岡田前/麻布十番

西麻布「The INNOCENT CARVERY」の岡田賢一郎シェフが独立。「The INNOCENT CARVERY」では1日1組限定のシェフズテーブルがあり、常連客はその席のことを「岡田前」と呼んでいたので、そのまま店名となりました。2021年2月14日オープンと新しいお店。
L字型カウンター8席が2セットと面白い構成の店内。入れ替え制ではなく、各セット時間帯をズラして一斉スタートという斬新な仕組みです。最近の話題店は2回転するくせに開始時間を守れない欲ボケな店が多いので、当店のスタイルは大変印象が良い。なお、土地柄ならびにコンセプト柄、客層は港区おじさんとその女子だらけです。
ペアリングは11,000円+サービス料なのですが、これは正直微妙でした。色々出してくれますが、これが面白いぐらいにマッチしない。単品ドリンクやボトルワインの値段は立地を考えれば悪くないので(ビール900円)、自分で選んだほうが納得感が高いでしょう。
イクラの山が出てきました。イクラの下には松阪牛の出汁を用いた茶碗蒸しが潜んでいるのですが、四捨五入するとイクラです。「この時期のイクラ、どうなんかねえ。ぜったい冷凍っしょ」と、連れ。僕はイクラ好きだから、いくらでも食べれるけどね。「何か言った?」いえ、つい口が滑りました。
メンチカツにはウニの山。やはりこれも四捨五入するとウニである。加えて肉汁たっぷりのメンチカツにウニが合うかどうかは甚だ疑問。ウニそのものの質は大変良いので別々に食べたかった。
ヅケ。もちろん牛肉です。おお、これは美味しい!ヅケと言えばマグロ一辺倒の中、ありそうで無い、斬新だけれどどこか懐かしい味わいです。たっぷりのワサビも良く合う。
牛タンの刺身。べらぼうに旨い。フグ刺しのように薄切りで舌に乗せると体温でニュルっと溶けていきます。赤身(?)そのものの味わいも濃く、こちらも今までに無いタン料理です。ただ、削ったトリュフの厚さが微妙に厚く、香りが損なわれ舌ざわりが悪くなっているのが勿体なかった。
牛のコンソメをベースとしたひと皿。フカヒレ・アワビ・タケノコ・花山椒と高級食材のオンパレード。もちろん美味しいのですが、若干やり過ぎ感も否めません。
目の前で手切りして作られるユッケ。炊き立てのごはんに卵黄を落とし、ユッケを盛り付けキャビアをドーン。軽く混ぜるとご飯の熱で肉の脂が溶けていき、官能的な味わいを奏でます。ただし、やはり四捨五入するとキャビアな感は否めなく、個人的には白髪ネギとかのほうが美味しく食べれるような気がしました。
店内中央に鎮座する特別な窯(?)を用いて焼いた肉。開始から100分経たないと火を入れた肉を出さないとは中々の焦らしっぷり。香ばしい火のかおりにサクっとした食感が印象的。
シャトーブリアンの天ぷら。「これはどうしても『たきや』のアレと比べてしまう」と、連れ。うるさい客である。「たきや」は移転してからお邪魔してないので、どんなだったかは失念してしまいましたが、この天ぷらはバジルの風味が肉に寄り添い美味しかったです。
さてメイン。カメノコです。序盤の派手派手な前菜からは一転、シンプルなひと皿。肉そのものの味わいをしみじみと噛みしめる。岡田前の真骨頂とも言うべきステキなステーキです。「何か言った?」いえ、つい口が滑りました。
ステーキ、続く。こちらはサーロイン。脂の含有量が増え胃袋が悲鳴を上げ始めました。やっとの思いで食べきると、更に追加の追い肉があり、冷や汗が出始めます。隣のカップルも頭に手を当てたままずっと動かない。
満腹で軽く気を失っていると、タケノコごはんが出てきました。もう食えねえよと絶望していると、これが実に美味しい。肉の処理で疲れた内臓にエナジーを与え、脂を取り払ってくれました。当店流のグラニテです。

ちなみに「延長戦」と称して追加料金ですき焼きを食べているカップルが居て、他のゲストみんながドン引き。謎の連帯感。
〆の蕎麦。タケノコごはん同様、ゲスト全員が「まだ出んのかよ」という反応でしたが、食べてみると驚くほど美味。いわゆる1枚千円強を取る有名店に比肩するクオリティであり、何だかんだであっという間に食べきってしまいました。
デザートはチーズケーキにトリュフのアイスクリーム。このアイスクリームは美味しいですねえ。「ル・シーニュ(Le Signe)」のトリュフのアイスとは全く方向性が異なり、まったりと濃厚なトリュフの風味を楽しむ逸品。おかわりしたい。
内臓が熱を発し暴動を起こし始めたのでアイスコーヒーで鎮火。あまりの満腹さ加減にしばし放心状態。

