たきや/麻布十番

リッツカールトン東京和食部門の総料理長が麻布十番に独立し話題を集めた「たきや」。私は開業してすぐの頃にお邪魔したのですが、同じ麻布十番に移転してからは初の訪問です。食べログでは4.48(2021年6月)でシルバーメダル獲得と王者の風格。
前のテナントよりも空間を広く感じる誂え。一斉スタートであり10人を超えるゲストを同時に相手するのですが、待たされたと思うことは一度も無く、このあたりの運用設計は完璧です。
この手の和食店としてはお酒の値付けが控えめ。ビールは千円を切り、日本酒も1合千円~です。ワインリストもお借りしましたが、値付けが控えめを通り越して安いレベルであり、天ぷらに合わせてコッテリした白ワインなども良いかもしれません。
安定のお通しセット。ホッキ貝に赤うに、そら豆、生のエビにキャビア、特大のバチコ。これは酒飲みには堪らない構成ですねえ。いずれも酒を呼ぶ味わいであり、これだけでビール1杯日本酒1合イってしまいました。
さっそく天ぷらに入ります。まずは海老。当店の天ぷらの特長は油臭さが全く無く非常に軽やかな点でしょう。内臓が少しも疲れない。店内の空気もクリアで、揚げ物がなされているとは思えないほどの清澄さです。
エビヘッド。海老の風味が濃く実に香ばしいものの、サクサクとスナックのような感覚で食べ進めることができ、大人のかっぱえびせんです。
とうもろこし。真っすぐに伸びる夏の味わい。素朴ですが文句なしに美味。ちなみにシイタケ嫌いの好物はトウモロコシのかき揚げとウズラの卵です。
キス。これがキスかとのけぞるほどの美味しさ。素材の良さだけでなく、フワっとエアリーに仕上がる揚げのスタイルも記憶に残ります。
4番サード、ウニ。これはもうウニの理想形とも言える味わいです。この日わたしは北海道から帰ってきたばかりなのですが、かの地で食べたどのウニよりも美味しかった。
レンコンもトウモロコシに方向性が似ており、シンプルに大地を感じる純然たる味わいです。
つい今しがたまで存命でいらっしゃった稚鮎。写真で切り取ったかのように躍動的な風味であり、儚い青臭さが喉を鳴らす。
太刀魚。キスと同様、これが太刀魚かとのけぞるほどの美味しさ。厚みがあって、魚の脂も感じつつ、余韻は軽い。揚げ物というよりも蒸し物を食べた感覚。
特大のハマグリ。海の風味が凝縮されとてもジューシー。やっぱ貝類は熱を加えたほうがメリハリが出るなあ。
お口直しにサラダ。といってもカニが山盛りであり四捨五入するとカニです。青い味の濃いアスパラもおいしゅうございました。
真打登場、シャトーブリアンの天ぷらです。聞いただけだと胃もたれしそうな料理ですが、これが肉を揚げたものかと疑ってしまうほどの軽やかさ。ステーキで食べるよりも揚げた方が軽く感じるとは摩訶不思議。
ナスはトロトロに仕上がり、野菜とは思えないほどの舌ざわり。海老の風味がきいたお出汁も美味しく、一滴残らず飲み干しました。
フィニッシュに海老再登板。確かに序盤に頭を2個頂きましたが、なるほどこういうことだったのですね。
アナゴ丼に悶絶。「にい留」「みかわ是山居」のように攻めたアナゴも好きですが、当店のようにゆるふわな仕上がりもまた一興。花山椒の気品溢れる風味と共に。
デザートにグレープフルーツゼリー。地味にとても美味しい。
煎茶とわらび餅で〆。ごちそうさまでした。

割と飲んだのでお会計はひとり5万円に迫る勢いでしたが、一般的な酒量であれば4万円前後に落ち着くでしょう。さすがに高額ですが、このクラスのキスや太刀魚などを楽しみたいのであれば仕方がないなと納得する食後感。

以前お邪魔した際は日本料理の気配を強く感じたのですが、現在はより天ぷら色が強くなったという印象。ああ!天ぷら良く食べた!と、しっかりと記憶に残った一夜でした。

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