pesceco(ペシコ)/島原(長崎)

長崎県は島原市の海沿い、熊本市のお向かいにある「pesceco(ペシコ)」。車なら長崎市や長崎空港からは90分ほどを要するのですが、そんな僻地(失礼)に食べログ4.34(2021年2月)でシルバーメダルを獲得、ミシュラン1ツ星という名声を得るお店があります。海岸線沿いに佇む真四角の外観が印象的。
店内はテーブル席をふたつ配したダイニングルームと大理石のシェフズテーブル席の2パターン。前者には空と海を切り取った窓があり超素敵。明るく清潔な印象であり、感じの良い接客を含めて居心地の良い空間です。
井上稔浩シェフはご実家が地元島原で鮮魚店を営んでおり、魚の目利きはお手の物。お父様と居酒屋を開いたり、島原の街でカジュアルイタリアンを営んだりした後、海沿いのこの地へ移転。若手の料理大会「RED U-35」2019ではGOLD EGGを受賞しています。
私は運転があるので自家製の発泡ジュースを。ソフトドリンクは500~600円程度でありハンドルキーパーに優しい。ちなみに駐車場はお店の真ん前にたっぷりあるのでご安心を。
アミューズ3品。いずれも作り置きではなく客が来てから着手する手の込んだものであり、サツマイモのお団子とアジのお団子が特に心に残りました。あー、この揚げ物はビールでスカっといきたかった。
続いて牡蠣。地元のものを牛乳でどないかした上で、火を入れたネギをあしらいます。牡蠣特有のエグ味などは消え去り、海のミルクというかミルク漬け的濃厚な味覚です。
泡でブクブクした外観で何やらわからないでしょうが、この料理が絶品。歯ごたえの良い生のオコゼにウニ、お米が組み込まれており、頭を抱えるほどの美味しさです。調味に魚醤を用いたりごま油で風味づけしたりとセンス抜群の一皿でした。
こちらはガンバ。島原地方の方言でフグのことをガンバと呼ぶそうで、所謂てっさ→唐揚げ→てっちり的なアプローチとはまるで異なる新境地。フグをムシャムシャと贅沢な料理です。
島原名物の素麺をハムのお出汁で。素麺はまあ素麺ですが、深みのあるスープに芝海老の甘味と旨味が堪りません。
タイのフリットを生ハムでミイラのように包みます。揚げたてサクっとした食感に、生ハムの塩気と旨味が調味料がわり。シンプルですが飽きの来ない美味しさです。
ワタリガニは2品構成。手前はカニミソをベースに細いパスタを和えるのですが、思いのほか酸味が強く、濃厚で鮮烈な味わいで高まる。右上はカニの身にカニの卵がたっぷりと組み込まれており安定の美味しさ。正直なところ、「川㐂(かわき)」の6万円のカニ料理よりも余程レベルが高いです。
パンは自家製。素朴ですが深みがありしみじみ美味しい。
酒蒸しのアワビ。見た目通りの美味しさなのですが、手の込んだソースが色々と塗布されており、ちょっと味が多すぎる気もしました。そのままで充分なのに。特に肝のソースにニンニクの風味は不要に感じました。
メインは網獲りの青首鴨。こちらも上質な肉であることは重々承知しているのですが、これまでの魚介料理が高次元であっただけに、当店でアオクビを食べる必要性を感じませんでした。「Abysse(アビス)」のように魚介類に絞るのも特徴づけとしてアリのような気もします。
〆は先のカモと田ぜりの雑炊。肉のエキスがじんわりと米に溶け込み、ある意味では鴨本体よりも美味しく感じました。畢竟、日本人とは米なのだ。
デザートは濃厚でジューシーながら軽いミルクのジェラートにフレッシュなイチゴ。いずれも高品質な素材が前提のスイーツであり、王道の美味しさです。
ハーブティーで〆。この日のハーブはガパオライスに乗ってそうな葉っぱであり、タイ料理のように爽やかな後味が面白かったです。

お会計は酒抜きで2万円強。ワインのペアリングを付ければ余裕で3万円を超えてくることを考えるとちょっと高いかなあ。それでもこれだけの素材を都心で食べれば値段が派手派手になることを考えればナイス島原といったところでしょう。
ところで当店はよく「イノベーティブ」と称されることが多いですが、個人的にはそうかねえという感想です。私の中で「イノベーティブ」とは正攻法で戦えなくなった店が苦肉の策として見出す逃げの一手であり、妙ちくりんなだけで全然美味しくないことが多いのですが、当店は普通に美味しく、素材に忠実な料理に思えました。

ところどころテンポが悪く、力が入りすぎに思えるところもあり、もっと肩の力を抜いて(良い意味で)手抜きしていいのにな、という場面もしばしば。次回は数年後、円熟味が増したころに改めて訪れたいなと思いました。

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