御料理 一燈(いっとう)/福井

福井で一番の日本料理と言えば「御料理 一燈(いっとう)」。2019年に威風堂々とした建屋に移転し王者の風格です。北陸の素材と味覚にこだわると評判のお店。ミシュラン2ツ星。
店内は個室が殆どですが、オススメはカウンター席。まさにシェフズテーブルといった臨場感で、プロの料理人たちの真剣勝負を垣間見ることができます。

倉橋紀宏シェフは福井出身。2007年に「ときの蔵」を開業し、2012年には「日本料理 一燈」、2019年に「御料理 一燈」としてリニューアルオープン。
いずれの日本酒もグラス(120ml)で千円近くと酒はやや高め。ただしお食事の価格設定が実に良心的(後述)なので、総額で考えるとリーズナブルです。
先付は地元のイチヂクにシマエビ。イチジクの熟した甘さとシマエビの官能的な甘味がよく合う。キャビアもアクセントとしてナイスな使い方であり、まったりとしたゴマのソースもお見事。ひと皿目にしてすっかり心を奪われてしまいました。
お椀は焼いた丸ナスにハモ。赤ちゃんのゲンコツほどのサイズがあるハモがムシャムシャと美味しい。焼いたナス独特の香りが食欲をそそり、もちろんお出汁もパーフェクトな味わいです。
お造りはアカイカ、アラ、サワラ。アカイカはクリアな味わいながらどこかセクシーさを感じさせる味覚。アラの美味しさにつていは語るほどにチープになる完成された味わい。サワラは表面をバリっと炙られており、サクっとした表面やジューシーな肉質など、まるで肉を食べているかのような食べ応えです。
お凌ぎに三輪そうめん。コシを感じる存在感のある素麺で、薄甘く煮られた若狭牛のしぐれ煮によく合います。
焼き物は天然の鰻。バリっとした歯ざわりにジュワジュワとにじみ出る高貴な脂。思わず言葉を失う程の美味しさ。実山椒のソースも含め、幸福が隅々まで行き渡っています。オレンジ色のはサラっと置かれていますが、最高品質の自家製カラスミであり、ああ、こんな贅沢な食べ方をしても良いのでしょうか。お酒が進んでしまいます。
お肉料理は若狭牛。キメの細かい肉質で、赤身と脂のバランス感覚が素敵です。ホックリ仕上がった新ギンナンや香り高井万願寺唐辛子もグッド。中々のボリュームですが、軽やかに平らげてしまいました。
アワビも出ます。ギュムギュムと弾ける食感に旨味の強い餡が良く合う。おかひじきもその餡をたっぷり纏って、見た目以上に食べ応えのある小鉢です。
お口直しも洒落ていて、緑の味を楽しむ金時草にトマト、キクラゲ、オクラ。ジュレの酸味が絶妙で〆の炭水化物に向けて内臓がGRWMです。
まずは炊き立ての白米。ご飯のお供はたくさんありますが、まずはプレーンバニラで素材そのものの味わいを愉しみます。
続いてキメジ丼。キメジとはキハダマグロの子供であり、瑞々しく健やかな味わい。ゴマの風味も活きていて、ここまであんなに食べたのに、さらに食が進むという背徳的な丼です。
まだお腹に余裕があれば、とのことで、たっぷりのおじゃことカラスミが塗されたゴハン。なんと気前の良い。先のオカズと合わせて味コイメの至福のひととき。腹パンじゃ。
デザートはメロンにスイカにシャインマスカット。ヨーグルトの酸味と共に、爽やかにフィニッシュです。

以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり2万円弱。お食事だけだと1.5万円と信じがたい費用対効果であり、東京のちょづいた日本料理店であれば倍かそれ以上は請求されることでしょう。
シェフが無駄口を叩かず料理に集中しているのも好印象。最近の料理人はスナックのママのように客に媚びる傾向にあり、肝心の調理作業がおろそかになっている店が増えてきましたが(特に東京)、当店は料理の鉄人もかくやという真剣勝負。福井駅からも遠くないので、福井に来る機会があれば必ず予約を入れましょう。オススメです。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
日本料理はジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの日本料理ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い日本料理なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。