熾火がパチパチと爆ぜる音が心地よい、カッコイイ誂えのオープンキッチン。ダイニングとシームレスに繋がっており、窓も大きく、福井で最もスタイリッシュな空間かもしれません。
阪下幸二シェフは中目黒のフレンチレストランを経て地元に戻り、タイミング良く居抜きで開業。オープンは2000年と、意外に歴史のあるレストランです。
アミューズはトウモロコシのタルトレット。トウモロコシの甘味が活き、心地よい幕開けです。
続いてキツネガツオ。表面はパっと炙られており香ばしいかおりが食欲をそそります。厚切りでムシャムシャとした食感も食べるに楽しく、併せてズバっと焼かれたナスの風味などは和のニュアンスも感じさせる美味しさです。
タマネギのヴィシソワーズ。冒頭のトウモロコシと同様に、素材の滋味がしっかりと活きています。ホタテも気前の良いサイズであり、熱を入れてキュっと引き締まった味覚が美味しい。お魚料理はスズキ。石窯の熾火でシンプルに焼き上げたものですが、これがべらぼうに旨い。表面はカリっと、身はぷっくりと膨らみ、フワフワと実に優しい歯ざわり。フランス料理で食べるスズキは殆ど印象に残らずグズグズの身を濃いめのソースでギリ食べる、みたいな地味なものが多いですが、当店のスズキは「俺は鈴木だ」とその存在をハッキリと主張する、目の覚めるのようなひと皿でした。
お肉料理は若狭牛のイチボ。こちらもやはりシンプルに焼いただけですが、ほとばしる熱いパトスを感じる逸品です。サクっと入るナイフの手触りが快感。表面から内部にかけての食感グラデーション、素朴ながら真実味のある味覚。どれをとっても一級品の味わいです。
デザートはブドウに甘酒のアイス。独特の香りがふんわりと鼻腔に広がり、レトロネーザルが楽しい大人の甘味です。
小菓子はカヌレと手が込んでおり、そのまま専門店をオープンできそうなクオリティでした。1万円ほどのお食事のコースにお酒をいくらか飲んで、お会計はひとりあたり1.5万円弱。福井県のランチ相場からすると高めに感じるかもしれませんが、フランス料理としては実に尊い費用対効果です。このクオリティの焼き物は、フレンチに留まらず和洋中どのジャンルを加えてもトップクラスと言えるでしょう。
食材だけでなく、器やナイフなどの食器類も福井県産のものに拘っているのも好印象。旅行者としてはアクセスの難しい土地ですが、福井駅からタクシーで乗り付ける価値のある素晴らしいローカル・ガストロノミーでした。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- 銀座 大石/銀座 ←自分が働くならこういう職場。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に。
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- エステール(ESTERRE)/大手町 ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。
- ル マルタン ペシュール(LE MARTIN PECHEUR)/吹上(名古屋) ←フランス料理という文化に対する並々ならぬ愛情を感じました。