パトゥ(Patous)/麻布台

神戸は元町で20年に渡って好評を博したお店が乾坤一擲の大移転。麻布十番駅から歩いて十数分。飯倉片町交差点からすぐにあるフランス料理店「パトゥ(Patous)」。前には「オー・グルマン(Aux Gourmands)」が在った場所ですね。
フランスの小さなレストランのように雰囲気の良い店内。客席数は8席ほどであり、ご夫婦で運用されるには丁度良いサイズ感です。

山口義照シェフは神戸「レストラン コムシノワ」や札幌「コート ドール」白金「コート ドール」など日本のフレンチレストランの名店で腕を磨いたのち渡仏。1999年に神戸トアロードに当店を開業しました。
ワインの値付けが港区に毒されていないのが凄く良い。思わずスイッチが入ってしまい、ゴクコクっといってしまいました。ペアリングなどグラス売りでの対応も可能なようで、マダムと相談しながら決めましょう。
アミューズにコーンのムースとパンケーキにウニ、トマトのジュレ。これはのっけからやられました。とても美味しい。ウニの味覚は説明するに及ばず、パンケーキのような素朴な食べ物まで高次元。
ハモは藁焼きで。人形町「川田(かわだ)」でも思いましたが、ハモはお椀などでなくバリっと炙る方に向いている食材ではないかと大きく頷いてしまう美味しさです。エンドウ豆を分解したソース(?)も伸びやかな味わい。
島根のコッテリしたアジを燻製バターと共に頂きます。生の魚に大量のバターという斬新な取り合わせですが、意外にも親しみ易い味わい。若々しいトリュフの風味も良く合う。
パンは素朴な味わいですが、この日のコッテリしたソース軍にはちょどよい方向性です。
丸々と太った天然の鮎。バシュっと思いきり良く揚げており、メロンとキュウリやウイキョウの風味で複雑性を添加します。鮎は塩焼きか天ぷらで食べることがほとんどですが、なるほどこういったフランス料理的な楽しみ方も乙な味。
天草の天然の岩牡蠣。先の鮎もそうですが、そのままですごく美味しいのに、追いソースとも言うべき味変の調子が素晴らしい。牡蠣をフランボワーズのビネガークリームで食べるという煌びやかな試みでした。
ホワイトアスパラガスにトリ貝。この組み合わせもナイスですねえ。ホワイトアスパラガスは基本的に単体、せいぜい合わせても卵ということが私の食生活の全てでしたが、まさかトリ貝と共に食べてこんなに旨いとは。知識の獲得と知性の開発は必ずしも一致しないものなのだ。
甘鯛のポワレとパドロン。パドロンはピーマンの仲間であり、軽やかなシシトウというか青臭くほろ苦い食材。淡白で印象に残りづらいアマダイにギュっと記憶を刻み込みます。
お口直しに白桃とセロリの冷製スープ。なのですが、これが口直しレベルの量ではなく丼いっぱい中々の飲みごたえでした。何ならカッペリーニでも添えてつけ麺として楽しみたいクオリティです。
メインは北海道産の山羊。おお、山羊をチーズ以外で食べるのはとても珍しい。味わいは羊の臭みを排除したような方向性であり、どことなく焼鳥的な香ばしさを感じる味覚です。とても健康的な味わい。
デザート1皿目はスモモのソルベと黒いちぢく。いずれの素材も深みがあって、いぶし銀を感じる大人の甘さです。
デザート2皿目はルバーブのアイス。1皿目と同様、きちんと甘いのですが不思議とアダルトなニュアンスを感じ、ある種の悩みを感じる鋭い味覚です。
小菓子にハーブティーで〆てごちそうさまでした。

お会計はひとりあたり3.6万円。ただしこれはかなりしっかり飲んだ結果であり、お食事だけだと2万円に普通に飲んで3万円を余裕で切る価格設定でしょう。これは、良い。費用対効果はさておき、フランス料理として正統的に美味しく、しっかり食べたという満足感がある。素材のポテンシャルを活かしつつ、ソースや副題でチョイチョイひねってくるのが凄く良い。大人のしっとりとしたデートにオススメ。美味しいぞ。

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