コース料理にアルコールペアリングを付け、税サを含めてひとりあたり3.4万円。お料理だけだと2万円強であり、その価格設定の割に高級食材を気前良く放出しており、お値段以上の食べ応え。

序盤のイクラやらキャビアやらトリュフやらは場外ファールとも言うべき組み合わせでありSNS映えを狙いすぎた感がありますが、そうさせているのはゲストの時代精神なので責任の所在を論じるのは難しいところ。お金にできることなんて大したことないのだ。
お土産にローストビーフサンドイッチに牛タンシチューも頂けました。どひゃー、これは嬉しい悲鳴。このように、大食漢の私であってもギブ一歩手前のボリューム感なので、普通の女の子であればネブカドネザルの鍵でも手に入れていない限りまず食べきれないでしょう。量を少な目に調整しお持ち帰りもさせてくれるようなので、きちんと戦略を立てて臨んだ方が身のためです。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
焼肉ではなく、洋風の肉料理をまとめました。ステーキやローストビーフがテンコ盛り。赤ワイン片手にガブガブ楽しみましょう!
レストランでの火入れを家庭で再現することに主軸を置いた稀有な本。「焼く」「揚げる」「ゆでる」「蒸す」「煮込む」「混ぜる」「漬ける」など、基本的な調理ほど論理的に取り組む必要があることを得心しました。肉の基本。これを知ると知らないでは大きく姿勢が異なります。

レヴォ(L'evo、宿泊)/利賀村(富山)

2021年最も話題のフランス料理店「レヴォ(L'evo)」。「リバーリトリート雅樂倶」というリゾートホテルのメインダイニング時代にお邪魔した際、私の琴線に触れまくり。このたび独立・移転の運びとなったということで、さっそく予約を入れました。
公式ウェブサイトの「アクセス情報」に、
  • 山間部のため、道路工事や大雨などの事情で、通行止めとなることもあります。
  • 冬季は、北陸屈指の雪深い地域となります。お車でお越しの際は、スタッドレスタイヤまたはタイヤチェーンが必要です。4WD車をお勧めいたします。
  • 初夏は、深い霧が発生することもあります。
  • 携帯電話の電波が届きづらい区間があります。また、夜間の電灯が全くない区間があります。
  • レヴォは、小さな橋を越えて、細い急坂を上った場所にあります。大雪などで運転が困難な際は、近隣の「そばの郷」からご連絡ください。
と、フランス料理店とは思えないハードボイルドな注意書きがあり、すっかり怯え切った保守的な私は6千円の追加料金で送迎をお願いしました。お迎えの車は1日1便。最寄りのJR越中八尾駅から車で50分ほどです。
ガードレール抜きの狭い狭い山道を抜け到着。おおー、マジで何にもない。「ガスや水道を通すところから~」のような記事を読んだことがあるのですが、なるほどその工程にも納得の何にもない立地です。時折ダムの放水のサイレンが鳴り響くのが実にシュール。
さっそくチェックイン。開業したばかりで不慣れなのか、そもそもレストラン付随の宿泊施設という位置づけだからか、チェックイン時のオペレーションは洗練されていません。色々と待たせるなら待たせるで、ウェルカムドリンクを用意するなりすれば良いと思うのだけれど。
お部屋は1棟独立のコテージタイプで50平米ほどの広さ。ぽかんと広いワンルームでシンプルな構成です。窓が大きく水墨画の世界の中で寛ぐことができます。雨や雪がよく似合う。
電波は届かず、コテージにはwifiは通っていないため、完全に外界から隔絶された「かまいたちの夜」状態。デジタルデトックスと言えば聞こえは良いものの、インターネット前提のライフスタイルを送っているギャルたちには辛いかもしれません。コンセントの数も少なく取り回しも悪い。
畳の小上がりにベッドが敷かれています。天井の脇がガラス窓になっており、月や星を愛でながら眠りにつき、太陽光と共に目覚める。この空間設計は実にロマンティック。
お風呂は一般的なホテルのバスルームといったところ。アメニティは必要最低限であり、水勢もいまいち(そもそも水道が通っていない!)。ホテルというよりはバケレン、もっと言えばグランピングに近いテイストです。
お手洗いはしっかりしていて現代風。ウォシュレットに飼いならされたアーバンな私としては心安らぐひとときでした。
お風呂は普通ですが、なんと時間予約制の貸し切りサウナ小屋があります。インターネット環境よりもサウナが優先される世界。
薪ストーブでチンチンに熱された石(?)にセルフで水をジャバジャバかけて蒸気がジュワーという仕組み。私はサウナについて詳しくなく、エベレストたる「サウナしきじ」だけ行ったことがあるというミーハー野郎なので、サウナの良し悪しについての意見は差し控えます。
さて夕食。当テーマパークの最重要コンテンツです。詳細は別記事にて。
朝食は意外にも和定食。たっぷりの山菜や鹿肉のしぐれ煮、シシ汁などコンセプトをはっきりと打ち出したものでした。ただ、美味しいは美味しいのですが、この朝食がサービス料を含めると4千円を超えるのは高いなあ。
1泊2食に食事の際のアルコール、駅までの送り迎えなどをつけて支払金額は2人で16万円。うーん、ちょっと、いやかなり高いですね。「リバーリトリート雅樂倶」時代はハコも立派で収容人数も多く規模の経済が働いていたからかリーズナブルに感じましたが、今回は料理は申し分なし、酒は賛否両論、宿泊施設としては極めて割高、という印象です。
もちろん山を切り開いて作ったオーベルジュという意味では正統な価格であると私は納得していますが、東京からの交通費を含めて考えると、ちょっとした海外旅行級のコストとなるため、きちんと使命やレゾンデートルなどに賛同した上で訪れる必要があるでしょう。
いずれにせよ、尖りに尖ったローカル・キュイジーヌ。ここまで攻め切る姿勢には脱帽し敬礼せざるを得ない。大変に意義のある試みであり、費用対効果を論じるのは野暮なのかもしれません。とにかく富山の食材や工芸品に拘っているので、富山県へのふるさと納税のつもりでどうぞ。

