くるますし/松山

日本史上最年少でミシュラン2ツ星を獲得した「くるますし」。2021年7月には新装開店し、王者の風格を感じさせるカッチョエエ外観です。カウンター8席で夜のみの営業2回転制であり、その全てを予約で埋めています。
店内はカウンターのみで、ビシっと白木の一枚板が張られており無人島のように静かです。2代目の高平康司シェフは十代で当店の厨房に入り、東京では3ツ星「鮨よしたけ」で長く腕を磨き、2017年に帰郷し翌年にミシュラン2ツ星をゲットだぜ。
お酒は地元のものを中心におまかせで頂きましたが、最終支払金額から逆算するに恐らく1合千円かそこらでしょう。あがりに千円を要求するオーガニック系鮨屋とは姿勢がまるで異なります。
先頭打者がトラフグの白子。何この早すぎる展開。パンパンに膨らんでトロットロのボンバー。台座は茶碗蒸しっぽくなっているのですが、その体積を超えるほどの官能的な白子の味覚です。
大浜のタイ。今治あたりの有名な漁港だそうで、ビッキビキに新鮮でバキに出てきそうなほど筋肉質。熟成など科学の横暴に他ならないのだ。
アワビも優木まおみクラスにムッチムチの体躯であり、それでいて香りが素晴らしい。噛みしめる程に磯の香りが口腔内に満ちてゆき、この時わたしは絶頂を迎えたのです。
先のアワビはその肝のソースで頂くのですが、ソースを少し残しておくとシャリをぶち込んでくれ、贅沢なリゾットが完成します。これが旨いのなんのって。
サワラはバリっと皮目を炙り、身はしっとりとしたままで。苦みと旨味と甘味がバランス良く感じられ、ポン酢風味のタマネギや辛子と共に乙な味。
見て下さい、このカラスミのサイズ感を。これはもう眼福としか言いようがない外観。味覚についても申し分なく、このカラスミだけで1合は飲んでしまったかもしれません。
特大のナマコ。どちらかというとB級な扱いで酢をデロデロにして食べることが多い食材ですが、当店のそれは何ともエレガントな味わいで、しっとりと柔らかな仕上がりです。抜群に美味。これが鮨職人の仕事である。
先ほどのタイのお出汁。余計な調味は施しておらず、タイそのものの奥行きを楽しむことができます。広尾「長谷川稔(はせがわみのる)」の生臭いタイのスープとは何だったのか。
にぎりに入ります。まずはクエ。淡白な味わいであることが多い魚ですが、コチラは不思議と旨味が強く、ブラインドで食べればクエだとわからなかったかもしれません。
このカワハギはべらぼうに美味しいですねえ。身の美味しさは当然のこと、内側に張り巡らされたキモの旨さといったらない。
ブリ。こちらは少し熟成させてあるのでしょうか、ドーンと脂が乗っているものの上手く旨味が馴染んでおり後を引く美味しさ。
サヨリはお口直しとも言うべきシュっとした味わいであり、鼻から抜ける独特の風味に思わず頷いてしまいます。
マナガツオは軽く炙って(燻して?)おり、外皮の香りが素晴らしい。フラットな味わいの魚ですが、工夫次第でいくらでもリズムをつけられるのだ。
東京の鮨屋はマグロの存在感を金科玉条としがちですが、当店の大トロ1カンのみというスタイルも記憶によく残ります。予算を考えれば妥協ではなく妥当と言えるストーリー仕立てでしょう。
コハダは王道の仕上がり。当然に美味しいですが、他のタネに比べると陰が薄かったか。ただしこれはコハダに文句をつけているわけではなく、あら捜しをしてその程度というぐらい当店の鮨が抜本的に素晴らしいということです。あ、結論言っちゃった。
ワタリガニが斬新なスタイルで登場しました。シャリが見えず、その分カニの身と卵がハイパーインフレーションであり、2.5次元な味わいです。旨味がビンビンに強くやはり酒が進む。
アカガイ。歯ごたえが鋭く、ザクッザクッっと雪山を登るような食感です。後に続く磯の香り。旨すぎる旨すぎる。
特大のクルマエビはシュパっと茹でるだけであり、トップからボトムにかけてグラデーションを感じる火入れです。旨味を強く感じる部分、甘味を強く感じる部分、この時わたしは絶頂を迎えたのです。
ムラサキウニも地元のもので、ほえー、瀬戸内でウニなんて獲れるんだ。「ウニはやっぱり北海道」と北から目線な連中に見せつけてやりたい美味しさです。
穴子はどうなっているんだろう、笹の葉で挟んで熱を入れて何とも豊かな香りが満ち満ちています。ホロホロとまでは行かず適度に歯ごたえを残しており、かなり珍しい仕立ての穴子でしょう。
ギョクには海老やら芋やら色々と練り込んであり、見た目以上に密度を感じる味わいです。
他方、お椀は意外にシンプル。コハダと同様に奇をてらわないスタイルでした。以上でひと通りがフィニッシュです。
義を見てせざるは勇なきなり。追加もジャンジャン頂きましょう。こちらはキンメダイ。ボッテリと分厚く数十秒は咀嚼していたかもしれません。
ハマグリもビッグサイズ。思わず目を瞑ってしまうほどの旨さであり、なぜこれをひと通りのうちのひとつに組み込まないのかとシェフを問い詰めたくなりました。
ラストはもちろんカンピョウ。シャリに対して気前の良いカンピョウ量であり、もう思い残すことはありません。ありがとう、そして、ありがとう。

素晴らしいお店でした。今回われわれのグループは全員が食に関してニンフォマニアなのですが、その誰もが異論を唱えず全会一致で素晴らしいとの結論に至り、松山で一番、いや西日本でもトップクラスを張れるほどの説得力を感じたディナーでした。

郷党的とも言えるほど地元の魚介類を起用するのもいいですね。旅行者にとっては堪らないサカナセレクションであり、好き放題飲み食いしてひとりあたり2.8万円と銀座の半額。松山への旅行が決まればいの一番に予約したいお店です。オススメ!

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。