「みもっと先生」という、タイで料理を学んだ料理研究家(?)が目黒川沿いにタイ料理店をオープン。併せて「おいしみ研究所」というタイ料理教室も主宰。デビューしたばかりの飲食店が時短要請中に堂々と2回転、20:30スタートというは恐れ入る。
ちなみに私は数年前に長期間バンコクに滞在していたことがあり、それなりの有名店は巡り、現地に潜入し過ぎた結果、食中毒で入院した経験まであるので、タイ料理についてはそこそこ食べているつもりです。
入店してすぐ、店主である「みもっと先生」の第一声に耳を疑う。「今日はお客さんが多くて時間がかかりますが、気長にお待ちください」なんと愚かな。まともなパフォーマンスを発揮できないとわかってるなら予約人数絞れよ。それでいて2回転とは図々しいにも程がある。加えて「気長にお待ちください」だと?こんな失礼なことを店から言われたのは生まれて初めてです。だいたい何へらへら笑ってんだよ、真剣に仕事しろ。
久しぶりのガチヤバ案件なので慌てて店主について色々調べると、どうやら旦那さんのバンコク赴任についていき、外国人向けのタイ料理クッキングスクールに通っただけというのが彼女の料理人としてのキャリアの全てのようです。まじかよ料理教室に通ってただけかよ。
しかもそのことを恥じることなく堂々と公式ウェブサイトに掲載する精神力の強さといったらない。タイ人が日本の外国人向け料理教室で学んだだけで、タイに戻って「本格日本料理」と名乗っていたらどう感じるんだろう。ちなみに私はニコライ・バーグマンのフラワーアレンジメント教室に通ったことがあるのですが、フローリストと名乗るのは控えています。
飲み物メニューは無く価格の開示もないのですが、総支払金額から逆算するに、ビールは千円弱といったところでしょう。また辛い料理が多いのであわせて水をもらおうとするのですが、堂々と有料のミネラルウォーターを押し売りしてきます。私はこんな店に意地でも金を落としたくないので水道水で結構の一点張りなのですが、むこうも意地でも飲み物で利益を上げようとしバチバチです。
20:30の予約で10分前に入店し、けっきょく最初の料理が出てきたのは21:03でした。入店から43分。冒頭の宣言通りすげえ時間かかっとるわ。しかもこんな料理、事前に仕込んでおいてチョイチョイって盛り付けるだけやんか。春巻きを除いてアラミニュットに拘る必要性が感じられません。味はまあ普通に美味しいというか、そのへんのアジアン居酒屋の前菜盛り合わせと大差ありません。鶏肉のハーブスープ。こちらも普通に美味しいのですが、9,900円のコース料理の中の1品としては気づきがありません。タイの屋台なら200円か300円でより高次元なスープが楽しめます。
ホタルイカとセロリのサラダ。店主は「タイでは~」「現地では~」と得意げに語り衒学の気があるのですが、悪い意味でこんなタイ料理は見たことがありません。仕上げにエディブルフラワーを散らすあたり実に表面的であり、ホタルイカの素材としての美味しさ以上のものはありませんでした。
レモングラスのサラダ。写真に刻まれた時間を確認するに、先の料理から20分のインターバルがありました。こんな料理に時間がかかるのはマジで謎。しかもこのタイミングで店主が常連客と世間話を始め、しかもその間は手が止まるという地獄の一丁目。おしゃべりはそのへんにして仕事に集中しなさい。
「海老味噌のディップ 季節野菜と」とのことなのですが、左上のタレにはカルディで買ってきたような既製品のペーストが用いられていました。
効率化のためにそのような加工品を用いることを否定はしませんが、彼女の公式ウェブサイトに「カレーペーストからディップソースにいたるまですべて丁寧に手作り」との記載があるので、いよいよジャロ案件かもしれません。
やはり20分の調理時間を要した「タイ風海老カツ」。これもそこそこ美味しいのですが、皿出しのテンポが悪すぎでしょう。全ての調理・盛り付けを彼女が担っており、バグラチオン作戦のように苛烈な戦いに独りで臨んでいるのですが、その他の従業員は出来損ないの幽霊のように突っ立っているだけというオペレーションは何とかならんもんか。
ガイヤーン(グリルチキン)は、そのへんのスーパーで買ってきたような鶏肉をこねくり回しただけであり、ポケベルで*2*2を押し忘れたような味わいです。エカマイの「サバイジャイ(Sabai-jai)」なら数百円で数倍の量、数倍の美味しさです。いや違うな、ゼロには何をかけてもゼロだった。
米をよそってカレーを盛り付けるだけで15分を要します。部活の合宿でこの運用ならボコられんぞマジで。常連を除くすべての客はあからさまに待ちくたびれたという雰囲気でお通夜状態。地下鉄のように全員がスマホをいじっています。しかもすっかり冷めていて全然美味しくない、一体何がしたかったんだと首を傾げる一品でした。
「もういいよ、帰ろうよ」連れは海外の星付きレストランであっても気に入らなければコースの途中で帰ってしまう海原雄山のような女ですが、なんとかデザートだけ付き合ってもらうように大説得。しかしこれが繋がりづらいWiFiのように腹が立つ味わいであり、コンビニスイーツのほうが余程上質でした。
お会計はひとりあたり1.2万円。やばたにえん。これは本気でやばたにえん。久しぶりに本気で頭に来たお店でした。「本格タイ料理」を名乗ってはいますが、実際にはタイ風創作ダイニングであり、モンスーンカフェで出てくるようなアジア風料理が勿体ぶって順番に出てくるだけです。料理で2,480円、飲み放題をつけて4千円が妥当なところでしょう。
そもそも飲食店としての良し悪しを論じる前に、のれんを掲げてお客様をお迎えするサービスレベルには達しておらず、スタートラインにすら立てていません。料理好きの素人が周りにおだてられて壮大な勘違いをしてしまい、その認知の歪みをもとにうっかりお店を出しただけ。学芸会の演目にお金を徴収するようなものであり、段取りが悪く妙に会費が高いホームパーティーにすぎません。
もちろん素人が瞬間最大風速的にプロの味覚に迫る料理をうっかり作れてしまうこともあります。しかしながら、プロにとって味の良し悪しなんぞ二の次。プロの料理人として最も大切な資質とは、同じことを毎日毎日繰り返し繰り返し継続し、当たり前のことを当たり前にこなし続けることができるかどうかです。ゴーイング・コンサーン。
年間300日、嵐が来ようが熱が出ようがバイトがばっくれようが恋人の二股が発覚しようが同じクオリティのものを安定して作り続けてこそプロ。間違っても「今日はお客さんが多くて時間がかかりますが、気長にお待ちください」などと職業意識の低い腑抜けた態度でゲストに臨むべきではありません。ショウ・マスト・ゴー・オン。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。