L'eclaireur(レクレルール)/代官山

白金高輪で人気のパティスリー兼フレンチレストラン「Libre(リーブル)」が代官山に移転オープン。2021年秋に開業と新しいお店なのですが、半年足らずでフーディーたちの間ではボチボチ話題となり始めています。ちなみに「Libre(リーブル)」は現在ラーメン屋として業態変更して営業中とのことです。えらい違いやな。
前面真っ白で手術室のような店内。BGMは無く、代わりに奥に鎮座する薪焼き窯からパチパチと炎の爆ぜる音が広がります。

田熊一衛シェフは代官山「レザンファン ギャテ (Les enfants gates)」を経てフランスへと渡り、有名店で研鑽を積み帰国。2018年に先述の「Libre(リーブル)」で腕をふるい現在に至ります。
ワインリストを眺めると、哲学を感じないラインナップかつ外資系ホテルのように割高で(テタンジェの普通のが税サ込で2万円弱)これはない。他方、ワインペアリングは6杯で9,900円+サ10%だったので、まあこんなもんなもんかとお願いすると、最初の泡は別料金で1杯2,200円+サ10%と不意打ち感がありました。
気を取り直してアミューズ。マンゴー風味の皮にレモンのタレが詰まっており爽やかな味覚です。
続いて手前は白子とホワイトアスパラのタルト。アスパラの甘味と白子の独特の味覚が良く合います。奥は「米麹の発酵白カビ ライストルティーヤ キャヴィアとコーヒーのKombucha」とのことですが、何やら固くて不味かった。
青魚を43℃で火入れし、アスパラとたっぷりのチーズと共に頂きます。コッテリとした脂の風味を活かした味わいです。
「オニオンスープ レクレルールスタイル」が絶品。これがタマネギかというほどコクと甘味に満ちたスープにタコの歯ごたえで遊んできます。付け合わせ(?)のホタテも優しい味わいで、本日一番のお皿でした。
「車海老のミ・キュイ ミルフィーユ仕立て」。私の大好物のエビなのですが、これはあんまりピンと来なかったなあ。ミ・キュイというには火が通り過ぎていて、ラスベガスあたりのビュッフェに並ぶシュリンプカクテルのような味覚でした。
温泉卵に発酵バターにコーヒー風味という曲芸。悪くはないのですが、まあ、卵だよねという味わいです。
事件発生。私は「WINE PAIRINGS 6 GLASSES(Entrée 2 / Poisson / Viande 1 glass : 80cc)」をお願いしたはずなのですが、あろうことか酒屋で4~500円で売られているビールが出て来ました。しかもご丁寧に80ccほどのひと口サイズです。これはない。V6のコンサートに行ったら岡田くんの代わりに小島よしおが出てきたようなものです。いや、ビールや小島よしおの是非を論じているわけではなく、話が違うじゃないかという話です。
パンもフランス帰りの料理人とは思えないほど粗雑な味わいで意気阻喪。それでも砂時計の砂は落ち続けている。
お魚料理はサワラ。白いソースで色々工夫してたっぽいですが、このあたり完全に心が閉じていて、あまり記憶がありません。パンとビールには人を狂わせる何かがあるのだ。
メインは豚肉。冒頭の薪火で丁寧に焼かれたものですが、行列のできるトンカツ屋のトンカツのほうが美味しい気がする。他方、ミョウガとオレガノを用いたソースには流石のセンスを感じました。
デザートは洋ナシにキイチゴとバラのムース。美味しいのですが、「Libre(リーブル)」時代の手の込んだスイーツからは随分と省力化を図ったなというのが素直な感想です。
以上でひとりあたり3万円弱。うーん、料理そのものは悪くないのですが、ワイン(とビール)の値付けが高すぎるのか、随分と高くついたなという印象です。

「Libre(リーブル)」は小さなお店ながら記憶に残る食後感であり、過去記事を読み返すと「白金高輪に新星現る。何とも鮮やかなお店でした。前衛的な料理ながらその全てがきちんと美味しいのが好感が持てますね。加えてこれだけのややこしい料理をかなりのスピード感をもって出し切る段取りの良さには舌を巻く」とベタ褒めだっただけに誠に口惜しい。

こういうことが起こりうるのが、そう、東京のレストランという世界なのだ。

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