Sushi 直(なお)/片町(金沢)

金沢随一の飲み屋街「片町」にある「Sushi 直(なお)」。お隣は金沢チェコ料理の代名詞「DUB(ドゥブ)」で、お向かいには戦後のバラックのような屋台横丁「中央味食街」があり、何ともディープな雰囲気です。
店内へは靴を脱いで上がります。コの字型のカウンターのみで、大将をゲストたちがぐるりと囲んで頂きます。貸し切りとかだと楽しそう。

大将のムッシュ荒川直紀は静岡県出身。清水「末廣鮨」で腕を磨いたのちシンガポールに渡りミシュラン星付きシェフに。帰国後、2019年12月末に当店をオープン。
まずはもずく酢。暑い1日だったので、スッキリさっぱりシャキっとする味覚が心地よい。
子持ち昆布はコリコリとした食感でふっくらと香る磯の香り。今後の展開に期待を寄せます。
ミンチ状にしたマグロ。かなり細かく挽いており大人のマグロのスムージー。ちなみに大将のマグロを取り扱う腕は「末廣鮨」仕込みであり、結論から申し上げますと終盤のマグロラッシュは圧巻であった。
何とも気前の良いカニの量。気取った専門店の気取った料理よりも余程食べ応えがあります。
ボタンエビにはトロリと卵黄を。じっとりと深みのある海老の甘さに卵黄の円みのある風味が実に良く合う。鮨屋ではありそうでない試みです。
焼き物は太刀魚。ふっくらと柔らかく身が膨らみ、皮身はバリっ香ばしい。
スズキ。しっとりとした仕上がりでラルゴなスタートです。
アカイカ。そうめんのように細く切られくるりと纏められています。ブツブツと断続的な食感が印象的。
ヒラメは先のスズキと同様に穏やかな味わい。当店の白身は全てがしっとりとしており大人の味覚です。淡路島の鮨とは真逆のスタイル。
レンコダイは一般的なタイよりも柔らかな水分を含んでおり、お手柔らかな食べ応えです。味わいも実に清らか。
ノドグロ。観光客向けの鮨屋と異なり品の良いポーションであり、脂の強いタネとしてはこのぐらいのサイズ感が良いのかもしれません。必要にして充分。
カツオも決して血気盛んというわけでなく、優しみを感じるのどかな味わいです。
アジも円熟した味わい。トッピングの緑色のやつに良い意味でクセがあって、心地よいアクセントでした。
タイラガイ。サッパリとコンパクトな味わいであることが多いですが、今回のそれは不思議と凝縮感があり、ギュッとした味わいを楽しめました。
本題に入りましょう。ここからマグロ特集です。赤身からトロへのグラデーションが美しく食欲をそそり、そして実際にかなり美味しいです。
こちらはヅケ。ちなみに当店のマグロの漁場はケープタウン沖であり、そこから豊洲に行く前に当店が一本買い。このあたりのロジスティクスは「末廣鮨」で取った杵柄でしょう。
東京の高額鮨屋は、ゲストがわかりやすいブランドを望むため大間や戸井一辺倒で、大間などある意味では大衆化が進んでしまったかもしれません。女子高生がバーバリーのマフラーをしてる的な。その中でケープタウン一本買いで様々な部位をバランス良く提供する大将には信念めいたものを感じます。
カマの部分。まるで和牛のような外観であり完熟した味わい。脂の量も心地よい。
脂たっぷりの部分をトップから炭で炙ります。フツフツと脂が沸き立ち思わず頬が緩む。
序盤のミンチ肉をこれでもかという程つめこんだ一本。マグロとシャリの量が同じぐらいであり、幸せな味覚配分です。
エビ。なるほど酸味を感じるマグロを食べ続けた後だと実にコッテリと甘く感じます。
ウニイクラの小丼。あれだけの美味なるマグロを食べた後にこの気前の良さ。イクラの塩気にウニの甘味が心地よい対比に繋がります。
アナゴが特大。大口の私でさえも一口で入るかなあというレベルであり、ムッシャムッシャと心強い食べ応え。
こちらはトロ鉄火。本日の総まとめとも言うべき慈悲深い一品。やはり当店のマグロはいくら食べても旨い。やはり旨いものは旨い。「美人は三日で飽きるというのはブスの自殺を救うための嘘である。」という言葉をふと思い出しました。
ギョクは少し変わってて、ひと口噛みしめるたびにジュワっと旨味が滲み出てきます。カステラとかケーキ調のギョクともまた違う、マグロのジュワジュワ感に通じるものがありました。
魚介の風味がたっぷり溶け込んだお椀でフィニッシュ。ごちそうさまでした。
デザートはメロンなのですが、これが実にジューシーで程よく熟成が進んでおり、やはりこれまでのマグロの味覚とも共通点が感じられます。大将はジューシーなニュアンスが好みなのかもしれません。

以上を食べ、お食事だけでお会計はひとりあたり2.2万円。これだけのマグロをたらふく食べたことを考えれば割安です。銀座「鮨とかみ」とはまた違ったマグロへのアプローチであり、都心の高級マグロ争奪戦とは別世界の出来事のようです。

ギャルとデートしたい場合に「ザギンでシースーどお?」よりも、「金沢にマグロを食べに行かない?それもケープタウンの」のほうが誘い文句としては印象に残るかもしれぬ。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。