金澤せつ理/金沢

金沢屈指の高級料亭「つる幸」が閉店し、当時の料理長が新たにオープンさせた「金澤せつ理」。場所は近江町市場近く元「つる幸」の超ご近所。オープンして日が浅いためか、食べログの口コミは10件以下でした。
入店して笑撃。カウンター真正面に超巨大なテレビがかけられています(写真はポケットコンシェルジュ公式ウェブサイトより)。このクラスの日本料理店としてはかなり珍しい誂え。映像はオリジナルのものだそうで、石川県の観光地の紹介が静かに流れています。

河田康雄シェフは大阪の「味吉兆」を経て「つる幸」の2代目料理長となり、「料理の鉄人」や「情熱大陸」にも出演した経験があります。
酒は選べばかなり安い。例えばマスターズドリームは700円であり、この価格で飲める日本料理店はかなり珍しい部類でしょう。日本酒も1合千円~であり、それほど商売っ気は感じませんでした。
まずはサクラダイ。かなり厚めに切りつけられており、グニグニとした食感を楽しみます。ウニの起用方法も嫌らしくなく、サクラダイに磯の風味を添加するに留めるというバランス感覚を感じました。
八寸。中央の茶碗蒸しが斬新。ベースは一般的な茶碗蒸しに具材はホタルイカなのですが、イカスミのシャーベットを差し込むという荒業をやってのけ、前衛的な欧米系料理、そう、例えば広尾「Ode(オード)」のような創造性を感じました。
お椀はアワビのしんじょうにアワビ茸。なるほどアワビの風味が強く大人の味わいです。「ねえ、あの『シイタケ嫌い』ってヒトさ、こういうキノコも苦手なわけ?」知るか。でも本当にシイタケだけがダメで、他のキノコは全部大丈夫とも言っていたよ。
お造りは地アラ、サヨリ、アマエビ、シマエビ、ボタンエビ。「地アラ」とはこの辺りでは一番の高級魚で、いわゆる「アラ」とは異なりスズキの仲間だそうです。なるほど確かに風味豊かで王者たる風格を感じました。
焼き物はアマダイ。ぶつ切りのカラスミを調味料代わりにして酒の進む味わいです。身の厚さも中々のものです。
ノドグロのしゃぶしゃぶ。コッテリとしたものが多い魚から程よく脂が抜け、タケノコと共に若竹煮のように奥ゆかしい味わいを楽しみます。
お漬物が届きました。上品で美味。でも、あれ?もうおしまい??なんかすっげえ少なくない?もちろんランチ1万円のコースなどであればまあこんなもんかという食べ応えですが、お食事だけで2万円を超えるにしては胃袋がガラ空きである。
温かい液体を飲むと空腹感が紛れると何かで読んだことがあるのでお味噌汁を瞬でがぶ飲み。腹減った。
アカイカにコノワタを纏わせた丼。文句なしに美味しいのですが、もっと皿数が多いと勝手に信じ込んでおり多めに酒を発注してしまっており、残った日本酒を飲み切るラストチャンスでした。
〆のお食事はもうひと皿。自家製のカレーです。もちろん美味しいのですが、なんだか上手く丸め込まれたような気もします。
イチゴにオレンジ、ブルーベリーをマスカルポーネと共にごちそうさまでした。

以上を食べ、ビール1杯に2合を飲んでひとりあたり2.4万円。東京で同じものを食べることを考えれば割安ですが、私のスイートスポットには刺さりませんでした。どの皿も美味しいのですが淡々と進捗し盛り上がりに欠け、記憶には残らなかったというのが正直な感想。「つる幸」出身と言えば「片折(かたおり)」が話題ですが、同じくピンとこなかったことを考えると、このあたりの好みは人それぞれなのかもしれません。

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