店内はカウンター8席のみですがゆとりのある席配置であり、グループごとにアクリルボードで区切ってくれています。
黄丹翼(おうたん つばさ。かっちょええ名前)シェフはフレンチの料理人としてそのキャリアをスタートさせたのですが、調理師専門学校で「寿司もり田」の大将が講師として来たことをきっかけに鮨に傾倒。「寿司もり田」で腕を磨いたのちに「寿司つばさ」を開業しました。
飲み物のメニューは無いのですが、最終支払金額から逆算するに、ビールも酒1合も千円程度でしょう。シェフはニコニコとゲスト全員に満遍なく話しかけてくれ、我々が隣のくそきもいオッサンに絡まれそうになった際にさりげなくブロックしてくれたりと、堂に入った客あしらいです。
お造りはアコウ(キジハタ)。塩昆布をくるっと巻いて、即席の昆布締めとして頂きます。プルっとしたアタックにムキムキの食感。抜けるような甘さ。北九州ならではの味覚です。
こちらはアマダイ。タイのおつくりは薄切りでみみっちいポーションであることが殆どですが、当店のそれはカツオのタタキもかくやと思わせる分厚さ。それでいて口に含むとトロトロと溶けるような舌ざわりであり、ウニの甘味と相俟って参りましたの美味しさでした。
ホタテをフライ(?)にしてからクリをすり下ろします。ナニコレ面白い。薄い衣のカリっとした食感がリズムを与えます。
にぎりはヒラメから。やはり厚切りであり、追いヒラメとも言うべきオマケのひと切れもトッピングされています。もしゃもしゃと口の中がヒラメに満ち満ち至福のひととき。
ガリは手元のツボからセルフで取り分けるスタイルであり、遠慮なしに摂取できるのが嬉しい。加えてフレッシュなキュウリも添えられ、にぎりのたびに口の中がリセットされます。アカイカ。細かく細かく包丁が入っており、味蕾との設置面積が大きくイカの甘味をふんだんに楽しむことができます。黄色のプチプチ(?)の食感や木の芽の爽やかな香りも程よいアクセント。
この夏は北陸に長期滞在していたためノドグロにはうるさいつもりでしたが、このあたりのノドグロも負けず劣らず美味しい。濃い油に濃い甘味。厚みのある味わいです。
このコダイはどっちゃくそ旨いですねえ。小鯛の概念が覆されるほどの厚引きのムキムキタイプであり、どこが小鯛やねんと突っ込みたくなるほどの食べ応えでした。
アカウニ。艶っぽい甘味にアカウニ爆発しろとも言うべき魅力的な磯の香り。私はとりたててウニが好きという人間ではないのですが、このウニの美味しさには頷かざるを得ません。
赤身のヅケ。赤身の風味が厚く力強い味わい。やはりマグロは花形である。
こちらは中トロ。中々の脂の乗り具合なのですが、やはり脂というよりも赤身のドッシリとした旨味が支配的でした。
コハダは気合の入った締め具合であり、ビビッドな酸味が脳を刺激します。
特大のクルマエビ。程よく熱を入れ甘味を出しつつ、ザクザクしとしと気持ちの良いタッチです。
サワラ。厚ぼったくカットされており、ジトジトと旨味が増したニュアンスが感じられます。小泉進次郎も納得のセクシーな味覚です。
茶碗蒸しが豪華。ぶつ切りのアワビがゴロゴロとぶち込まれており、コノワタ由来のガッツリとした塩味も楽しめます。ここまで酒の進む茶碗蒸しは中々ありません。
あなご。これまでの大振りで猛々しいタネから一転、小ぶりでゆるふわな誂えです。舌先でホロっと崩れる優しい味わい。
巻物はトロたく。海苔の風味と香ばしいタクアン、豊満な甘味のマグロが良く合います。
オマケで海老のお頭でしょうか。思いのほか可食部が多く、最後の最後まで余すところなく楽しむことができます。おいなりさんも出て来ます。何でも福岡と熊本の県境にある街の名産品のお揚げさんであるらしく、じっとりとした深い甘味が郷愁を誘います。
追加でカンピョウ。私カンピョウ好きなんですよね。家で絶対に作れないからお鮨屋さんに来ると必ず頼んじゃう。
しっとりとしたギョクで〆。ごちそうさまでした。
デザートに幸水を用いたシャーベット?スープ?カキ氷の最後のひと口のような食感を思い起こさせる、ありそうでないデザートでした。
飲んで食べてお会計はひとりあたり2.5万円。かなりしっかりにぎりを食べたなあ、という食後感であり、東京で食べること考えればお値打ちオブお値打ちです。何より地物と旬の魚介を多用しているのが旅行者にとって嬉しいですね。博多の鮨屋は金沢と同じく東京のヒト向けの店が増えてきましたが、新幹線で15分の小倉にはまだまだ気持ちいいお店が残っています。小倉観光と合わせてどうぞ。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 鮨m(すしえむ) ←東京という街が必要とする鮨屋。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 鮨 在(ざい)/広尾 ←これこれ、鮨とはこれですよ。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- 初音鮨(はつねすし)/蒲田 ←西の照寿司、東の初音鮨。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- 鮨処木はら(すしどころきはら)/函館 ←鮨屋の答えは函館にあったのです。
- 鮨 十兵衛/福井市 ←福井への旅行が決まれば最初に予約したいお店。
- 鮨 大門/魚津(富山) ←東京の鮨はもうオワコン。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 乙女寿司(おとめずし)/片町(金沢) ←私的北陸一番鮨。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。