H(アッカ)/恵比寿

神楽坂で好評を博した「H(アッカ)」が恵比寿に移転。以前「ゴロシタ.(golosita.)」があった場所の居抜きです。恵比寿にはもう一店舗イタリアンの「アッカ」がありますが、コンセプトが全然違うお店なのでご注意を。
神楽坂時代の6席から少しキャパを増やしたL字型カウンター。18:45ドアオープンの19:00一斉スタート遅刻厳禁方式。堀江徹哉シェフはお父様がフランス料理人というサラブレッド。イタリアで長年腕を磨いたのち、帰国後2020年に神楽坂にオープン。2021年に恵比寿へ移転してきました。

ところでひと組ちょづいた常連らしき客がいて、連中を上手にあしらえないのは今後の課題と言えるでしょう。また、黙々と調理をする際はマスクをし、発声して料理やワインの説明をする際はマスクを外すという謎の衛生観念なので、気にする人は気にするかもしれません。
ワインのペアリングは税サ込で1.1万円。ひとりあたり480ミリリットルと中々の量です。ワイン選びのセンスは中々よくお料理にピッタリなのですが、抜栓を始めとするワインの取り扱いは下手っぴですね。そう古くも無いワインのコルクをボロボロにし、腕もブルブルでジャバジャバにこぼすので、見ているこっちがヒヤヒヤしました。
まずは贅沢なロールキャベツ的料理。「極みキャベツ」にはたっぷりのカニが詰まっており、思わず笑みがこぼれる使用です。レモングラスの香りが爽やかで、カラスミの旨味がアクセントにきいています。
たっぷりのお野菜をグラタン風に。どのお野菜も美味しいのですが、とりわけイモの蜜のような味覚が心に残りました。途中で今朝獲れたばかりの白子を投入し、ベシャメルソースの濃度がパワーアップされるという仕組みです。
クエが美味しい。個人的にクエとは高いだけでそんなに旨い魚でもねえなあというお気持ちだったのですが、今回のそれは格が違う。ムッキムキにマッチョな個体で、その上でムッキムキな厚切りポーションであり、食べ応えという言葉がこれほど似合う魚料理もそうありません。ソースはアカザエビのエキスをたっぷり用いており、それを吸ったお米も天晴れな美味しさ。本日一番のお皿です。
パンは練馬の「パーラー江古田」謹製。シンプルですが香りが良く、先の濃厚なソースにピッタリです。
スペシャリテの「ダチョウのカツサンド」。おぼこいギャルならギョッっとする響きのお肉ですが、筋肉質であっさりとした味覚であり、カツにしてソースを塗って魅力的なカツサンドへと変貌します。端を気前よく切り落とすのが勿体なく思えるほど美味しい。
パスタは素朴なトマトソースで。エレガントな酸味を感じるトマトの風味が心地よく、燻製させたリコッタチーズをすりおろすのも面白い試みです。リコッタってあんなカチカチの固形になるんだ。
メインはルーアン鴨。奇をてらわず火を通し、生黒胡椒のソースでシンプルに頂きます。肌理の細かな肉質がしっとりと味蕾に迫り来る。付け合わせのセルフィーユのネッチョリした食感も面白い。飾り気なく真っすぐに美味しいにメインディッシュでした。
〆にホロホロ鳥のスープ。他の食材は使用せずたっぷりのホロホロ鳥を用いたスープであり、混じりっ気なしにホロホロしています。澄んではいますが濃密にして濃厚。ゼラチン質で、唇がグロスを塗ったようにテロテロしてきました。
デザートは蜜柑にチョコレートムース的な。セミフレードと言えども優しい冷たさであり、のんびりと心地よく食べ進めることができました。
続いてクレソンのアイス。青い香りがとても良く、鼻から抜けるような爽快感が堪りません。塩とレモンとオリーブオイルによる調味も興味深く、心に残った締めくくりでした。
お茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上を飲み食いしてジャスト3万円で、質と量を考えれば妥当と言える支払金額です。なお、私がお邪魔した際のコースは税サ込で1.9万円でしたが現在は2.4万円に値上げしたということで、それが吉と出るか凶と出るか。

また、料理は間違いなく美味しいのですが、冒頭に記した通りサービスや客あしらいについては荒削りな面もあり、まだまだこれからという印象です。金沢「マキノンチ(Makinoncî)」でも同じことを思いましたが、席数の少ないカウンターは同じ船の乗組員であり、変なのがいれば全体のムードが台無しになるので、お店側は苦笑いを浮かべながら見て見ぬふりを決め込むのではなく、毅然とした態度で取り締まるべきでしょう。客単価3万円を超えるレストランであれば尚更です。

レストランとは旨いメシさえ出せば良い、というわけでは決してないのだ。

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