カードル(cadre)/福井市

福井駅からタクシーで15~20分のフレンチ「カードル(cadre)」。銀座「エール」の姉妹店で、福井のブライダル業者「ブライダル西陣」の誘致なのかしらん。もともとは銀行があった建屋で、未だにATMコーナーは健在という銀行そのものの外観が面白い。店名はフランス語で「骨格」や「額縁」を意味します。
入店して驚き、ぜんぜん銀行じゃありません。この写真は個室のものですが、ダイニングはドーンと開けた広間であり、そのまま舞踏会でも開催できそうな迫力があります。リノベーションの魔力を見た。
ワインはペアリングでお願い。シャンパーニュで乾杯した上に全てのお皿にキッチリとした量を出して6千円かそこらというのは大変良心的。酒飲みは必ずペアリングも併せて注文しましょう。
福井に対する思いを綴ったレターに加え、お品書きには当店に関係する生産者の名前がずらり。近くの「Les Queues(レクゥ )」にせよ、このあたりのレストランは「俺たちはチーム福井でやっていくんだ」といった気合めいたものを感じます。

まずは東南アジアの緑のミカン(?)のオイルに甲殻類のお出汁を注ぎ込み、フランス料理風のトムヤンクンで胃袋を温めます。巧妙な風味に鼻腔が満たされ、期待で胸が膨らみます。
おおー、アミューズが凝ってますねえ。東京のコース8千円ぐらいの自称フランス料理屋ではアミューズにグジェールぐらいしか出しませんが、当店は地元の豆腐にウニのタルト、天然アユのリエット、黒龍で洗ったフォアグラのマカロンと、日本いや世界トップクラスの凝り様と言えるでしょう。
福井流に解釈したモリゾー。若狭の小鯛にナスを詰め込み、パリパリっとした大葉で全体を覆います。これは前衛的な日本料理としても使える技巧かもしれません。ちなみに何料理とジャンル分けするのが無意味であるほどの美味しさであったことを付け加えておく。
スズキ。地場のツルムラサキとキクラゲを底に敷き、魚介のスープをたっぷりと注ぎ込みます。皮目はパリっと、身はしっとりとしたレア感。全体を支える出汁の旨味。現代的な美味しさです。
パンはフランス料理屋としては珍しく、めっちゃ美味しい食パンといった仕様であり、そのまま食べても優しい甘味が心地よく、料理と合わせても主題を邪魔しない穏やかさです。
「畑」と題された箸休め(?)。味の濃い(味付けではなく味そのものが濃い)たっぷりのハーブに地元のタコをベニエ(天ぷら)したものを組み込み。この試みは畑とキッチンの距離の近さが為せる技でしょう。
メインは豚。福井が誇る黒龍酒造のお酒をどないかしたものであり、なるほど吟醸香ともいうべき独特の香りが漂います。肉そのものの味もよく甘味の強い脂とのバランスもグッド。カラマンシー(柑橘系のスパイス)のスタッカートも小気味良く、文句なしに美味しい肉料理でした。何でもかんでも和牛にウニをトッピングしトリュフをすりおろす東京のアンポンタンな文化は反省するように。
デザートは藤稔(ふじみのり)というブドウを主体としたもの。おおー、福井の片田舎(失礼)でここまで凝ったアシェットデセールを出すとは見上げた根性です。きっとオーナーがフランス料理大好きマンなんだろうな。
小菓子もかなり凝っていて、自家製のラムレーズンを用いたバターサンドであり、このまま専門店を開けそうなクオリティです。それにしても甘味のレベルが高すぎでしょう。ブライダルもやってるからスイーツの抜かりもない、といったところでしょうか。私が福井県人に生まれ変われば必ずここで挙式すると決意した瞬間です。
以上を食べ、かなり気前よくペアリングのワインを注いでもらったのに、お会計はひとりああり1.5万円で済みました。何と慈悲深い。東京であれば確実に3万円は請求される食後感です。もはやこれは社会貢献活動か何かではなかろうか。

東京の調理技術やセンスを土台に福井の食材で大暴れ。サービス陣も抜かりなく、ハコも立派と全てが完璧なグランメゾンでした。このあたりに旅行すると、どうしても日本海の海産物に目が行きがちですが、福井フレンチも同等かそれ以上の魅力に満ちています。福井で数泊を過ごすのであれば、一食当店でフレンチを挟むのも一興でしょう。オススメです。

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