レ・トネル(Les Tonnelles)/金沢

金沢フランス料理界の先駆者である「ぶどうの木」グループが、本店敷地内にグランメゾンをオープン。高名な建築家に設計を依頼し、フランスから気鋭の料理人を招聘するなど気合の入った試みです。店名は軒先や庭に木で組み上げる棚のことです。
どひゃー!なんでしょう!この素敵な空間!まるで世界一オシャレな体育館のようです。なんでも日本を代表する建築家・坂茂の設計であり、紙管を組み上げたドーム状の温室は世界でも珍しいそうな。

砂山利治シェフはロンドン生まれ。青春期を日本で過ごしたのち渡欧。ジュネーブ「Le Buffet de la Garedes Eaux-Vives」、フランス「La Grenouillère」「Flocons de sel」など星付きレストランで腕を磨き、当店のシェフに就任。
食前酒とアミューズはこちらのラウンジで、と、本格的なフランス料理のスタイル。柱だけでなく椅子やテーブルの脚、ワゴンなども紙管で作るという拘りっぷり。火事とかマジやべぇな。
ワインペアリングは5千円ポッキリ。地元のクラフトビールに始まり、当店のぶどう園で獲れたブドウで造ったワイン、地元の日本酒、そして南アやボルドーと多種多彩。気前よくドンドン注いでくれるので左党には堪らない。
紙製のピクニックボックスに配されるアミューズ。フキノトウミソの旨味が食欲を呼び寄せます。
場所を変え厨房正面のカウンターへ。ここではシェフ自らゴボウのエキスを抽出し、カード(チーズのWIP)にエキスを注いで自分たちでモッツァレラチーズを作り上げるという面白体験。チーズプロフェッショナルとしての血が騒ぐ。
お食事はメインダイニングで。床からブドウの木が生えておりそれらの蔦が天井を這い、春と修羅のようにダイナミック。なんてロマンティックなのでしょう。大きな窓からは柔らかな瑞々しい農園が広がり、実にポエティック。
まずは敷地内で採れたお野菜。ゲスト自ら摘み皿に並べ、思い思いに頬張るというリアルFarm to Table。ニューヨークの「Blue Hill At Stone Barns」にいるような楽しさがあります。
お皿に並べました。中央には土佐酢のジュレと卵黄。そのままディップしても良し、混ぜ混ぜしてマヨネーズ風にしても良し。とにかく楽しいひと皿です。
続いて1か月間も熟成させたニンジンを。程よく水分が抜け風味が凝縮され驚くほど甘い。まるでアプリコットのドライフルーツを食べているかのようです。燻製させたサワラはチーズのように奥行きがあり、抜群のセンスを感じるお料理でした。
続いてタケノコ。「色白美人」という、選抜に選抜を重ねられた東大理三のように上質なタケノコです。もちろん素材に頼り切って終わりということはなく、筋目正しいソースの使い途も正統的。付け合わせ(?)のマダイもかなりの迫力です。
アスパラを3種の味で頂きます。このアスパラは仕入品だそうですが、現在、アスパラも自家農園で栽培できるよう鋭意研究中だそうです。
メインディッシュは春キャベツ。チップス状に焼き切ってドーム状にした器の中には更にキャベツが。土台はフランス産の鴨であり、かなりしっかりした量です。鴨よりもキャベツのほうが地位が上なのが当店流。
デザート第一弾はイチゴ。白いのはココナッツであり、ある意味ではヴィーガン食。それでもキッチリ美味しいのでヴィーガンになるのも悪くない。
続いてシナモンがテーマのひと皿。アイスやチョコ、焼き菓子などが立体的に盛り付けられており、それぞれがきちんと美味しい。聞くと当店はシェフの他、フランス帰りのパティシエも登庸しておりソムリエも大ベテラン。よくよく考えると銀座の最高級店にも負けない布陣です。
食後はテラス席に移動してお茶。こういった場所の移動は実にフランス的であり、ちょっとした海外旅行に来たような満足感があります。今度フランスに遊びに行けるのはいつだろう。コロナ禍において料理留学できない若手が増えて、文化的な分断が起きなければ良いのだけれど。
焼きたてのフィナンシェに、きんつばをイメージした小菓子、ならびに当園で採れたハーブをブレンドしたお茶で〆てごちそうさまでした。
お料理が8千円にお酒のペアリングが5千円で支払金額はひとりあたり1.3万円。何かの間違いではないかと卒倒しそうになる費用対効果の良さです。倍請求されても文句は何もない、それくらい満足度の高いランチでした。
金沢初心者の方はどうしても市街地で海鮮モノが中心の食運びとなりがちですが、数度目の金沢旅行であれば少し郊外へ足を伸ばし、「ぶどうの木」グループの農園をお散歩してから当店で最先端のコンセプト・レストランを楽しみましょう。オススメです。

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