道後 海舟(かいしゅう)/道後温泉

道後温泉で一番の日本料理「道後 海舟(かいしゅう)」。ミシュラン1ツ星。もともとは松山の繁華街「一番町」で営業していたそうですが、このたび道後温泉へ移転リニューアルオープンです。
大きな窓を背に気持ちの良いL字型カウンター配置。木ではなく熊本の畳を用いた天板(?)でありノスタルジックな温かみが感じられます。

坂本紀征シェフは当店の2代目。日本各地の名店で腕を磨いたのち先代を継ぎ、2020年に道後へ移転オープン。カウンターのほか個室がいくつかあり、2階は20人超の宴会も可能とのこと。ちなみに松山イチの鮨屋である「くるますし」のシェフとはズっ友らしく、こういうストーリーに旅行者は胸が熱くなるものである。
酒が安い。この「愛」という酒は松山の飲食店みんなたちで造る特別な酒なのですが、それでも4合瓶で5千円。ワインも値付けが良心的で、場面で酒屋と大して変わらないぐらいの価格設定でした。
「まずは胃を温めましょう」ということで、セリを用いた粥。モチ米のネッチョリ感に心なごみます。
続いて若竹煮。フレッシュでピンピンな早堀筍を、これまたフレッシュなワカメと共に頂きます。ちょっとした柚子の香りが心地よいアクセント。
からすみ餅。うひょー、こいつは旨いっすねえ。餅の中にはワクテカにカラスミが詰まっており、海苔の香りと相俟って、無限に食べれる美味しさです。
茶碗蒸しっぽいスープなのですが、見える貝柱は真珠貝のもの。ほえー、真珠貝って食べれもするんだ。貝の旨味がギュウギュウに詰まっており、スープながら酒が進むという状態です。
エイの肝。え?エイって食べるの?しかもキモ?ダイブマスターの私としてはエイとは観賞用であり、しかも肝とはニッチ過ぎると若干ひいたのですが、これがもう、新鮮な鶏のレバーと同等かそれ以上のクリアな味わいであり、新鮮極まる珍味佳肴といったところです。
続いてヒラメ。愛南町という、愛媛の南西最果ての地で揚がったもの。昔は気合と根性をもとにシェフ自らの運転で片道4時間かけてゲットしに行っていたそうですが、現在は地元のバス会社と交渉を重ね片道ひとり旅を経て当店まで到着するようにしたそうです。何この心あたたまる展開。情熱大陸さんこっちです。
焼物は豊後水道のクエの味噌漬け。シイタケの炭火焼きや菜の花、クワイと共に酒の進む味わい。クワイなんてお正月以外に食べるの初めてだけど、美味しいなあ。
こちらも愛南町から直送のオジサン(魚の名前ね)。ダイブマスターの私としてはオジサンとは沖縄の海での観賞用であり、しゃぶしゃぶで食べるのはどうやったって初めてです。薫り高いネギと柚子胡椒、七味と共に抜群の美味しさ。
お食事に進む前にお漬物と小鉢がやってきます。瀬戸内の赤ナマコが心憎い味わいであり、ゴハンの前に残った日本酒を飲み尽くす至福のひと時。
〆のお食事がやってきました。お食事というか、並のOLのランチほどのボリューム感。愛媛発の日本最高金賞を受賞した「ひめの凛」と共にサワラの照り焼きを頬張る幸せといったらない。クエの潮汁もお新香も手抜き無しに美味しい。
デザートは愛媛が誇るミカンたちにイチゴと豆乳のプリン。日本料理店の甘味はいきおいシンプルになりがちですが、当店のそれは欧米系レストランもかくやという手の込んだ味わいでした。

以上を食べ、しっかり飲み、お会計はひとりあたり1.4万円。ランチコースだけだと1万円ポッキリであり、度を越した費用対効果と言えるでしょう。道後温泉はお湯としては有名ですが旅館の食事なんでどこも似たり寄ったりであり、いまどき1泊2食付きなど情弱。賢明な読者は素泊まりを徹底し、是非とも当店に予約を入れましょう。

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