ベルナール(BERNARD)/金沢

2021年5月に発売された「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」で1ツ星を獲得した「ベルナール(BERNARD)」。せっかく金沢に住んでいるんだからお邪魔してみようかなとネットで情報をかき集めるのですが、不思議と見当たりません。仕方がないので直接お店へ電凸します。
予約の際に「お写真は全てご遠慮頂いております」と、丁寧な物腰ではありますが毅然とした態度(画像は公式ウェブサイトより)。なるほどー、だから変なインスタグラマーやちょづいたブロガー(決して私のことではない)が集まらず、結果としてネット上に情報が流れないのですね。

ちなみに写真はもちろんのこと、動画も当然にNGで、スマホをテーブルの上に置くことすら認められていません。「カンテサンス」のようにダイニングではNGだけど個室はOKみたいなお店はいくらかありますが、何もかも完全にNGというのはある意味でスタイリッシュであり、シド・ヴィシャスのようなパンク魂を感じました。
お店は金沢駅から徒歩15分ほど。玉川図書館近くの近くです。この地で既に10年以上営業を続けており、インターネッツやミシュランなど関係なく、地元住民に愛されているお店なのでしょう。入店時は靴底まで消毒するという徹底ぶりであり、そのへんの空港よりも検疫体制は盤石です。
店内はオレンジ主体の温かみのある空間(画像は公式ウェブサイトより)。席の間にはゆとりがあり、港区女子とそのスポンサーみたいな客は絶対にいません。かけてもいい。

牛山隆之シェフは金沢市出身。金沢やフランスの名店で腕を磨いたのち、2009年に当店をオープンさせました。

ワインリストはこの規模のお店としては(失礼)中々に分厚く、シャンパーニュとブルゴーニュが多め。値付けも悪くなかったのでボトル主体に組み立てました。ちなみにペアリングでの提案もあるようです。

アミューズから爆上げ。アジと水ナスを折り重ねたものに、スパイシーなタコ、トウモロコシの焼き菓子に黒トリュフバターです。恐らくは我々が入店してからの作り立ての出来立てであり、料理人としての矜持を感じました。

前菜は甘エビのカクテル。といっても単なるカクテルというわけではなく、見目麗しいハーブのサラダにグリーンアスパラならびに甘エビが組み込まれ、仕上げにたっぷりとキャビアがトッピングされています。写真に決して映るわけではないのにこの盛りの良さ。東京のインスタ映えしか能のない阿呆なフランス風創作料理店は反省するように。

続いて能登アワビ。絶妙な厚さにスライスされたアワビには肝のソースがたっぷり。特大のセップ茸のアワビとはベクトルの異なる食感も同時に楽しむことができ、ワインが進む一皿です。

ハモはベニエ(衣揚げ)に。ややもすると単調になりがちな食材ですが、衣で風味を強くし逞しい風味に仕立てています。付け合わせの種々のカボチャとも良く合う。

フォアグラは黒ビールで仕込んだ黒イチヂクと共に。興味深い試みですが、少しばかりフォアの脂が強く感じました。もう少しビビッドな調味のほうが私好みかもしれません。

続いて戻りガツオ。カツオとビーツと金時草と組み合わせるのは恐らく世界初であり、加えてビーツとカツオのブイヨンでスープ仕立てにするのもチャレンジングです。まるで日本料理のようでもある。

お魚料理はカサゴのグリエ。淡白な白身魚ではありますが、ソースならびにトッピングにカラスミを起用するという冒険譚。ハーブ風味のだだちゃ豆や栗のコンフィなど自由奔放な組み合わせであり、肝臓に余裕があればコッテリとした白ブルでも1本お願いしたいところです。

お肉料理はアイルランド産へアフォード種の牛ヒレ肉。正統派ローストといった調理であり、ピペラードソースの柔らかな香辛料がしっくりきます。

デザートは石川県産の様々なブドウにメレンゲ。いわゆるヴァシュラン調のスイーツであり、スイスイと食べ進めることはできますが存在感は抜群といった甘味でした。

ミニャルディーズも凝っていて、どこぞでフーニエでもやっていたのではないかと思うほどのレベルの高い焼き菓子でした。
お食事のコースは1.5万円。シャンパーニュ1本とメインにグラスワインを合わせてお会計はひとりあたり2.5万円。地元を愛しフランスを愛しフランス料理を愛したシェフの見事な一食であり、昨今の写真映え命のグルメ業界に一石を投じるスタイルでした。

これだけ世の中のデジタル化が進むと写真が撮れないお店は奇異に映るかもしれませんが、そのぶん真面目に食事と会話に取り組むことができるのはすごくいい。何よりヘンテコな客が100パー締め出されているので、心を乱されることなく快適に料理を楽しむことができます。

大切な方と素敵な時間を過ごすためにどうぞ。

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