ネモ(NéMo)/表参道

高樹町の交差点の西、表参道駅と恵比寿駅の間にある「ネモ(NéMo)」。「ナリサワ」「カンテサンス」など日本を代表するフランス料理店で腕を磨いた根本憲一シェフがついに独立、と、開業前から話題のお店です。
サービスのトップは「ベージュ アラン・デュカス 東京」から招聘とのことで、キング・オブ・グランメゾンのようなお店を想像していたのですが、店内は無印良品のカフェのように健全で気さくなインテリアです(写真は公式ウェブサイトより)。地階ながら採光も良く、港区のエロさなどは微塵も感じさせない健康的な雰囲気。
ワインリストは凄いですねえ。デビューしたばかりのレストランがどうしてこんなに、と、思わず背筋が伸びるラインナップです。ペアリングでもお願いできるそうなのですが、せっかくなので我々はボトルでこれぞという1本を狙い撃ちしました。
アミューズが凝っている。主題はアジなのですが、それ単体でも歯ざわりと旨味がバリバリの個体であり、それに寄り添う複雑な調味が施されており、ああ、フランス料理ってやっぱりいいなと思わせてくれる逸品です。ちなみにシェフは小っちゃなころから釣りキチであり、その頃からの人脈を駆使して漁師から直接お魚を仕入れることもあるそうです。
オニオングラタンスープが凄まじい。飴色を通り越して飴ではないかと思えるほどの個体っぷりであり、飲むというよりも食べるという表現がしっくりくるスープです。滋味あふれる大地の甘味に悶絶。フォアグラの存在感を余裕で超えてくるタマネギパワーでした。
パンも凝っていて、小麦粉をシェフの研究に基づきブレンドし、ゲストの来店を確認してから焼きに入るという念の入れようです。外皮は薄くパリパリなのですが、中身は水分たっぷりのジューシーな口当たり。
アナゴは豊洲の達人「ウエケン」より対馬産を仕入れます。鮨屋のゆるふわ系の穴子とはまるで別の食材であり、ムキムキマッチョで筋肉質な食感。バリっと思いきり良く揚げたのち、ローストしたマカデミアナッツを擦りおろす。衣の香ばしさならびにナッツの香り高さを共に楽しむひと皿です。
梅色(ウメイロ)、別名オキタカベ。あまりメジャーでない魚であり、市場に出回ることは殆ど無いそうなのですが、シェフは下田のダチに直接送ってもらっているそうで、フランス料理も人脈が物を言う世界になってきたのかもしれません。イサキのようなニュアンスの白身魚で脂のノリがちょうど良く、一方でクセは少なく、上品でエレガントな味わいです。
メインは松阪豚。ドーンと主題が明確でいいですねえ。肉の部分はもちろんのこと、脂の上品な甘味や旨味が堪りません。ソースも真っすぐでわかり易く、付け合わせのポテトグラタンも素朴ながら記憶に残る味わいです。
デザートはトマトに熱を入れ、ヴァニラをきかせてメープルシロップのアイスクリームと共に頂きます。ありそうでないオシャレな味わいであり、スイーツというよりも料理の色合いが強いひと皿でした。
小菓子はカヌレ。こちらもゲストが食べるタイミングを見定めて焼き上げ、少し休ませてカリっと頂きます。そのまま専門店を開けるクオリティであり、その存在感はあたかも沈まない落暉の如くです。
ハーブティーも凝っていて、フランスで12年もハーブ修業した方が旭川でクリエイトする特別なもの。カモミール主体で香り高く、ポカポカとお腹が温まって来るようです。

以上を食べ、お食事だけだと税サ込で8千円程と、これは大変尊い費用対効果ですねえ。ディナーでも飲んで食べて3万円程に落ち着くでしょうから、暴騰に暴騰を重ねる都心のフランス料理界に一石を投じる存在となるでしょう。

ここからは私の愚痴なので読み流して頂いて欲しいのですが、飲んで食べてひとり5万も10万もして1年先まで予約で満席、なんてレストランは現実的じゃないんですよね。ネットに貼りついて予約してマックですげえバイトして貯金して自分の分は払えたとしても、じゃあそんな高額店、誰と一緒に行くんですかという問題が常について回る。

もちろん私がご馳走するにやぶさかではないのですが、5万も10万もする食事をおごられて何とも思わない人種は売れない芸能人か売れっ子キャバ嬢かプロになり切れないラウンジ嬢ぐらいであり、そういった超高額店でご馳走されて平気でいられる価値観と、私の思想信条の間には深くて大きな溝がある。私の身の回りにこういう女の子がいれば全力で説教し、面倒くさいオッサンだと嫌われる、なんて日常茶飯事です。

何が言いたいのかというと、当店は素晴らしいフランス料理店であり、気の置けない仲間との食事や素敵な男女関係でのデートでは、当店のような価格帯が限界ではないかという問題提起です。次回はディナータイムにペアリングを付けてお邪魔しようっと。

食べログ グルメブログランキング

関連ランキング:モダンフレンチ | 表参道駅


関連記事
「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。