日赤通りの人気焼肉店「肉匠堀越」が手掛ける新業態、「鈴田式(すずたしき)」に続いて「薪鳥 新神戸(まきとり しんこうべ)」が開業しました。場所は「鈴田式(すずたしき)」のすぐ近くであり、麻布十番木密地域の路地の路地という立地。入店するには勇気のいるエクステリアです。
「鈴田式(すずたしき)」によく似た内装で、トレードマークとも言えるメラメラと燃える薪の炎につい目が行きます。客席数はカウンター7席のみであり、平日であっても3回転をこなしつつ1年先まで予約で埋めるという物凄まじい人気を誇ります。
疋田豊樹シェフは東銀座「たて森」建守護シェフの薫陶を受け、その系譜を引き継ぐ「ヨシモリ」で焼き場を守って来ました。穏やかな笑みを湛えつつ炎に立ち向かう生粋の鶏肉ヲタクです。
港区の象徴のような仕組みの店なので、さぞやお酒がお高いのでしょうと覚悟していたのですが、コエドの小瓶が900円と良心的。日本酒も1合千円強といった程度であり、かなり自由に飲んだのですがお会計はひとりあたり2万円を切りました。
名刺代わりにとさっそくモモ肉。なるほど水分を含んだ生木の薪木で調理しているだけあって、そのアタックは実に瑞々しくジューシー。カットも大きく食べ応えがあり、最初の第一本をもってして当店は本物だと確信しました。
鶏肉をサっと炙ってお刺身で。きんかん(ちょうちんのアレね)をカラスミ風に仕上げたものを摺り下ろして振りかけるのが面白い。クリアな鶏肉の風味にちょっとした塩気と旨味が溶け込みます。
レバー。モモに引き続き食べ応え抜群。こんなにサイズが大きいのにも関わらず火入れが上手くエグ味などは一切ありません。
特大のマッシュルームを豪快に焼き上げます。やはり瑞々しいタッチであり噛みしめるごとにキノコの旨味が口の中に広がります。
お椀は鶏シュウマイ。スープの部は品の良いカツオ出汁であり、徐々に鶏肉のエキスが溶け込んでいき、味わいにグラデーションが生じます。
ところでお口直しのためにか大根の甘酢漬けが常設されているのが嬉しいですね。少なくなれば光の速さで補充してくれ、もうこれだけで酒が進むというものです。
なんて綺麗なハツなんでしょうか。一般的な焼鳥屋のハツってもっと茶色くてハツだよねという印象ですが、当店のそれは造形・色合い・味覚いずれをとっても美しかった。
肩にはハリッサを。ハリッサとは北アフリカの調味料であり、唐辛子やパプリカ、にんにく、タマネギなどを盛り込むのですが、当店では辛味を上手く抜き、和の味覚に寄り添うように仕上げています。
茶碗蒸しには百合根。「月光」という鬼束ちひろ希少なブランド品だそうで、大地のホクホクとした甘味が身に沁みます。
きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。砂肝なんだぜ、これで…。ハツと同様に綺麗な外観ならびに味覚であり、砂肝特有のサクサクした歯ごたえは感じつつも雑味のないエレガントな味わいです。
ブロッコリーに摺り下ろしたチェダーチーズを山ほど振りかけます。当然に美味しいのですが、ちょっと意図がわかりませんでした。私は鶏肉のために胃袋のスペースを確保しておきたい。
食パンには鶏の脂を塗り薪の炎で炙り、さらには鶏リエットをトッピング。一般的にリエットは冷えた状態で食べることが多いので、このようにジンワリと脂が溶けた温かい状態で食べるのも乙な味。
お口直しに菜の花のおひたし。たっぷりの鬼おろしで口腔内を整えラストスパートへと向かいます。
ハツモト。心臓の付け根あたりなのですが、その語感からは考えられないほどの柔らかいタッチであり、これで本当に心臓を支えていたのかと不安になる食感。適度に脂も感じられ、タレも濃くマニッシュな味わいでした。
そり。フランス料理でもたまに見かける希少部位ですが、なるほどシンプルにヒタヒタと炙って食べるのも良いですね。皮と肉の境目の充実した味わいに思わず目を閉じます。
フィナーレへ向け白菜煮浸し。鶏のお出汁をたっぷりと用いており、食べるというよりも飲み物に近い仕様です。
〆のお食事は「鶏そぼろご飯」。大きなザルを用いてミンチ肉を薪火で炙り、さらには土鍋の中にも薪を放り込み香りを移します。ありそうでない工夫でとても楽しい。薫香が食欲を刺激し、プレーンバニラ→卵かけ→ショウガとカンズリのトッピング、と、味変しながら3杯も食べてしまいました。
キャラメルにも薪の香を移しており、徹頭徹尾、薪に拘った食事でした。食後のお茶に東方美人を用意してくれるのも嬉しい。
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それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。
以上を食べ、結構飲んでお会計はひとりあたり2万円を切りました。お食事だけだと13,800円+サービス料10%であり、焼鳥屋として捉えると高く感じますが、鶏肉を多用する割烹と捉えれば寧ろリーズナブルに感じます。
一般的に焼鳥屋の鶏肉は全部茶色であとから写真を見返してもコレ何だっけなあということが多いのですが、当店の食材は色合いが鮮やかで、何を食べているのかがハッキリとよくわかるのがいいですね。
「鳥しき」のように特定の鶏に絞るのもクールですが、当店は様々な産地のブランド鶏を使い分けるという楽しみもあります。運よくお邪魔できる機会があれば最優先で訪れましょう。
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- 鳥さわ/亀戸 ←焼鳥業界の最高峰「鳥しき」ののれん分け
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