川田(かわだ)/人形町

人形町の雑居ビル地下に入居する日本料理店「川田(かわだ)」。席数が少ないことも手伝って、開業して割とすぐに予約が難しくなってしまい、今では食べログ4.16(2021年8月)でブロンズメダル獲得、百名店入りと既に大物の風格です。
カウンター6席のみの小さなお店。料理と内装のスタイルが似ており、どちらも素朴で真っすぐです。川田治司シェフは紹介制の名店「井雪(いゆき)」での経験が長く、京味の系譜を汲んでいます。かといてちょづいた雰囲気は1ミリもなく、朴訥ながらもにこやかで親しみやすい好青年。

飲み物のメニューは無く明細も不明ですが、あのシェフの人柄でアルコールでめっちゃ儲けたるでぇ、といったことはまずないでしょう。
まずはウニをどっさりと。ジュレでモザイクかかってますが、外観以上にどっさり入っています。ジュレはタイの煮凝りであり、海に抱かれたような味わいです。
ハモの飯蒸し。ハモをウナギみたいにして食べるのは初めてはもしれません。香ばしい焼き目にタレがじゅわり旨い。
ずいき。これはもう、ほんとうにずいきしか盛られておらず、名店で長年過ごした胆力を感じました。小心者の料理人はすぐにキャビアだのトリュフだのをトッピングしたがるものである。
イチヂクの田楽。しっかり甘いはずなのに、不思議と生まれるオカズ感。
揚げ物はトウモロコシにアワビ、新ぎんなん。このアワビは美味しいですねえ。弾力と粘着性のある独特の食感であり、歯があるうちに食べておきたい逸品です。トウモロコシも素朴に旨い。ちなみにシイタケ嫌いの好物はトウモロコシのかき揚げとウズラの卵です。
稚鮎の天ぷら。さっくりとした食感とほろ苦さ。夏が来ました。
じゅんさいも本当にじゅんさいだけです。ミスター素朴。
お造りはタイにトリガイ。こちらもやはり素朴なのですが実に上質。派手派手に盛られた盛り合わせよりも、より魚に向き合えた気がします。
お椀はグジ。かなり存在感のあるグジであり、お椀のタネというよりも、しっかりと魚を食べたという印象です。
焼き物はノドグロ。ジュワジュワと脂を弾かせながらの登場ですが、少しもくどくない。日本酒が進みます。
ハモそうめん。ハモのすり身を贅沢に用いており、お魚ながら滑らかな喉越しです。しみじみ旨い。
炊き合わせは賀茂茄子に石川芋、アナゴ。やはり純朴な味わいで心なごみます。
さてここからは当店の名物とも言うべきごはん特集です。まずはお漬物で残りお酒をフィニッシュ。
まずは新しょうがの炊き込みごはん。爽やかでスパイシーな風味が食欲を再点火してくれます。
白ごはんとタイ。先のお造りで用いたタイをゴマダレで頂きます。ゴマダレのコッテリとした味わいにライスの糖質がしっくりくるなあ。
卵黄のヅケでしょうか。大将は米の炊き加減に最も気を配っているのではないかと思うほど神経を尖らせており、こういったシンプルなひと品も立派なごちそうとなります。
ちりめん山椒はこれでもかという程ちりめんがぶちこまれており、ごはんとの比率が贅沢。
5種類目は牛しぐれと共に。深みのある牛肉の味わいと優しい甘さ。すっかり満腹です。
練りたてのわらび餅でフィニッシュ。お米とは入る部分が違うようで、満腹ながら軽やかな締めくくりです。

お会計はひとりあたり3.8万円。さすがの価格設定ですが、良いものを率直に外連味なく楽しむという意味ではベストなお店。奇をてらった外観の創作和食屋が増える中、こういったクラシックな料理の存在意義は厚く、一周まわって新鮮味すら感じます。鮨で言うところの「恵比寿えんどう」。インスタに毒されていない、本物を見極めることのできる紳士淑女でどうぞ。

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