HATSU(ハツ)/北新地(大阪)

関西では珍しい北欧系レストラン「HATSU(ハツ)」。デンマークで腕を磨いた枡本航平シェフが繰り広げるイノベーティブな料理が自慢で、ミシュランでは1ツ星を獲得しています。北新地という、東京で言うと銀座的な街の居を構え、17:45ドアオープン、18:00一斉スタートという今風のシステムです。
店内はオシャレ居酒屋のような誂えで、カウンター6席に個室のテーブル席が1卓。「発酵」が当店のひとつのテーマでもあり、バックバーよろしく様々な食材が漬けこまれた瓶のラベルが所狭しと並びます。

客単価3万円、かつ、サービス料を10%取る店なので、当たり前のように脱いだコートを店員に渡そうとするのですが、あろうことか地べたに置かれたカゴにセルフで折りたたんで放り込むというルールであり、この日わたしはビキューナのコートを着ていたため相当に抵抗がありました。

加えて料理はカウンター越しにホイっと置かれるだけであり、給仕に何かサービスをされたという思い出は一切ないのですが(トイレの場所を教えてもらったぐらい)、それでいて10%のサービス料というのは図々しく思えます。
アルコールのペアリングが1万円強だったのでそれなりに期待していたのですが、始まりこそシャンパーニュであったものの、その後はほんの数口の日本酒が続き、少量のワインが出たと思えば酒屋で1本2~3千円程度のものであり、ひたひたと黒い感情が近づいて来るのを感じます。もちろん食事に合うと言えば合うのですが、このラインナップであれば6千円程度が妥当でしょう。
気を取り直して食事に入ります。「自然環境に配慮した自然栽培の秋田のササニシキ」を用いた自家製の甘酒。これが全然美味しくなくて、自然環境に配慮する前に目の前のゲストに配慮して欲しいところです。
ホタテに焦がしバターを組み合わせはアンチョビで調味します。アンチョビの塩気と旨味がバターのコクとよく合います。
タルトには甘海老とキャビア。奥のスプーンにはアジのたたき(?)。美味しいのですが、料理というよりも素材であり、見た目以上の驚きはありませんでした。
肉厚のキクラゲ。この料理は私は苦手ですねえ。まず、器を含めて絵的に無理。ダークブラウンのキクラゲに白いバターのソースを流し込むのも不気味だし、トリュフをかけるのも勿体なく感じました。
シェフが長年を過ごしたデンマークで定番の酢漬けのイワシを発酵バターと共に頂きます。このイワシは美味しいですねえ。脂がトロっとジューシー、かつ、酸味でキュっと〆ているのが心地よい。右の鹿肉(だっけ?)のハンバーガーは、見た目通りの味わいです。
菊芋のスープ。一般的な菊芋のスープであり、胃袋が温まります。
スペシャリテの「Hatsu salad」なのですが、温野菜にバターのソース(?)がかかっているな、といった程度であり、これをスペシャリテとするには少し厚かましいような気がしました。せめてブラスのガルグイユぐらい芸術性は欲しい。
パンは近所の「ル・シュクレ・クール」に特注しているとのことですが、「発酵」が自慢の店なのであれば、どうして自家製にしないんだろう。
お口直しのドリンクです。栗の風味と酢の酸が溶け合い、なるほどこれはナイスアイデアですね。グラニテ一辺倒の西洋料理に一石を投じる試みです。
ブロッコリー。タネも仕掛けも無いブロッコリーであり、単に茹でて焼いただけです。完全に家庭料理であり、客単価3万円の店で食べる料理ではありません。
緑色のリゾットは見た目こそ強烈であるものの味は無く、強く調味されたアナゴに全権を委ねています。日本の北欧系のお店って、どうしてこんなに不気味でおどろおどろしい料理を出しがちなんだろう。私はクルーズ旅行が好きで、ヨーロッパの主要港であるコペンハーゲンを何度か訪れているのですが、もうちょっと普通のビジュアルで普通に美味しい店が多い印象です。
メインディッシュは厚切りの豚肉でそれなりに美味しいのですが、客単価3万円のレストランのメインディッシュとしては弱い。超弱い。気のきいたビストロの2千円ぐらいのランチセットと大差ありません。
〆のお食事としてカレーが出るのですが、「女性は量を少な目に調整しておきました」とのことで、断りも無く勝手に量を減らされた連れは大激怒。冒頭に「サービス料10%を取るくせに~」と述べましたが、こういうところで謎の逆サービス精神を発揮してきます。
デザートはフランス料理における小菓子といった程度であり、パンチ力がありません。客単価3万円の食事としては激ショボです。
「お米コーヒー」として出されたものは黒焼き製法による玄米茶だそうです。

既に述べた通り、以上を飲み食いしてお会計はひとりあたり3万円。完全に高杉晋作であり、私の肌感覚としては1.5万円ぐらいが妥当です。もちろん関西では珍しいスタイルのレストランであるため、一風堂をニューヨークで食べれば2千円ぐらいするのと同じ理論なのかもしれません。

しかしながらゲスト数に比べて従業員が大杉で、人件費を食べている感が強いのは確かです。「kabi(カビ)」にせよ「LURRA°(ルーラ)」にせよ、この手のレストランはどうしてこんなにスタッフ数が多いんだろう。「サエキ飯店」であれば独りでこなしてしまう仕事量に見えるのだけれど。

私の口、ひいては価値観には全く合いませんでした。珍妙な料理の万国博覧会デンマーク館といったスタイルであり、物珍しさから記憶には残るかもしれませんが、料理として本質的にどうなんだろうというお気持ちです。

ところで、私の長々とした日記よりも、隣客のオジサンがぼそりと呟いた感想が最も正鵠を射ていたので紹介しつつ筆を置きたいと思います。

「なんや全部バターで白かったな。ようわからん」

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。