食べログ グルメブログランキング

関連ランキング:フレンチ | 城端


人気の記事

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

広尾はしづめ/広尾

高名な中華料理店がこぞって利用する「橋爪製麺」の中華麺。創業70年の「橋爪製麺」が自らが経営する「麺が主役の中華料理店」を広尾にオープン。自身もミシュラン1ツ星を獲得し、食べログでも百名店に選出されています。
L字型カウンターにテーブル席がいくつか、個室がひとつといった小体なお店。ランチタイムのメニューは麺料理のみであり、フレーバーを選択した後は「ごぼう麺」「翡翠麺」「椎茸麺」「山椒麺」「刀削麺」「コラーゲン麺」など使用する麺をチョイス。大盛りは無料と、さすが製麺屋なだけあって気前が良い。
サイドメニューとして北京ダックを注文することができます。これが決してオマケどころのレベルではなく、きちんとした中華料理店で食べるそれに比肩する味わいであり、この1本が350円というのは北京ダック業界において衝撃でしょう。
真打登場「粗挽き肉味噌の担々麺」です。痺れと辛味がバリバリ系とは異なり、ゴマの優しい味わいにハッキリとした酸味を感じる上品な1杯。私は担々麺は暴力的な味覚のものを好むのですが、たまにはこういった母性を感じるスープも良いものです。
さすがに麺が旨い。刀削麺って部位によって厚さが異なるから茹で加減とか難しそうなものですが、それらのハンデを一切感じさせないパーフェクトな歯ごたえ。グニグニもちもち麺そのものの美味しさに麺食らいました。
担々麺に北京ダックを付けて1,650円。ミシュラン1ツ星の味覚をこの価格で堪能できるとは最高かよ。こんなに美味しいなら時短営業中限定のお得メニュー「たっぷりフカヒレ麺コース」にすれば良かったな。百合子がいらんことしてるうちにもう一度行こかな。

食べログ グルメブログランキング

関連ランキング:中華料理 | 広尾駅


関連記事
広尾は初デートに良い街です。謎にハイセンスな雰囲気と下町的な親しみやすさが同居する。飲食店も都内トップクラスの名店が比較的リーズナブルな価格設定に落ち着いています。


「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

ひがし食堂 Jr. /おもろまち(那覇)

名護の人気店「ひがし食堂」の姉妹店が那覇に出店。場所は新都心公園内、沖縄県立博物館・美術館の裏手。昔は「いしぐふー」という沖縄そば屋が入っていた場所です。
「いしぐふー」から内装は変わっておらず、店内にテーブル席がいくつかにカウンター席。また、テラス席は結構広い。かき氷やぜんざいで名を馳せたお店なので、テラス席が広いのは雰囲気があっていいですね。
私は「軟骨ソーキそばセット」を注文。850円です。単品だと700円で追加の150円で「おにぎり・目玉焼き・唐揚げ・メンチカツ」が付いてくるとあったので、どれかを選択するのかと思いきや全部やってきました。これが沖縄である。
主題の「軟骨ソーキそば」。麺は平たくツルツルとした食感です。スープはカツオ出汁が強く味濃いめ。白眉はソーキ。可食部が多く、また、しっかりと味が染み込んであり、そばよりも酒のツマミのほうが向いているんじゃないかと思えるほどの迫力です。
セットの面々。揚げ物は恐らくは冷凍ですが、プラス150円でこれだけ付いてくるのだから文句はあるまい。小食なOLであればセット部だけでランチ終了になりそうなほどのボリューム感です。
850円という支払金額を考えれば大満足の質ならびに量でした。何よりロケーションが最高で、天気の良い日にテラス席でかき氷をつつきながらダベるとか最高でしょう。新都心公園へのお散歩ついでにどうぞ。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
1年で10回は沖縄を訪れます。1泊15万円の宿から民宿まで幅広く。
沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。