Alternative (オルタナティヴ) /広尾

西麻布で人気を博した「Alternative (オルタナティヴ)」が広尾と恵比寿、白金高輪の重心あたりに移転オープン。前店舗は超ボロいビルの2階というヘンテコな立地でしたが、新店舗も住宅街にある団地というか何というか、やはりヘンテコな立地です。つまりは港区の穴場を見つける天才なのかもしれません。
内装は大きな変貌を遂げており、ドーンと高い天井にダイニングエリアと個室があり、厨房かぶりつきのシェフズテーブルも4席。それでいて一斉スタートではなく、何ならアラカルトでの注文も受付中と懐の広いお店です。

斉藤貴礼シェフは神戸「御影ジュエンヌ」渋谷「ラ・ブランシュ」で腕を磨いたのち渡仏。帰国後は銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」や「プロヴィナージュ」でシェフを務め、「プロヴィナージュ」の前経営者より店を引き継ぎ、「オルタナティブ」としてリニューアルオープン。2021年秋にこの地へ移転しました。
アミューズはアンキモ(?)のタルト。のっけから変化球で攻めるスタイルで、どことなくフォアグラを感じさせる滑らかさです。
続いてアンコウの身。ゼラチン質プルプルで実に潤う。付け合わせ的なポジションで田辺大根という大阪の特殊なダイコンを起用しており、緑色の色合いはその葉。どことなく和を感じさせるテイストです。
ハマグリのフリットにウニをトッピングし海苔を散らします。このハマグリが度肝を抜くサイズ感であり、まるでステーキを食べているかのようなムシャムシャ感。ウニの程よい塩気と旨味に海苔の磯の香りが得がたいシンフォニー。さりげなくワサビのアクセントを。
続いて子持ちヤリイカ。フランス料理ではあまり用いられない食材であり、なるほど半生で独特な味わい。気さくな味わいながらどことなくエレガント。
なんだ、君?一体、と思わせる破天荒なプレゼンテーション。上半分はギャル好みしそうな華やかなサラダですが、下半分は「ひのきのぼう」的なヴィジュアルです。
よくよく見ると下にはライスペーパーが敷かれており、「ひのきのぼう」を軸にクルクルと巻き付けていくとあら不思議、世界一オシャレな生春巻きが完成しました。ちなみに「ひのきのぼう」はゴボウであり、純粋抽象絵画のワシリー・カンディンスキーの作品に着想を得たひと皿だそうです。食べてきちんと美味しいのが凄いところ。
クエカツ。何て粗野で気品あふれる料理なのでしょう。淡白になりがちなクエの味覚をギュギュギュと凝縮し、酸味のきいたコッテリソースでGet Ready With Me。日本料理店や鮨屋がクエの取り扱いで苦戦する中、カツでいいじゃんと割り切る大胆さが大胆です。
パンはザックリとした食感でシンプルな味わい。中盤から後半にかけてフランス料理の真骨頂とも言える濃厚なソースが続くため、これぐらいの素朴な味わいがちょうど良いでしょう。
イベント的に登場したジビエのビスク。ビスクとはフレンチにおけるクリームベースの滑らかで濃厚な味わいのスープであり、エビなどの甲殻類を用いることが殆どですが、なるほど野生動物も良いものですな。ザラりとした舌触りが真実味を帯びており、百合根のホックリ食感に心なごみます。
メインはフランスはランド産の小鳩。これで小鳩かと背筋を伸ばす可食部の大きさであり、様々な部位を余すところなく頂きます。焼鳥っぽいクリアな味わいの部位から濃厚で肉々しい箇所、これはモツかと唸るほどの濃厚な内臓部分。赤ワインが進んで進んでしょうがありません。
〆はデザートか担々麺かのどちらかという、ありそうでない選択肢。スイーツに目が無い私ではありますが、担々麺にも目が無いのも私。嫌な辛味は無く出汁に本懐を置いた真に迫った味わいであり、フランスの甘味文化に対する挽歌とも言えるフィニッシュでした。
お茶に合わせて小菓子も出ます。お、ここで甘味を楽しめるのであれば担々麺を頼んでちょうど良かったかな。いずれも手抜きなく堂に入った味わいでした。
以上を食べ、ふたりでワインを1本にグラスワインを追加してひとりあたり2.7万円ほど。これだけの質および量を楽しんでこの支払金額はリーズナブル。何よりどの料理も意欲的でありながら、その全てがきちんと美味しいのが素晴らしい。西麻布時代も面白くて美味しい記憶はありましたが、それらにより一層拍車がかかった気がします。次回はお得意様向けの(高価な)サイトーコースにチャレンジしてみよう。

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広尾は初デートに良い街です。謎にハイセンスな雰囲気と下町的な親しみやすさが同居する。飲食店も都内トップクラスの名店が比較的リーズナブルな価格設定に落ち着いています。

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。