中心に発展した地域に位置します。宿の目の前の通りはズバリ「酒蔵通り」であり、茅葺屋根・土蔵造りの建物が並ぶ、近世にタイムスリップしたかのようなエリアです。
1日1組限定・1棟貸しというスタイルのため、大きなロビーなどはなく、お部屋でのチェックイン。どひゃー、広い!これ、部屋のリビングルームですよロビーじゃないですよ。ジャパンな空間に旨く欧米のインテリアが溶け込み、和洋折衷を巧みに実現しています。
オーディオルーム。これまでの決して短くない私の人生において、オーディオルームがある宿泊施設に泊まるのは初めてです。アンプはDenon、スピーカーはBang & Olufsenと気合いの入った設備であり、趣味の域を超えています。
オーディオルームの奥のロフト部分にあるベッドルーム。天井がガラスになっていて、茅葺きの屋根を裏から望むことができるという面白い設計です。
ベッドルームはもうひとつあり、どちらでもお好きな方を使うことができます。向かう途中にちょっとしたカフェスペースもあり、スペックとしては200平米超とのことですが、数値でカウントがするのが無意味に感じるほどの広さです。
ベッドルームその2。こちらのお部屋は壁に大型テレビがかかえられており、また、ワークスペースも用意されているため、畳敷きながら欧米系のホテルのような過ごし方ができます。wifiは下りで20-30Mbpsと、普通に過ごす分には問題ないでしょう。
茶室。へ?茶室?旅館の中に茶室があることはままありますが、滞在する部屋に茶室があるのは珍しい。私の教養レベルでは残念ながら使いこなすことができませんでした。
リビングルームに戻ります。それにしても広い。広いだけじゃなくオシャレな椅子も山ほどあり、越後湯沢の「里山十帖」の館内の椅子すべてを独り占めしているような感覚で、どこに腰を落ち着けるべきか正直持て余してしまう面もあります。
ミニバーにつき、コーヒー・紅茶・日本茶などは無料。スイッチを入れると15分で完成する製氷機が面白い。世の中色んなガジェットがあるんやな。
ワインセラーには当然に鍋島がギッシリ。ワイン類もほんの申し訳程度に格納されています。
ウェットエリアに参ります。ベイシンが2つあるというよりは、洗面台そのものが用意されており、女子4人で泊まっても揉めることはなさそうです。
こちらはもうひとつの洗面台。アメニティも用意されていますが、外資系ラグジュアリーホテルのような派手派手なラインナップではありません。
お風呂は結構広く、深い。大人ふたりは厳しいですが、家族で訪れてパパと子供といった組み合わせであれば十分快適に過ごすことができます。シャワーもふたつある。
トイレもふたつあって、いずれもウォシュレット完備です。この館、外観こそは伝統建築ですが中身はえらいハイテクです。
さてお待ちかね、「鍋島」を輩出した富久千代酒造の見学タイムです。通常は非公開ですが、宿泊客限定で社長杜氏自ら案内してくれます。
どひゃー、これはカッコイイ蔵ですねえ。もちろんガチの生産現場は機能的で清潔な空間ですが、ゲストをお迎えする空間はきちんとした建築家に依頼して誂えたものであり、その筋のコンクール(?)などで表彰もされているようです。
ひと通りの酒造りを案内してもらった後はテイスティング(生産現場は写真NG)。フランスアメリカのワイナリーの試飲室にも引けを取らないかっちょよさ。これが宿泊客限定とは実に贅沢。酒器もヨーロッパのアンティークもので、割ってしまったらどうしようと背筋の伸びる試飲です。
試飲アイテムにつき、写真のような市販品ではなく品評会に出品するような袋吊りの激レア品を味見させてくれます。これがどれぐらい凄いことかを説明するのは大変なのですが、パリコレのモデルが着ている衣装をそのまま試着させてくれると言えばわかり易いでしょうか。全然わかり易くないですねスミマセン。
宿に戻り、夕食はダイニング「草庵 鍋島(そうあん なべしま)」へ。アルコールのペアリングはもちろん「鍋島」尽くし。詳細は別記事にて
朝食は同じダイニングなのですが、お鍋が主役であるためテーブル席を使用します。大きな窓から望むお庭のグリーンに心なごむ。
まずはフレッシュジュースで気分を高めます。左からヨーグルト・オレンジ・トマト・ブルーベリー。いずれも商業主義を感じさせない味わいでグッドです。
お鍋は佐賀は嬉野温泉名物の「温泉湯豆腐」。特殊な性質を持つ嬉野の温泉水(調理用水)で煮ると豆腐が溶け出して来ます。豆そのものの味が濃く、そのまま食べても美味しいですが、削りたての鰹節とゴマダレで合わせるとより一層に味わいに。
炊き立てのゴハンに焼魚に卵・明太子。これぞニッポンの朝食です。
〆にタイのパテをゴハンにのせ、薬味と共に先のお鍋のスープを注ぎ込み、なんとも贅沢なお茶漬け(?)の完成です。うーん、朝から大満足です。
デザートは和三盆のプリン。品の良い甘味が満腹の胃袋の隙間にスルスルと溶け込んでいきます。
食後は腹ごなしを兼ねてチャリを借り「祐徳稲荷神社(ゆうとくいなりじんじゃ)」へ。こちらは関東在住者にはあまり知られていませんが地元では権勢を誇る神社であり、清水寺のように空中に本殿があり(エレベーターで行ける!)、その先の奥の院まではちょっとしたハイキングコースとなっています。たっぷり2時間は楽しめる魅力的な宗教施設でした。
お会計につき、1泊2食に食事の際のアルコールを付けて支払金額は2人で17万円弱。うーん、ちょっと高いなあ。富山の「レヴォ(L'evo)」よりも高く、もっと言うと50年連続でミシュラン3ツ星を維持した「オーベルジュ・ド・リル(L'Auberge de l'Ill)」や、シャンパーニュのこれまた3ツ星「L'Assiette Champenoise(ラシェットシャンプノワーズ)」よりも高いことを考えると、色々と思うところがありました。

もちろん1棟丸貸しで、非公開の酒蔵に参加できたり品評会に出すクラスの酒を試飲できることを考えればプライスレスなのですが、ちょっとした海外旅行級のコストとなるためあまり鍋島に興味のないギャルが奮発して来ると肩透かしを喰うかもしれません。あくまで鍋島の世界観を堪能するという目的でどうぞ。

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